ロンドンでのサッカー留学を通して見つめる、自分の歩む道
ロンドンにあるフットボールサムライアカデミーには、さまざまな目的や志を持った若者が、コーチや選手として日本からやってきます。彼らは、つい最近まで“プロ選手を夢見るサッカー少年”だった現サッカー青年。
前回のコラムでは、アナリスト(または監督)を目指している青年に話をお伺いしましたが、今回は、選手を目指す青年と、指導者を目指す青年のお二人に、“これまでとこれからのサッカーとの関わり方”についてインタビューしました。
※インタビューは2025年2月初旬に実施しました。
僕らの選んだ道 ~Vol.2 湯目悠眞さん、前田圭翔さん~
高校卒業後すぐに、選手としてプレイするためにロンドンにやって来た、宮城県出身の19歳、湯目悠眞(ゆのめはるま)さん。
大学を休学してコーチングを学びに来た、福岡県出身の21歳、前田圭翔(まえだけいと)さん。
お二人はコーチ仲間であり、半年間、寝食を共にしたルームメイトでもあります。彼らが今、歩んでいるサッカー人生はどのようなものなのでしょうか。
いつからサッカーを始めましたか?
- 悠眞さん:小さいころから、父や叔父に連れられて試合観戦には行っていたのですが、5歳のときにベガルタ仙台のサッカースクールに入ってプレイするようになりました。
小学校に上がってからは、スクールに加えて、高いレベルで練習するコースにも参加。そのころから“プロサッカー選手なりたい”と思っていましたね。
小学生のときにベガルタ仙台のアカデミーのセレクションを 2 回受けましたが、両方とも落ちてしまったので、中学年代は地元のサッカークラブに入りました。
楽しみながらもスイッチを入れるべきところはしっかりと集中して練習するメリハリのあるチームで、その雰囲気が気に入っていたんです。子どもながらに“監督の声掛けがいいな”と感じていましたし、サッカーの基本や戦術の重要性もしっかりと教えてもらいました。
監督は、僕の強みや弱みを理解した上で、どの高校を選ぶべきかアドバイスをくれましたし、良いチーム、指導者に出会えたと感じています。 - 圭翔さん:僕は小学2年生でサッカーを始めました。1年生のときに学童保育に通っていたんですが、同じ学校のグラウンドで毎週練習している地元のチームがあって、それを見ていて楽しそうだと思ったことがきっかけです。小学生のうちはずっとそのチームに所属していました。
5年生の時に1つ上の年代の試合に出る機会が何度かあり、それまでよりも高いレベルでプレイすることが楽しいと感じたんです。それで、やっぱり僕ももっと上手くなって“プロサッカー選手になりたい”と思うようになりました。5年生のころはセンターバックでしたが、6年生からキーパーに転向しました。
中学校では部活動としてのサッカー部に入部。部活だけでなくキーパースクールにも通い始めました。スクールでは毎回のレッスンにテーマがあり、その出来によってランク付けがされていたんです。僕自身は、毎回すごく頑張って練習に取り組んでいたのですが、いつも下の順位ばかりで“自分はダメなのかな”と感じたことも。でも、足元の技術がテーマのレッスンのときに唯一、上位にランクインしたことがあって、そのことは今でも覚えています。
進路はどのように選んだんですか?
