「楽しい」から「勝ちたい」サッカーへ。ロンドン日系女子チームの成長物語
サカママ読者の皆さま、こんにちは。今年の1月からサカママコラムを担当し、残すところあと2回となってしまいました。
筆者は小5の息子を持つサカママですが、実はロンドンの日系ガールズチームのコーチでもあります。しかし、これまでガールズチームのことをほとんど書いていなかったことに気がつきました。
ということで、今月のコラムは、私の担当しているガールズチームについてご紹介しようと思います。
女子チームの始まり
そもそも、筆者がコーチを務めるフットボールサムライアカデミー(以下サムライ)のガールズチームは、2024年5月に発足しました。筆者はチームの立ち上げ時からではなく、昨年9月からコーチを務めています。今はコーチ3人体制でガールズチームを担当しています。1年前の練習参加者は平均5、6人でしたが、今では約20人に増えました。下は5歳から上は14歳まで、幅広い年齢の子がいます。
初めのうちは、子どもたちはみんなサッカー未経験。試合に出るという発想は、その頃は誰も持っていなかったと思います。コーチをする側としても「とにかく仲間と一緒にサッカーを楽しんでもらう。サッカーを好きになってもらう」ことを意識していました。
ドリブルやパスの練習よりは、遊び感覚で楽しめるような陣取りゲームや、マッチを多めにした練習を実施していました。子どもたちはやはりマッチが1番好きで、「マッチはまだ? いつやるの?」と毎回訊ねてくる様子がとてもかわいいです。
しかし、毎週練習を重ねていくうちに、子どもたちはどんどん成長していきます。遊びの延長のままという子もいますが、メキメキと上達する子も。人数が増えれば、当然、個々のレベルにも差が出てきます。参加者が10人を超えた頃から、レベル別に2つのグループに分けて練習するなどして、少しずつレッスン構成や内容を変えていきました。
レベル別に分けたことで、それまでの練習では積極的に動いていなかった子が、自ら声を出してボールを追いかける姿を見せる、といった変化が見られました。やはり、それぞれの発達段階に合わせた環境を作ることは大切なのだと感じた出来事です。

男の子と女の子の違い
ちなみに、男の子と女の子とでは、やはり性格に大きな違いを感じます。
男の子は全体的に競争心が強く負けず嫌い。一度ボールを持ったら自分でシュートまで持っていく。自分のミスよりも、他人の失敗に厳しくダメ出しをする。そんな傾向が強い印象です。
女の子の場合は、自分で前に運ぶよりも、周りを見てパスをつなごうとする。ミスをしたときには「ごめんね」と自ら謝るなど、より協調性があると感じます。
もちろん、男の子の中にも穏やかでチームプレーを好む子もいれば、女の子の中でも自らガツガツとボールを運んでいく子もいますし、年齢によっても異なります。でもやはり、全体としては、男女の性格の違いというものはあると思います。
筆者は基本的にはガールズチームのみを担当していますが、長期休みのレッスンなどではボーイズを見ることもあります。ガールズとボーイズでは、レッスンが終わった後の疲労感が全然違います。どちらがより疲れるかは…もちろん後者です(笑)。
新規女子リーグへの挑戦!
今年の春頃、秋から地域の女子リーグが新設されることを知ります。コーチ陣は盛り上がり「リーグに参加して試合ができるよ!」と子どもたちに声をかけました。しかし、多くの子どもたちの反応は「別に他のチームと試合したいっていうほどじゃないんだけどな〜」というものでした。保護者の方にとっても、日曜日に試合が入ることで負担がかかる可能性もあります。加えて、年齢別のチームを作るには人数が足りない、という問題もありました(イングランドでは年齢別にカテゴリーが細かく分けられます)。
しかし、やらない理由を探すよりも、まずは挑戦してみよう。リーグに参加してみれば、選手たちの気持ちも変わるかもしれないし、新規メンバーも入ってくるかもしれない。ということで、半ば見切り発車の状態でリーグ参戦を決めました。予想通り、リーグが始まったタイミングで、運よく新規メンバーが増えました。それでも足りない分は、若いカテゴリーの選手に、年齢より上のカテゴリーで出場してもらうことで補っています。
新設リーグで参加チームが少ないこともあり、リーグ運営側も柔軟に対応してくれています。例えば、本来はU13のチームであれば11人制、フルサイズのピッチで試合を行います。しかし、対戦チーム同士の合意があれば人数、ピッチサイズ、ルール、試合時間を変更しても良いことになっています。実際に、これまでの試合は6人制で実施しました。こういった臨機応変な対応にとても助けられています。

