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【中学サッカー進路特集:第4回】育成のスペシャリスト・大槻邦雄さんインタビュー(後編)

特集「中学サッカー」第4回は、前回に引き続きジュニア~ユース年代の育成のスペシャリストである大槻邦雄のインタビュー後編をお届けします。幼児から大人まで、年代に応じて幅広く指導にあたっている大槻さんから、この年代の特徴や育成の在り方、サカママのギモンについてお答えいただきました。
前編では中学年代のチーム選びに必要な“三角形の考え方”について紹介しましたが、後編では本題である中学年代の育成についてお話を伺いました。これからお子さんが中学に上がる方、今現在中学でプレーしているサカママ必読です!

社会が広がり、「社会性を育む」ということ

中学サッカー進路特集

-大槻さんには以前、ジュニアの育成についてお伺いした際、「子どもが子どもらしくいれる時間が大切で、ジュニア時代は生活のベースを作っていくことが大事」とおっしゃっていました。中学年代についてはいかがでしょうか?

「小学生には『自分のことは、自分でやりましょう』と言い聞かせることがあります。これが、小学生から中学生に成長し、社会が広がることで『チームでの役割、チームで何を達成するか』に目を向けていくことになります。社会が広がり、関わる人が増え、行動範囲が広がることで、社会からの目が自分に向けられることになるでしょう。そこに適応できる人材にならなくてはいけません。つまり中学年代では“社会性”を育む必要があります」

-中学にステップアップすると、行動範囲は一気に広がりますね。

「電車に乗って移動すると思いますし、社会を意識する必要に迫られます。公共交通機関を利用する時、カバンが通行の妨げになっていないか、車内での過ごし方や飲食など、社会のマナーに反する行動をしていないか。そういった状況での指導、働きかけが中学年代ではより必要になります。中学生になることで、心と身体が大人へと変わっていき、大人の言うことを『なんでそうなの?』と素直に受け入れられなくなるでしょう。自分の思いと考えの周囲とのズレにイライラしてしまったり、精神的に不安定な時期だからこそ、大人が向き合ってあげることが大事になります」

-生活面もそうですが、チームワークもより必要になってきますね。

「そうですね。例えば自分が攻撃したくても、今チームとして守らなくてはいけない時間だったら、『守ろう』とポジティブにみんなに声を掛けられるのかどうか。どう伝えれば仲間が動くのか、個人だけではなくチーム全体を意識できるのか。そういった要素はサッカーの場面だけで求めても、難しいのではないかと思っています。内面的な成熟度が高くなると、状況を察知する能力が敏感になっていくような気がしています。例えば『あの子は周りが見えている』と言われる選手がいますよね? そういった“気づき”ができる選手を、僕は日常生活での働きかけで育めると思っています。しかし、それはすぐできるものではありませんから、子どもたちとしっかり向き合い、継続的に内面的な成長を促していく必要があるでしょう」

-中学ではサッカーに戦術の要素が入ってきますが、そこも社会性とリンクしていくものでしょうか?

「そうですね。中学になると仲間との関わりで状況を打開してく回数が、小学生に比べて断然増えていきます。仲間とプレーする意識、周囲への気付きに欠けていては、チームの戦術行動がスムーズにとれません。『メッシ、ネイマールはあまり走ってないじゃん!』と子どもに言われることもありますが、彼らを生かすために、チームとしての負担を補っている選手がいるわけです」

-そうですね。

「“大人のサッカー”とは、人との関わりが多くなることだと思います。子どもにとって、サッカー用具を買ってくれて、食事の準備、洗濯をしてくれるのはすべて親ですよね。これを大人の世界で成立させるためには、グランドキーパーさんがいて、用具をメンテナンスしてくれる方がいて、スポンサーさんがいて、観戦するお客さんがいて、その他、関わる人がどんどん増えていくわけです。そこを理解させていく。感謝をすること一つをとっても、その仕組みを理解し、心から『ありがとう』と思わせなくてはいけないんです。サッカーの技術の習得や戦術を理解することはもちろん大事ですが、そのベースとなる社会性を身に付けていくことを、中学年代では大切にしてほしいですね」

組織に個を埋没させるのではなくて、組織が個を活かしてあげる

中学サッカー進路特集

-仕組みを理解する、つまり物事の本質を理解するということでしょうか。

「そうですね。上辺だけ教えているようだと、何かあった時に崩れるのは早いと思います。サッカーのやり方ばかりを教えるのではなく、仲間とサッカーをすることの意義と楽しさを伝えてあげる。そしてチームの中に特筆した『個』が強い選手がいるのであれば、それをチームが生かすことが必要だと思います。例えばすごく足の速い子がいたとして、できないことを要求するのではなくて、得意なことを伸ばしてあげる。組織に個を埋没させるのではなくて、組織が個を活かしてあげる。それが成熟した組織だと僕は思います」

-個々のマイナスをゼロに持ち上げるのとは真逆の発想ですね。

「アベレージを上げることと、特長を伸ばすのは違う作業です。特長をもっとよくしてあげるために、どうするかをチームが一緒になって考える。『君はここがすごいね』と一言いってあげられることが重要です。しかし、ドリブルが得意だからといって、そればかりやらせるのは違います。あくまでチームの中で個を生かすことが重要で、個人がチームの中でさらに輝けるようにする働きかけが必要だと思います」

-中学年代ではそれまでできたことができなくなることもありますね。

「クラムジーと呼ばれる現象ですね。個人差はあると思いますが、身長が伸びて重心の位置がズレてしまい、身体をうまく動かせないことがあります。中学生になったら身長を2週間に一回は計ってみるといいと思います。そうすれば『今は伸びている時期なんだ』と自覚できるはずです。中学年代では、短期間で急激に身長が伸びることもありますから、本人が成長期であることを把握し、保護者はどんな栄養素を摂ればいいかを考える必要があると思います。また、激しい運動で関節を摩耗すると、急激な成長の悪影響になることもあるでしょうから、身体を休めることも必要になると思います。中学年代は身体をつくる大事な時期ですから、子どもがどんな状態であるのか親が考えることも重要です」

スポーツを通して磨かれる教育とは?