高校進学から今、ロンドンに来るまでの経緯を教えてください。
- 圭翔さん:僕の場合、高校の進路を選ぶころには、プロサッカー選手になるという夢はもう諦めていたので、学力レベルで高校を選びました。プロにはなれなくてもサッカーは続けたいと思っていたので、高校のサッカー部に入部。高いレベルを求めるのではなく、楽しくサッカーができればいいかなと思っていましたね。
現役のころは自分でプレイすることが好きで、プロの試合もあまり観ることはなかったのですが、高3の夏に部活を引退したころからイングランドのプレミアリーグを観始めました。当時のプレミアリーグのクラブは、トゥヘル監督のチェルシー、クロップ監督のリバプール、ペップ監督のマンチェスター・シティなど、各チームにスタイルがあり、監督の采配や戦術によってチームの個性が大きく変わってくるのだと初めて認識したんです。それ以来、海外サッカーをよく観るようになりました。
戦術面に着目して試合を観ると、それまでとは違ったサッカーの面白さに気がついた。今は海外サッカーもJリーグも可能な限り多くの試合を観たいので、WOWOW、DAZN、U-NEXTなどいくつもの有料チャンネルに課金するようになってしまいました。
大学進学後は体育会にもサークルにも所属せず、たまに遊びでフットサルをする程度でしたが、機会があればコーチをやってみたいと思っていました。そうしたら、バイト先の人の紹介で小学生チームのコーチをやらせてもらうことになったんです。強くなることよりも楽しむことがメインのチームで、僕自身も子どもたちと一緒に楽しみながらやっていました。
次第に、もっと本格的にコーチングを学びたいと考え始め、海外で英語も勉強しながらコーチングを学べるところを探したら、ロンドンのフットボールサムライアカデミーを見つけたんです。イングランドサッカー協会認定コーチングライセンスの取得と、コーチングスキルを学ぶために、大学を休学して昨年9月から半年間、ロンドンに滞在しています。主にU-11(小学4・5年生)チームのコーチとキーパーセッションを担当しています。
- 悠眞さん:僕は地元仙台の強豪である聖和学園高校にサッカー推薦で進学しました。聖和学園はドリブルに特化したサッカーをすることで有名な学校で、中学のころから自分のキックの精度の高さには自信があったんですが、武器がひとつだけだと弱いとも感じていた。キックの精度に加えてドリブル突破できるスキルも加われば、自分はもっと強い選手になれると思ったので、聖和学園を選びました。
聖和のサッカーはどんな場面でも一対一を仕掛けるのが基本。中学でやってきた戦術重視のサッカーとは全く違い、自分のサッカー感をぶち壊されたような感覚もありましたが、それが大きな学びであり、自分が求めていたものでもあったので、聖和学園に進学して本当に良かったと思います。
高校卒業後は、アメリカに留学してプロを目指そうと考えていて、自分のプレイを集めた動画をアメリカの大学に送ったりしていました。でもある時、父が仕事の関係で知り合った人から、ロンドンの日系チームがあることを教えてもらいました。それが、今、所属しているロンドンサムライローヴァーズFCというローカルチームで、フットボールサムライアカデミーのトップチームにあたります。
イングランドでサッカーができるチャンスがあるなら挑戦してみたいと思い、アメリカではなく、イギリスに留学することを決意。昨年5月からロンドンに来ています。選手としてプレイすることがメインですが、コーチングもやらせてもらっていて、主にU-8(小学1・2年生)を見ています。
実際にイングランドでプレイしてみて、どのように感じていますか?
- 悠眞さん:今まではずっと人工芝のピッチでプレイしてきたのが、イギリスでは天然芝というか、冬場はほぼ泥のような状態のグラウンドなので、そこが大きく違います。人工芝と天然芝ではボールの動きが大きく変わり、その違いに最初は戸惑いました。ドロドロのピッチではドリブルで切り込んでいくよりもロングボールを使うことが多いのですが、聖和サッカーが染みついている僕は背後からボールが来るという意識が薄く、そこに順応する必要を感じています。
でも僕としては、聖和で培ってきたドリブル、一対一を仕掛ける気持ちは持ち続けていたいんです。それが僕の良さでもありますから。元々自信のあったキックの精度はこちらでも十分通用すると感じています。自分が“負けた”と感じる相手には、ロンドンでもまだ出会っていないですね。試合中に骨が折れたことはあっても、サッカーで負けて心が折れたことは一度もありません!
- 圭翔さん:僕から見ても、悠眞は自信を持ってプレイしているなと思います。自信がなければ一対一は仕掛けられないし、実際に仕掛けていって相手を抜いていくので、そこがすごい。
- 悠眞さん:圭翔が言ってくれたように、今は自分のプレイにまだまだ自信があります。自分本来の良さをしっかりと出すことができれば、もっと上のレベルにいけると思うので、自信がへし折られるまでは、サッカー選手として挑戦すると決めています。
イングランドではリーグ4部からがプロとされているので、まずはそこを目指したい(※現所属チームはリーグ10部)。サッカーを始めたころから今にいたるまで‟サッカーが好き”という気持ちはどんどん大きくなっているので、とにかくずっとサッカーを続けていたいんです。
自分自身が選手として活躍することが最優先ではありますが、コーチングもできるだけ続けたい。子どもたちにわかりやすく伝えるために、今まで自分が感覚的にやってきたことを言語化するプロセスは、自分のサッカーを再確認しているようなもの。子どもたちから教わることもたくさんありますし、アカデミーでのコーチングの時間は、すごく貴重な時間です。
悠眞さんは今でも“プロサッカー選手”を目指しているんですね。
圭翔さんも今後の目標はありますか?
