世界最高峰のプレミアリーグへ! アカデミー選手への道
息子がU7のときにチームメイトだった友人が、今シーズンからめでたくプレミアリーグ(イングランドのプロサッカー1部リーグ)クラブのアカデミーU12の選手として正式に契約しました。
Jリーグクラブのアカデミーも非常に狭き門であると思いますが、プレミアリーグクラブのアカデミーに入ることは、どれほど難しいことなのでしょうか。
今回の記事では、その友人の経験を参考に、プレミアリーグクラブのアカデミー選手になるまでのステップをご紹介します。
あくまで友人の経験談を元に書いている記事となりますので、細かい点で実際とは異なる内容があるかもしれません。その辺りはどうかご容赦ください。
アカデミー選手として契約に至るまでには、大まかに以下のステップがあります。
①グラスルーツのチームで実績を積む。
②試合を観に来たアカデミースカウトの目に留まる。
③チームのコーチ経由でスカウトから声がかかる。
④アカデミーの練習にトライアルとして参加する。
⑤「正式に契約したい」か、「もう来なくていい」と言われる。
⑥契約すれば晴れてアカデミー選手となる。
まずはグラスルーツから
イングランドでは、いきなりプレミアリーグクラブのアカデミーに入ることはできません。特定の時期にセレクションが行われ、それに合格すれば入団というものでもありません。まずはどの選手も、グラスルーツのクラブに所属することからはじまります。
グラスルーツのクラブの練習はおおよそ週に1、2回、試合は毎週日曜日に実施されます。日曜日に大きな公園に行ったり、車窓から外を眺めたりしていれば、子どもたちが必死にボールを追いかけて試合をしている姿が見られます。
そして、その試合を観ているのは、チーム関係者や保護者だけではないのです。プレミアリーグクラブのアカデミー関係者、つまりスカウトが試合を観に来ていることがあります。
いつ、どの試合にスカウトが来るかは知らされないようですが、所属するリーグのレベルが高ければ高いほど、視察に来ている可能性は高くなります。
また、トップのディビジョンに所属するチームであれば、プレミアリーグクラブのアカデミーチームと練習試合を組むこともあります。そうした試合の場でも、スカウトは目を光らせて新たな才能を探しています。
スカウトの目に留まった選手がいた場合、アカデミーから選手個人へ直接コンタクトすることは禁じられているため、所属クラブのコーチを通じて選手に声がかかります。クラブと選手で協議した後、選手が希望すれば、アカデミーのトライアルに参加する権利が与えられます。
スカウトされてトライアルに参加
トライアルの期間は、おおよそ6~8週間ほど実施されることが多いようです(クラブによって異なる)。その間、選手は所属していたグラスルーツのチームと掛け持ちすることはできず、アカデミーの練習および試合に専念します。
練習での取り組み姿勢や成長度合い、今後の伸びしろをチェックされますが、何よりも重視されるのは「試合でのパフォーマンス」だそうです。どれだけ練習で頑張っていても、試合で結果を残すことができなければアカデミーの選手として契約に至るのは難しい。子どもとはいえ、常に結果を求められるシビアな世界ですね…。
トライアルに参加するにあたり、選手側がレッスン代を払う必要はなく、練習キットはユニフォーム、ジャージ、ソックス等、すべて無償で提供されます。選手の発掘・育成にそれだけお金を投資しているというところ、さすがプレミアリーグの下部組織だなと感じます。
契約すればプロ選手並みの扱い
トライアル期間が終了する頃、アカデミーから「正式に選手として契約したい」もしくは「残念だけれど契約には至らない」と通知されます。まれに、「もうしばらくトライアルを続けてみてほしい」と言われる場合もあるそうです。
晴れて契約することになった選手は、そこから正式にアカデミー所属選手となります。
アカデミーに関してもトライアルと同様、選手が費用を負担することはありません。クラブが送迎時の車のガソリン代を負担したり、選手用の送迎車を用意したりしている場合もあります。海外遠征費も含めてすべて保障されているというのは、さすがというよりほかありません。
しかし、それだけのお金をかけて選手を育てているわけですから、選手側の都合で契約期間満了前に辞める場合には、違約金が発生します。まだアカデミー選手とはいっても、その扱いは既にプロ選手のようですね。
契約できなくても、チャンスはまだある
残念ながら正式契約にまでは至らなかった選手にも、チャンスは残されています。
というのも、トライアル期間中に試合で対戦する相手は、同じくプレミアリーグクラブのアカデミーのチームが中心。各チームスタッフたちは、自チームの選手だけではなく、相手チームの選手たちのプレーについてもつぶさに観察しています。もし、相手チームがトライアルしていた選手を放出した場合、「次はうちが声をかけよう」と、虎視眈々と次なる新しい可能性のある選手を探しているのです。
