イングランド青少年サッカーのさらなる進化 ~「Future Fit」~
昨年末、イングランドフットボール協会(以下、FA)は、すべての若い選手に、より良く、より意義のあるフットボール体験を提供するため、「Future Fit(フューチャーフィット)」というプロジェクトを推進すると発表しました。
今回のコラムでは、フットボールの母国イングランドが目指す、ユース年代の改革プロジェクトについてご紹介します。
※このコラムにおける“ユース”というのは高校生年代ではなく、すべての子どもたち(17歳以下)を意味します。
「Future Fit」とは
「Future Fit」は、ユース世代がフットボールを楽しむことを通して、技術の向上だけでなく、一人ひとりの個性や可能性を最大限に活かすことを目指しており、未来のフットボール界における新しい基準を示すためのプロジェクトです。
FAと大学などの研究機関やグラスルーツのクラブが協同し、さまざまな検討や試行を繰り返しながら進められてきました。
テーマ
「Future Fit」推進の前提として、2つの大きなテーマが掲げられています。
・Championing children’s rights(子どもたちの権利の擁護)
大人は、フットボールをするすべての子どもたちの権利を尊重することに責任を持つ。
・Sprit of the game(ゲームの基本精神の順守)
「2つのチームが敬意をもって競い合い、相手の得点を阻止しながら自分たちも得点を狙う」という、フットボールにおけるゲームの基本精神を守る。この精神が土台となっていれば、どのような形式であっても、ゲームの中で感じる気持ちや得られる学びは、全選手に共通の経験である。
4つの重要な要素
また、子どもたちのフットボール体験を最大化するための重要な要素として、以下の4つが掲げられています。
・プレイする機会
さまざまな形式の試合機会を多く提供することで、体を動かす楽しさを子どもたちに感じてもらい、健やかで楽しい生活を送るためのサポートをする。
・質の高いコーチング
コーチは試合を通して選手たちの成長を促す指導を行うことで、可能性のある選手を育成する。
・安全で包括的な環境
選手が安全安心に楽しめる環境を整え、ピッチ内外における選手の成長を促す。
・保護者へのサポート
選手だけでなく保護者や家族をサポートし、生涯を通してフットボールを楽しめる環境を発展させる。
主な内容
主な改革内容は大きく3つあり、導入時期は2026/2027シーズンからとなります。
・3人制ゲームの導入
従来は5人制で行っていたU7(7歳以下)カテゴリーにおいて、3人制ゲームを導入する。フットボールの最初の入口を小規模(少人数)にすることで、選手一人ひとりがボールに触れる機会を増やすことを目的とする。これにより、選手のスピード、創造性などのスキルや自信を養う。
・小規模フォーマットの維持
従来はU13(13歳以下)カテゴリーから導入されていた11人制の試合を、U14(14歳以下)カテゴリーからの導入とする。少人数での試合形式を長く維持することで、各選手は、よりたくさん動くことが求められ、技術力が向上するものと期待している。
※U7へ3人制を新たに導入すること、および11人制への移行をU14へ遅らせることに伴って、他年代の試合フォーマット(5人制、7人制、9人制)導入時期にも変更が出る(以下の表ご参照)。
・試合ルールの最適化
子どもたちの年齢や発達に合わせた試合ルールを設定し、ゲーム中のリスタート方法を調整することで、試合中に選手がボールに触る時間をできる限り確保する。複雑なルールは中学生年代以降に導入していく。
※ボールがタッチラインを割ったときのリスタート方法については、スローインからキックインもしくはドリブルインへの変更が、2024/2025シーズンから導入されている。
「Future Fit」の目指すもの~子どもたちの未来のために~
「Future Fit」は、技術的な成長だけを目指すものではなく、その背景には「フットボールを楽しむことを通じて、選手が豊かな人生を送るための基盤を作る」という理念があります。フットボールを通じて、子どもたちに仲間と協力し、勝敗に対する感情を経験し、成長できる環境を提供することで、フットボールが、多くの若者にとって生涯に渡って続けられるスポーツとなり、その後の人生においても有意義な経験となることが期待されています。
追加情報
「Future Fit」公式ウェブサイトでは以上の内容しか書かれていませんが、筆者が3月に視聴したFAのウェビナーの質疑応答において、以下のような話がありました(筆者の聞き間違い、勘違いがありましたら申し訳ございません)。
・3人制ゲームの具体的なルール(ピッチの広さ、ゴールの大きさ等)は今後、周知するが、現在の5人制のピッチを2つか3つに分割して使用することを想定しており、現状以上の追加設備投資は必要ないものと考えている。
・1チームを2つか3つの小さなグループに分け、3人制ゲームを2・3試合同時進行で行い、ローテーションすることを想定している。
・3人制ゲームの導入にあたって、追加で必要となる用具(ゴール、コーン等)については、FAができるだけ補助することを検討している。
・レフェリーは配置せず、子どもたちの自主的な判断に委ねることを想定している。初めのうちはコーチや保護者のレポートが必要かもしれないが、公園でフットボールをして遊んでいる子どもたちは、レフェリーなしでも自分たちでルールを決めてプレイできている。
<イングランドの現行ルールにおける主なフォーマット>
筆者の個人的な意見としては、子どもたちがよりボールに触れるチャンスを増やす、という点において、小さいピッチでの3人制の導入には賛成です。
しかし、U7の子どもたちの自主性に任せたレフェリーなしの試合は、カオスになることしか想像できません(笑)。というのも、こちらの子どもたちは、自己主張の強い子、感情が爆発してしまう子(思い通りにいかないことがあるとすぐに泣いてしまうような子)がとても多いと感じるからです。しかし、2年間、様々な実証を重ねて進められてきたプロジェクトですから、勝算はあるのでしょう。どんな試合になるのか、楽しみなような、ちょっと怖いような…。
現時点では、キーパーを配置するか否かに関しての言及はありませんでしたが、“rush goalie(ラッシュゴーリー)”が適応されるのではないかと拝察します。
※ラッシュゴーリーは、フライキーパーとも呼ばれ、役割が通常よりも柔軟です。ゴールキーパーのポジションは、ゴールから出て積極的にアウトフィールド プレイに参加できるプレーヤーであれば誰でも務めます。ただし、守備時にはプレーヤーはゴールに戻り、再びゴールキーパーの役割を担います。ラッシュゴーリーでは、1 人のプレーヤーだけがゴールキーパーになってボールを扱うことができます(参照元:Wikipedia)。
今回のプロジェクトが、イングランドでフットボールを楽しむ子どもたちの将来にどういう影響を与えていくのか、そして、イングランドフットボール全体にどのようなインパクトをもたらすのか、今後の展開が楽しみです。
「Future Fit」について詳しく知りたい方はこちらのウェブサイトをご確認ください。