アメリカで見た「行き過ぎた親の声かけ」──2つの退団劇から考える、子どもの成長に本当に必要なこと
テキサスのサカパパ、Japa-ricanです!
2025年からコラム投稿を担当させていただき、気づけば1年が過ぎようとしています。年明け早々に10歳になる息子のサッカー挑戦を通してアメリカのジュニアサッカーの様子を発信してきましたが、来年も引き続き、月1でコラムを書かせていただくことになりました。
こちらアメリカは、6月開幕のW杯に向けてどんどん熱気を帯びてきています。私たちの地元、テキサス州ダラスも開催地の一つ。準決勝を含め9試合が予定されている会場までは車で10分の距離。現場の様子をしっかりお届けしたいと思いますし、もしダラスまで観戦に来られる機会があれば、ぜひご連絡ください!
さて、今年最後のコラムでは、サカパパ・サカママの“永遠の課題”ともいえる「親が子どもにどう接するか」をテーマに書きたいと思います。
実は息子のチームでは、“親の行き過ぎた言動”が原因で、立ち上げ当初から一緒だった2名の選手がコーチから退団を言い渡されるという出来事がありました。今回はその2つの例を紹介しつつ、親としてどんな心構えが必要なのかをあらためて考えていきたいと思います。

事例①:チームの雰囲気を和ませていたゴールキーパーA君の退団
立ち上げ時からゴールキーパーとして欠かせない存在だったA君。内気で大人しい性格でしたが、時間が経つにつれて笑顔も増え、チーム内のムードメーカーとなり、仲間からの信頼も厚くなっていました。そんな矢先、突然の退団。正直、私も息子もショックでした。理由をコーチに尋ねると、どうやら“お父さんの関わり方”に原因があったとのこと。
最後となってしまった試合の日。試合後、A君のお父さんは相手チームへの挨拶をさせず、すぐに息子のゲームの振り返りや一方的な指導を始めてしまいました。GKコーチが不在のため、お父さんが熱心に声をかけていたのはよく知っていましたが、私の目から見ても度が過ぎていると感じることがよくありました。
コーチが「試合後はまず挨拶が先だ」と促しても、お父さんは「そんなことはどうでもいい」と言い放ち、自分の指導を優先。その瞬間、チームの方針より“自分の価値観”や“指導”を優先させた父親の姿勢を見て、コーチは静かに退団させることを決断しました。
事例②:圧倒的な才能を持ったX君の退団
実は“親の言動”による退団は今回が初めてではありませんでした。チーム発足後すぐにも、卓越したスピードと強いハートを持ったX君が、同じ理由で退団となりました。
チームの中心的存在になると思われていた選手でしたが、入団から数カ月後、公式戦を目前に控えたタイミングでコーチから退団を通告。理由は、彼のご両親の行き過ぎた言動でした。私と息子は直接的な被害こそなかったものの、他の親御さんやコーチに対して度々トラブルがあり、明確に「チームの和を乱している」という判断でした。コーチからチーム全体へ正式な通達があり、即刻退団となりました。
コーチの決断 — 勝利ではなく、「環境」を守る勇気
息子が所属するチームが発足して1年半が経過しました。金銭的理由やプレー時間の問題で辞めていくケースは何度もありましたが、親の在り方が原因でコーチから退団を告げられたのは、この2件だけです。
どちらの選手も、チームにとって大きな存在だったにもかかわらず、親の言動や振る舞いがチームの和を乱すという理由でチームを離れることになりました。私は強く心を痛めると同時に、熱血コロンビア人コーチの、「勝つことより、正しい環境をつくることが大事だ」という姿勢に深く感銘を受けました。南米文化は日本人の価値観に似ている部分があり、息子コーチが個人よりもチームの「和」を強く重んじる傾向があることも影響していると感じています。
個性や個人の権利を一番に大切にするアメリカ社会であっても、スポーツ、特にチーム競技においては、個よりもチームとしての一体感を大切にしている部分が多く見られることに、私は正直驚かされています。

生粋の負けず嫌いで、子どもたちの気持ちが乗っていないときには容赦なくはっぱをかけ、審判があいまいな判定をしようものなら即行抗議し、U10の試合なのにしょっちゅうイエローカードをもらい、時にはレッドカードまでももらってしまう熱いコロンビア人コーチですが(その度に私が急遽“コーチ代行”として登場し、いつの間にかついた呼び名が「テキサスのモリヤス」爆)、子どもたちの教育やチーム全体の健全さを最優先する姿勢に私は心から感謝しています。簡単な決断ではなかったはずです。しかし彼にとって“チームであること”の価値は、どんなトロフィーよりも重いのだと思います。

2つの事例から見えてきた「親として心に留めたいこと」
①親の言動は、子どもだけでなくチーム全体に影響する
子どもへの応援や指導は愛情の表れです。私を含めサッカー経験者の親御さんであれば、その応援の姿勢が強い指導や要望に変わっていくことが往々としてあります。しかし、それが“自分の考えを押し通す行動”になると、我が子のみならず、他の子やコーチ、チーム文化を傷つけることがあります。親の不適切な言動が原因で、チームワークが乱され、ひいては子どもの成長の場が奪われる事態は、最も避けるべきであり、非常に残念でなりません。
②チームスポーツでは、個人よりもチームの方向性 を尊重する姿勢が大切
サッカーはチームスポーツであり、そのチームを導くのはコーチの役割です。礼儀や挨拶、そしてチームとしての規律を大切にする姿勢は、信頼関係を築くための揺るぎない土台となります。これは、サッカー選手として成長していく過程において、技術やサッカーIQと同等、あるいはそれ以上に重要な要素だと考えます。だからこそ、私たち親が、率先して子どもたちにそうした姿勢を示していかなくてはなりません。
③才能があっても、親の過干渉がその子を潰すことがある
A君やX君のような有望な選手でも、親の関わり方ひとつで“輝ける場”を失ってしまうことは現実に起こります。愛情が強いからこそ、慎重なバランスが必要です。親の姿勢や行動が理由で子どもの活躍の場を奪ってしまうことほど悲しいことはありません。
愛する我が子のために、親も成長し続ける
親として「子どもにとってベストな環境をつくりたい」という願いは、アメリカでも日本でも共通の、最も強く、普遍的な思いです。私自身も例外ではありません。しかし、今回の二つの退団劇を通して、“親の思いが強いときこそ、立ち止まって気をつけなければならないことが多い”と痛感しました。
子どもたちから「大好きなサッカーを楽しめる場」を奪うことなく、チームの一員としても個人としても健全に成長できるように——。世界中のサカパパ・サカママが、それぞれの現場で子どもの成長に寄り添う最善の関わり方を、一緒に模索し続けられたらと願っています。
2026年も引き続き、アメリカジュニアサッカーの現場で得たリアルな発見と驚きを、この場を通じて皆さまにお届けしていきます。来年もどうぞよろしくお願いいたします!
