プロサッカー選手になる、だけが道じゃない! 僕の選んだサッカー人生
サッカーキッズなら、誰もが一度は「プロサッカー選手になること」を夢見ますが、それはいつごろまでなのでしょうか? 元サッカー少年、現サッカー青年に、これまでとこれからのサッカーとの関わり方について聞いてみました!
サカママ読者のお子さんに
「将来の夢は?」
と尋ねると、きっと多くの子どもが
「プロサッカー選手!」
と答えるでしょう。サッカーを始めたばかりの子が、日本代表選手や海外のスター選手に憧れ「自分も同じようになりたい!」と感じることは、ごく自然なことですよね。
私たち保護者も、そんなまっすぐな子どもたちの夢を応援したい、わが子にサッカー選手になってほしい、そう思うのもまた自然な流れではあります。しかし、大人になって純粋さを失ってしまった私たちは、
「プロになれる子なんてほんの一握り。プロ選手以外の道も考えてほしい」
「アカデミーやジュニアユース選抜に入れなかったうちの子がプロ選手になるなんて無理」
「ケガをしてサッカーができなくなったらどうするの」
なんて夢のないことをつい考えてしまいがち。わが子を心配するがゆえの親心ではあるのですが…
ただ純粋にサッカーを楽しんで、プロ選手になることを夢見ているのは、小学生か中学生くらいまでなのかもしれません。その後、わが子がどういう道を歩んでいくのか、変わらずサッカー選手を目指しているのか、違う形でサッカーに関わっているのか、別の道を歩んでいるのか、全く想像がつかないですよね。
今回は、筆者が所属するロンドンの日系クラブ「フットボールサムライアカデミー」に日本からやって来た、つい最近まで「サッカー選手を夢見る少年」だった青年に、これまでとこれからのサッカーとの関わり方について、お話を聞いてみました。
※インタビューは2025年1月末に実施しました。
僕の選んだ道 ~Vol.1 林健吾さん~
「日本代表ワールドカップ優勝」を実現するために
「僕の人生目標は日本代表ワールドカップ優勝」
と迷いなく応えるのは、表情にまだあどけなさの残る22歳の林健吾さん。目標達成を目指し、既にサッカーアナリストとしてのキャリアをスタートさせています。林さんがアナリストを志すようになった経緯をお伺いしました。
「プロ選手」を夢見たサッカー少年、ケガで夢を諦める
――幼少期のサッカー経歴を教えてください。
「幼稚園のころに父の勧めでサッカーを始めました。好きなチームはFCバルセロナ(スペインに本拠地を置くサッカークラブ)。他の多くのサッカーキッズ同様、僕の夢も“プロサッカー選手になること”でしたね。
8歳のときに父の仕事で渡米。当時のアメリカはプロリーグ・メジャーリーグサッカー(MLS)が盛り上がり始めたころで、もちろん僕もサッカーを続けました。中学生のころが自分のサッカー全盛期で、地域トップレベルのチームにスカウトされたこともありました。
しかし中学2年生のとき、かかとにケガをしたんです。ケガが再発することもあり、全力でのプレーに抵抗が生まれてしまった。それをきっかけに、プロサッカー選手になる夢は諦めました。
高校入学のタイミングで日本に帰国。サッカーから離れようとテニス部に入りましたが、そこでも膝の靭帯を切るケガをしてしまい、運動すること自体、あまりできなくなってしまいました」
「監督かアナリスト」の立場から、日本代表ワールドカップ優勝を目指す
――サッカーも運動もできなくなったのに、なぜ今も「日本代表ワールドカップ優勝」を目標にしているんですか?
「それまではプレーすることが好きで、プロの試合すらほとんど見なかったんですが、自分が運動できなくなったことで少しずつ見始め、好きな選手のハイライトや、バルサ公式チャンネルで配信される過去の試合を何度も見るようになりました。
バルサの試合を見始めた当時、国内リーグでは首位を独占していたのに、チャンピオンズリーグ(欧州のクラブチームによる、サッカーの大陸選手権大会)の舞台に上がった途端に勝てなくなることに“なぜだろう?”という素朴な疑問が生まれてきた。その理由を探りたいと思って試合を分析するようになり、“勝つためには戦術が大切”という結論に至りました。
戦術を学ぶことが楽しくなり、本を読んだり、YouTube の戦術分析動画も見るように。そうして分析ノートを書いたりしているうちに、“監督になりたい”という気持ちが芽生えてきました。戦術をコントロールしてチームを勝利に導いていくのが監督の仕事。それをやってみたいと思ったんです。
またある時、『サッカーアナリストのすゝめ』という本に出会いました。それまで“サッカーアナリスト”の存在すら知らなかったんですが、読み進めるうちに“監督よりもアナリストのほうが、より戦術に特化してチームに貢献できるのでは”と思うように。
そして、自分の人生目標を“日本代表ワールドカップ優勝”と定め、“監督”か“アナリスト”どちらかの立場に立って、その目標を実現すると決めました。今は、両方の道に進む可能性を広げるために学んでいます。
アナリストの役割
――監督の仕事はなんとなく想像がつきますが、アナリストって具体的にはどんなことをするんですか?