練習とは全く雰囲気の異なる公式戦
迎えた初めてのリーグ戦。選手たちは、やはりとても緊張していました。出だしから動きが固く、声も出ない。練習でならできていることが、試合ではできない。そんな姿を目の当たりにして、コーチ陣は歯がゆさを感じずにはいられませんでした。
一方的な展開で押されていたものの、少しずつ良いプレーも見られるように。体の大きな相手に怯むことなくプレッシャーをかける選手、ライン際ギリギリまで全速力でボールを追いかける選手、それぞれが懸命に戦っていました。練習では見たことのないような真剣な表情も垣間見えました。
試合終了間際にコーナーキックを押し込み、1点を取りました。足で打ったシュートではなく、跳ね返ったボールがゴール前に詰めていた選手のお腹に当たって入ったゴール。きれいなゴールではありませんでしたが、前日にコーナーキックの動きを練習していたことが、実を結んだ瞬間です。
最終的には1-6で負けましたが、1点だけでも点を取れたことが、選手たちの自信になったことは間違いないでしょう。次はもっとできる、という期待を感じさせる試合でした。

リーグ戦2試合目は、夏に一度、親善試合をしたことのあるチームとの再戦です。
やはりこの試合でも固さが見られ、立ち上がり早々に相手チームの速いプレッシャーに対応できず2失点。その後も不本意なPKを二度与えてしまい、前半で4失点を喫します。
しかし、後半からは徐々に動きに変化が生まれます。緊張がほぐれてきたことで、それぞれの選手の良さが出はじめました。チームのエースがドリブルで攻撃を引っ張り、守備では速いプレッシャーをかけにいけるようになり、徐々にボールが回りはじめます。
エースの左サイドからのアシストを、攻守の中心選手がシュートし、ネットを揺らしました。流れの中で1点目を取ることができたことは、1つの大きな成果です。このゴールが決まったときの選手たちの笑顔は、本当に輝いていました。その後も、エースが自らのドリブルで切り込み、シュートまで持って行き、追加点を奪いました。
結果としては、2-5で負けてしまいます。しかし、40分という短い試合時間の中でさえ、選手たちは成長を見せてくれました。相手チームのコーチからも「夏に試合をした時よりも人数も増えてレベルアップしたね」と嬉しいお声がけをいただきました。

試合を経験して生まれた変化
実際にリーグ戦が始まり、対外試合を経験すると、子どもたちのサッカーに対する気持ちに少しずつ変化が起きます。
今も、「楽しい」からサッカーをしている子のほうが多いと思います。しかし、ただ「楽しい」から、「勝ちたい、上手くなりたい」に変わってきた子もいます。これはリーグ戦に参加し、対外試合を経験したからこそ生まれた変化だと思います。もちろん、ただ「楽しい」だけが悪いということではありません。しかし、勝ち負けにこだわることでしか育まれないもの、勝つからこそ得られる喜び、があることは事実です。
練習に参加しているメンバーの中には、試合に出ていない(年齢的に出られない)選手もいます。リーグメンバーが中心となって、試合に出ない選手も含めて、チーム全体の成長を後押ししてくれるのではないかと期待しています。

リーグ戦に参加したことで、コーチとしての自分の気持ちにも変化がありました。これまでは、「レッスン時間を楽しんでほしい。サッカーを好きになってほしい」という気持ちでレッスンを実施していました。もちろん今でも、それが第一優先であることは変わっていません。
しかし、やはり試合に勝つためには、選手一人ひとりが上達し、チームとしての連携を高める必要があります。リーグ戦が始まってからは、「選手たちがもっと上手くなるために、試合で勝てるようになるために、どういう練習が必要か」という点にも重きを置いて、レッスン内容を考えるようになりました。
一方で、そもそも筆者はほとんどサッカー経験がないままにコーチをしているため、自分の経験則からこういう練習が有効だ、ということをわかっていません。今までは「楽しそうな練習メニュー」をネットで探して、いろいろと試しながらやってきました。
でも、これからはそれだけでは不十分。チームとしての改善点、選手として伸ばすべきポイントなどを考慮した練習を考える必要があります。これを機会に、筆者自身もコーチとして一段上に成長しなければならないと感じています。選手たちが楽しみながらも上手くなるための、試合に勝つためのサポートができるよう、これからのレッスンに取り組んでいこうと思います。
将来、サムライから長谷川唯選手や清水梨紗選手のように、世界で活躍するなでしこ選手が巣立ってくれることを願って!