- 圭翔さん:僕はまもなく帰国しますが、まずは元々コーチをやっていたチームに戻って、ロンドンで学んだことを還元したい。元のチームでは低学年を担当していましたが、こちらでは高学年を任せてもらい、各年代によってできることや目指すサッカーが変わってくるということを実感したので、できれば幅広い年代のコーチを経験してみたいです。
イギリスでは、フットボールサムライアカデミーのように、小さい子どもから大人のトップチームまで全カテゴリーを持つクラブが主流ですが、日本にはまだそういうクラブが少ないので、将来的にはそんなクラブを運営してみたいと考えるようにもなりました。
具体的なビジョンや目標はまだありませんが、日本サッカーを強くするために、さらにはサッカー文化を日本にもっと根付かせるために、選手の育成という観点から関わっていけたらいいなと思っています。
- 悠眞さん:僕もそれは考えていました。日本とイギリスをまたいで活動するクラブがあってもおもしろいですよね。僕のように高校からそのままイギリスに来るケースは、今はまだあまり多くないですが、そういうパイプができて若いうちから海外でプレイできる機会が増えれば、日本サッカーはもっと強くなっていけるんじゃないでしょうか。
イギリスで生活していると、本当にサッカーが文化として根付いていると感じますよね。こちらに来てみて良かったと感じることはありますか?
- 悠眞さん:サムライで出会った仲間は志の高い人が多く、今までの自分にはなかった視点からの意見を聞くことができて、たくさんの刺激をもらっています。今、コーチ仲間とルームシェアで暮らしているのですが、一緒にプレミアリーグの試合を観たり、子どもたちの試合の振り返りをしたり、いつでもサッカー談義ができるのが最高ですね。ロンドン生活でのすべての経験が、自分のサッカー人生にとってプラスになっていると感じます。
- 圭翔さん:日本にいたら出会うことのなかった人との出会いが、大きな収穫です。上下関係がなくフラットに意見を交わし合えるコーチ仲間はもちろんですが、保護者の方と接する機会も多く、幅広い年代の方と話をさせていただいたことで知見が広がりました。
また、トップチームは現地の選手が中心なので、彼らと話すことで英語の勉強にもなりました。僕の好きなチェルシーの試合だけでなく、たくさんの試合を生で観られたことも本当に嬉しかったですし、ロンドンに来て良かったことばかりですね。 - 悠眞さん:僕と圭翔は半年間ずっと一緒に生活してきましたが、全くタイプが違うので、もし同じ学校にいても仲良くならなかったんじゃないかと思います。同じクラスにいたら『あいつうるせぇ』って圭翔に嫌われてたかも(笑)。
- 圭翔さん:僕もそう思う(笑)。ここで出会ったからこそ親しくなれたのかな。
フットボールサムライアカデミーについてもっと詳しく知りたい方は、
HP、Instagramをご覧ください。
インタビュー後記
二人を見ていると、友達というより“同志”という印象を受けました。悠眞さんは今もプロサッカー選手を目指し、圭翔さんは指導者の道を考え始めている。それぞれの目標は違っても、“サッカーが好き”“日本サッカーを強くしたい”という同じ志を持つ仲間として、これからも頑張ってほしいです。
レアル・ソシエダの久保健英選手のように、幼いころから海外のビッグクラブの下部組織に所属する選手もいますが、悠眞さんのように、高校卒業後に海外のローカルチームに入ってプロを目指す、という道もあるんですね。
これからの時代はさらに多くの可能性が広がり、子どもたちの将来の選択肢はきっと、私たちが想像するより多様性に満ちたものになっているのではないでしょうか。