「僕は昨年から、関東サッカーリーグ1部のエリース豊島FCというチームでアナリストとして活動しています。アナリストの人数や仕事内容は、チームや監督の意向によって大きく異なります。対戦相手、特にセットプレーの分析や、自チーム選手へのフィードバックのための映像分析を行い、選手向けと指導陣向けに分けてプレイリストを作るのが、僕の主な役割。
指導陣向けの映像には“こういう攻撃の場面では、相手はこういう動きをする”といった情報を細かく伝えたり、分析情報をもとにトレーニング内容のアドバイスをすることも。
選手向けの映像は、指導陣向け映像から必要最低限の情報のみを抽出した内容です。選手に情報を与えすぎると混乱を招くこともあるので、選手にはあくまで自分のプレーに集中してもらいたいと思っています」
現在は、ヨーロッパ武者修行中
――イギリスに来た目的はなんですか?
「イングランドサッカー協会認定コーチングライセンスの取得と、コーチング技術を学ぶためにやって来ました。”監督”の道に進むためには、やはり資格と経験が必要。まずはヨーロッパサッカーの中心であるイギリスでライセンスを取得したい。将来的にはヨーロッパサッカー界で働きたいので、現地でのコネクションを作っておきたいという意図もあります。
今の時代、オンラインでも出会いを得ることはできますが、現地で直接会って関係を築いておくことは、サッカー界で生きていくためには重要なことだと考えています。
こちらに来てまず驚いたのは、子どもたちをとにかく褒めることがベースにあり、非常にポジティブな声掛けをすること。選手の年代に応じた声掛けが必要ということも、先輩コーチから学びました。
2月からは3週間、スペインのサラゴサへ行き、レーシング・クラブ・サラゴサというクラブのユースチームに帯同します。ヨーロッパサッカーは日本の5年10年先を進んでいるといわれていて、その中でも戦術において最も進んでいるのがスペインなので、戦術やポジショニング、選手の動き、それをどう監督が落とし込んでいるのかを学びたい。
そして、スペインでもやはり、現地でのネットワークを構築しておきたいです。僕はスペイン語は話せないけれど、英語は話せるのでなんとかなるかな、と(笑)。
今は大学を休学して来ていますが、日本に戻ったらまずは卒業して、日本企業での就職を考えています。アナリストとしてもさらに経験を積み、数年日本で働いてお金を貯めた後、あらためてヨーロッパサッカー界でのキャリアに挑戦したいですね」
アナリストはサッカー界の抜け穴?!
――監督とアナリストどちらの道を選ぶのか、楽しくも悩ましい選択ですね。
「人生目標“日本代表ワールドカップ優勝”を達成する形として、一番の理想は監督だけれど、現実的な道を考えると、アナリストが一番の近道だと思っています。
僕のように選手としての経歴がない人間でも入りやすいのは、実はアナリストなんです。監督になるには資格や経験が必要ですが、アナリストには特別な資格は不要なので、サッカー界の穴だと思います。でも、もちろん監督の道にも進んでいけるよう、今の自分にできることに、全力で取り組んでいきたいです!」
インタビュー後記
ケガでサッカーができなくなってから戦術のおもしろさに目覚めた、というところが意外でした。「日本代表ワールドカップ優勝」という人生目標の達成に向け、着実に前進している彼の視線の先には、間違いなくワールドカップの優勝トロフィーが見えているのだと感じました。
子どもの頃と目指すものは変わっても「サッカーが好き!」という気持ちは、いくつになっても変わらないのでしょうね。
サカママ読者のお子さんの中にも、試合映像を見て分析をすることが好きな子もいらっしゃるでしょう。そうしたお子さんは、選手だけでなくアナリストという選択肢もあるかもしれません。これからの未来を生きる子どもたちには、さまざまな角度から、いろいろな可能性を広げていってもらいたいですね!