同時進行で複数のチームのトライアルを受けることはできませんが、複数のアカデミーのトライアルを回っている子も少なくないようです。実際、友人はアーセナル、フラム、ブライトンと3つのチームのトライアルを受けたそうです。
また、すぐに他のプレミアのチームから声がかからなかったとしても、再度グラスルーツのクラブに戻り、毎週末の試合で結果を出し続けていれば、新たなチームからスカウトされることももちろんあります。大切なのは、どんな場所であっても、諦めずに結果を出し続けることです。
アカデミー選手になるための努力
トライアル期間中およびアカデミーに正式所属した場合、他のチーム(グラスルーツのチームなど)と掛け持ちすることはできません。しかし、個人的にレッスンを受けることは可能です。パーソナルコーチをつけたり、スキル向上のワークショップに参加したりするなどして、実力を磨いている子はたくさんいます。
イングランドでは、グラスルーツもプレミアリーグクラブのアカデミーも含めて、多くのチームが実践的な試合を想定した練習を中心に行っています。チームでの練習時間内に、アジリティトレーニングや個々のドリブルスキルの向上などを目指すような練習は、あまり多くはありません。そうした点からも、個人のスキルを伸ばしたい選手は、チームでの練習とは別にワークショップやプライベートレッスンに通う子が多いのです。
筆者の息子はアカデミー加入を狙っているわけではありませんが(狙えるようなレベルではありません)、「もう少しうまくなりたいから」という理由で、普段の所属クラブの練習とは別に、週に一度、技術を磨くためのワークショップに通っています。
その内容は、5m×2mほどの狭い空間の中で、2、3人が同時にドリブルをするなどして、ディシジョンメイクやボールコントロールの向上を目指すトレーニングが中心。加えて、アジリティの向上を目的とした練習なども実施しています。
息子が通っているワークショップを主催しているTAP(The Academy Player)という団体は、グラスルーツのチームも持っています。そのチームは非常にレベルが高く、昨シーズン(2024/25)はU10カテゴリーでイングランド1位になりました。そのチームから、スカウトを受けてプレミアリーグクラブのアカデミーへと巣立っていく選手も多くいます。アカデミー契約後も、継続的に個人セッションを受けている選手がたくさんいるようです。
未来のプレミアリーガーと同じ環境で練習できる、ということだけでも、うちの息子にとっては良い機会だと思っています。実際に、そのワークショップに通い始めてから、息子のボールタッチ技術はとても伸びており(もともとのレベルが低かったというのもありますが…)、目に見えて成長していくのがわかります。
サッカーだけでなく、勉強もフォロー
アカデミーは、U12までは1年契約、それ以降は2年契約となります。選手たちは次年度の契約更新を目指して、最終的にはトップチームの選手となることを目指して、日々練習に励みます。
12歳というと、イギリスでは中学校に上がる年齢。小学校(Primary School)から中学校(Secondly School)への進学は、大きな変化を伴います。学習内容が難しくなり、課題の量も増え、授業についていくだけでも大変です。そんななかで週3回の練習と週末の試合をこなしていくわけですから、サッカーと勉強の両立は簡単なことではありません。
プレミアリーグ下部組織では、勉学がおろそかになることがないような配慮もされています。週3回の練習のうち、2回は夕方(学校が終わった後)からスタートですが、1回は朝からアカデミー施設で過ごします。サッカーのトレーニングはもちろんのこと、学業との両立もできるよう、選手2、3人につき1人のチューター(家庭教師)がついて、勉強を見てくれるのだそうです。学校とチューターの間では、もちろん勉強内容についての情報が共有されています。学年が上がるにつれて、週に1回から2回へとチューターと一緒にクラブ施設で学ぶ時間が増えるとのことです。
サッカーだけでなく、勉強の面でもアカデミーが手厚くフォローしてくれるというのは驚きでした。ここでもまた「さすがプレミアリーグ!」と思わされました。
さらなる高みを目指して
アカデミー選手として契約することがゴールではなく、むしろ、そこからが本当のスタートです。ある意味では、チームメイトがライバルとなっていくシビアな世界。しかし、子どもの頃からそうした競争環境にいることが、世界最高峰のプレミアリーガーになるための道なのかもしれません。息子の友人には、ぜひ頑張ってもらいたいと思います!(もちろん、息子にも頑張ってもらいたいですが!)