言語習得にも役立つ!? 教科書では習えないサッカー×英語
こんにちは、テキサスのサカパパ Japa-ricanです!
日本では新学年が始まりましたが、私たちの住むアメリカでは5月は学年末の時期になります。サッカーも、7月のシーズン終了に向けて、5月から6月にかけては一年間の成長をはかるカップ戦が開催される一年で最も忙しい時期。今は毎週末、バチバチの熱い戦いが繰り広げられています。9歳の息子も今年1年、サッカー選手として大きく成長したように思います。
先日ダラスで開催されたネクスト・ジェネレーション・カップという大規模なジュニア年代の大会では準優勝を果たし、息子チームはU-9カテゴリーにおいてテキサス州全体で3位にランキングされるようになりました(このランキングシステムもアメリカサッカーの興味深い点なので、いつかコラムでお伝えできたらと思います)。
今回のコラムでは、アメリカジュニアサッカーの現場でよく耳にする英単語や英語表現をご紹介したいと思います。単語そのものは非常にシンプルでも、ピッチ上で用いられるとそういう意味になるのかと考えさせられるものが多く、一般的な教科書で習う機会はほとんどないかと思います。
まずはこちらのビデオをご覧ください。ピッチの中央でオレンジ帽をかぶってたたずんでいるのは、サッカーを始めたばかりの当時3歳の息子です。アメリカ生まれの息子ですが、日本人の両親のもとにうまれたので就学するまでは英語はほとんどわからず、この練習でもコーチの説明を全く理解できず、トレーニングが始まっても微動だにしません。
この頃はコーチの指示どころかチームメイトとの意思疎通もうまくできずにいました。妻はこの先のことを心配して、もっと積極的に英語に触れる機会をつくったほうがいいのか、早期から保育園のようなところに通わせたほうがいいのかとモヤモヤしていたようですが、小児科の先生をはじめバイリンガルキッズを育てる先輩ママたちから「学校に行き始めれば英語は絶対にできるようになるから、むしろ将来の日本語の心配をしたほうがいい」というアドバイスをもらっていたようです。
6年経った今となっては、アドバイス通りに息子の英語はネイティブ、日本語は幼稚園児レベル(笑)。今ではピッチ上ではゲームキャプテンとして大声でチームメイトを鼓舞し、蹴っただろ、押しただろ、と相手選手と口論したり、熱血コロンビア人コーチと激しく意見を主張し合うようになりました。息子にオレンジ帽をかぶっていた頃の記憶を尋ねると「あの時は全然わからなかったから、とりあえず周りがやってることを真似してた」と言います。これは今振り返ると息子にとってものすごく良い経験だったと思います。
私は中学生ではじめて英語に触れて以来英語の面白さに魅了され、英語で生活することに憧れ留学を決意し、アメリカの大学卒業後の4年間は、日本で学習塾の英語教師として働いていました。息子を通してさまざまな英語サッカー用語に触れていく中で、近い将来海外にサッカー挑戦や留学を考える日本人サッカー選手たちの助けになるのではと思い、英語のサッカー用語集を作成するようになりました。今回はその中から、練習や試合中での表現に絞ってご紹介したいと思います。
日本のピッチ上でそのまま用いられている表現や、海外サッカーの英語実況などで耳にしたことがあるフレーズもあるかもしれません。「そういう意味だったんだ」「そんな言い方するんだ」と、楽しんでいただけたらと思います。
プレー中に使える表現
英語フレーズ | 日本語訳/意味 | 補足説明・自然な使い回し例 |
---|---|---|
Send it! | ロングパスやスルーパスをスペースに出せ! | “Send it through!”もあり |
Check out | 一旦マークの視界から離れる動き | ボールをもらう前のフェイント的動き |
Check in | 再びボールを受けに中へ戻る動き | Check outと連続して合わせて使用することが多い:check out → check in |
Show! | ボールを受けに顔を出せ! | パスの出し手が「出しどころ」を探す時によく使う |
Keep it on the ground | ボールを浮かさずに地面に転がせ | ティキタカのようなパス回しを意識させたい時 |
Go to it! | ボールを取りに行け! | “Don’t wait!”(待つな)とセットで“Don’t wait, go to it!”と使う場合もあり |
Leave it! | 触るな!/そのままスルーしろ! | 味方へのスルー、またはタッチライン外へ出したい時に |