中学サッカー進路特集

-勉強との両立に関してはいかがでしょうか? 練習場までの移動距離、週末の試合、さらに塾などの習い事まで考慮すると、中学生は本当に忙しい一週間を過ごすことになります。

「高校進学を視野に入れると、勉強時間の確保は必要です。昔は試験休みが一週間くらいありましたが、今は学校により試験時期がバラバラになっていることも多いです。リーグ戦は毎週続いていきますから、まとまって勉強する時間がない。そうなると日頃から勉強をするクセを付ける必要があります」

-一夜漬けではなく勉強を習慣にするということですね。

「僕は小学生を指導するときに『練習が休みの日に1時間だけ、勉強するクセをつけよう』と伝えています。例えば練習が休みの日の17時~18時の一時間だけ、簡単な算数でも漢字ドリルでも、集中して行う。難しい勉強をしても続かないですからね。そうすると中学生になっても、毎日勉強をする姿勢が身に付きます。サッカーの練習が週に3日あるのであれば、休みの日の1時間だけは絶対に机に向かう。この生活サイクルは、小学生のうちからできることです。このサイクルが身に付けば、試験休みがなくても対応できますし、サッカーと勉強の両立ができるようになるはずです」

-サッカーをはじめ、スポーツは人間形成の育成という側面もありますね。

「いえ、スポーツの育成が、人間形成の育成そのものだと思っています。この前、僕の指導している高校生が海外遠征に行きました。こちらからは海外遠征の目的、狙いを明確にした上で、その国の文化や習慣、教育やサッカーなどいくつかのキーワードを渡してグループで事前学習を行い、それを発表するところまで行いました。形式は求めませんでしたが、彼らはPowerPointや資料を作り、動画まで組み込んで、本当に素晴らしい発表をしてくれました。加えて海外遠征中はそのグループで街を散策したり、買い物をしたり、食事をしたりと自分達で計画を立てて行動するようにしました。課題や問題をクリアしていくといった意味では、サッカーと違いはありません。サッカー以外の部分でのアプローチによって、お互いの違った『良さ』を理解したり、認識をしたり、意見が違うことを受け入れたりと、チームとしての本当の意味でのまとまりが作り上げられたような気がしています。コミュニケーションが活発になり、オープンマインドになったことでお互いを認め合うことにつながったのかもしれません。もともと『外からどう見られているか?』という他者評価を気にし過ぎる傾向があったのですが、遠征を通して自分の意見をはっきりと伝えたり、さまざまな外的要因を受け入れられるようになったと思っています」

-興味深いお話です。彼らは高校生ですが、中学生で社会性のベースを身に付けることが、上のカテゴリーでさらに重要になることがよくわかります。

「そうですね。中学生で社会性、考えるベースを身に付け、高校では自ら想像し、表現し、問題があったら自分たちで紐解いていく。そうやってサッカーを通じて社会性を身に付けていけば、大学、社会に出ても自分で解決できる力が身に付くようになると思います」

親と指導者の適度な情報共有が必要

大槻邦雄さん

-中学年代の親の接し方、距離感についてはいかがでしょうか?

「中学生は親が言っても聞かない年頃でもあると思います。チームとしても、少しでも関わってあげる必要があるかもしれませんね。影響力のある指導者の話は、心に届くと思います。一方でご両親からも、一言、二言、声を掛けてあげる。ネガティブなことよりもポジティブな部分を見つけてあげることが良いでしょう。中学年代は親にも悩みをしゃべらない年頃と言われていますが、お母さんたちもそれにイライラしないことです。コーチとも家庭での様子を共有すると良いかもしれません」

-親は指導者とコミュニケーションをとるべき?

「お子さんを預かっている訳ですから、何かあったら指導者の方から様子をお伝えする必要はあると思います。指導者、ご両親がお互いにリスペクトした関係性の中での、適度なコミュニケーションは必要だと思っています」

-中学生にもなるとスマートフォンの存在も無視できないですね。

「中学年代のスマートフォンは、使用を規制すべきでしょう。ゲームをやりすぎて睡眠時間が削られている子がたくさんいると聞きます。チームとしても目を向けるべきだと思いますが、これは親が管理するべきだと思います。ツールが増えて、便利にはなりましたが、使い方によっては良い影響にも悪い影響にもなります。強制的に禁止にしても子どもたちは隠れてやるようになりますから、正しい使い方を提示してあげることが大事だと思います」

-最後に小学校高学年、中学年代のお子さんをサポートするサカママへ向けメッセージをお願いします。

「中学年代になると、行動範囲が広がり、関わる人が増え、社会との接点が多くなります。サッカーの技術の修得や戦術の理解も大切ですが、人に対するマナーや礼儀、多様性を受け入れることなど、少しずつ社会性が求められていきます。それがベースにないと、自立した選手に成長はしないと思っています。もちろんすぐにできることではないので、日常から言い聞かせていく必要があります。例えば、マナーはルールとは違うので、箇条書きにしても出てきません。その場にいる人や状況によって変化していきますから、人を不快にさせないことは何か、をキャッチできる人間になってほしいと思っています。そういった思考が、サッカーにおいても状況を理解する力につながっていると思うのです。保護者はお子さんの内面的な成長にしっかりと目を向けて、支えてあげてほしいと思います」

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