Skim it | 足の裏でボールを転がす/引く動作 | ややスラング的言い方。 Drag itやRoll itが用いられることもある |
Get on him/her! | 相手につけ!(タイトにマークしろ) | コーナーキックや守備時に |
Steal it! | ボールを奪え! | “Win it!”(奪え)も類似表現 |
Reaction! | 切り替えろ! | ボールを奪われた時にすぐに取り返せ、攻守の切り替えをすぐにしろ |
Solo! | 一人で仕掛けろ! | 1対1(ソロ)での突破を指示 |
Play it off them! | 相手に当てて外に出せ! | “Kick it off of him/her”もあり |
Man on! | マーク来てるぞ! | 日本で聞く「マノーン」です。プレッシャーが来ていることを知らせる時に |
Push up! | ラインを上げろ! | DFラインやチーム全体に指示、「腕立て伏せ」という意味もあり |
Contain! | 飛び込まずに守れ! | 「奪う」より「抜かれない」守備を指示する時に |
Track back! / Recover! | 守備に戻れ! | 攻守切り替えの時に |
Let it go! | そのまま出せ/触るな | ボールが出るのを待つ |
Be in the game! | 集中して!/試合に入り込め! | “Stay in the game” も同じ意味 |
Cut it! / Chop it! | 切り返せ! | ドリブルの切り返し時に。「ネイマールチョップ」というドリブルの技の名前でお馴染み |
Shield it! | ボールを体で守れ! | ボールを「シールド」して相手に奪われないようにという指示 |
Settle the ball. | ボールを落ち着かせて! | ファーストタッチ後によく使う |
Hold it! | ボールをキープして! | 一旦止まれ/キープして時間を作れ |
Scan! | 周りを見ろ! 視野を確保しろ! | 状況判断の基本 |
Pinch in! | 中に絞れ! | サイドから中央へのDFの動きに使用 |
練習やピッチ外でよく聞く表現
英語フレーズ | 日本語訳/意味 | 補足説明・自然な使い回し例 |
---|---|---|
Bring it in! | 集合! | 練習の切り替え時などに |
Cleats | スパイクシューズ | こちらでは「スパイク」とは言いません |
Scrimmage | 練習試合、ゲーム形式 | 試合形式の練習を指す |
Chin up! | 顔を上げろ/元気出せ! | 失敗した選手への励ましの言葉 |
いかがでしょうか。英単語そのものは難しくないのですが、聞いただけでは「どういう意味?」と感じる表現が多いのではないでしょうか。こちらで育っている息子でさえ、学校では耳にしない表現がたくさんあるようで「コーチがSend itって叫ぶんだけど何してほしいの?」と聞いてきたり、逆に私が息子に、「ディフェンスしてる時によくContain! って言うけど、どういう意味?」と聞いたりしています。
日本では「野球のメジャーリーガーには通訳がつくのにサッカーの海外組には通訳がつかないのはなぜか」といった議論もあるようですが、刻一刻と状況が変わり一瞬の状況判断が必要とされるサッカーのようなスピーディーなスポーツにおいては、日常生活以外で通訳の入り込む余地はないのではないかなというのが私論です。たとえその瞬間理解できなかったとしても、流れの中で理解していく、コーチやチームメイトに教えてもらったり怒られたりしながら習得していく。。。それ以外にないのでしょう(ちなみに、そのように「完全に溶け込む」ことは、最も効果的な言語習得方法です)。
言葉の通じない場所に飛び込むと、はじめはパスさえ出してもらえない、なんてこともよく聞きます。その中で自分なりに習得しよう、理解しよう、表現しよう、チームに溶けこもうと努力する姿も含めて、サッカー選手として成長していくということなんだと考えさせられます。
ちなみに、これから渡米を考えていらっしゃるご家族でお子さんの英語を心配されている方がいらっしゃいましたら、意外と何とかなるから言語はあまり心配しないで、とアドバイスしたいです。子どもの順応力や言語習得能力はすさまじいですから、学校に行っているうちにあれよあれよとわかるようになってくるはずです。
そしてアメリカは移民大国ですから、学校側も先生も英語ができない子どもへの対応にはとても慣れています。人種的な多様性がない地域に行けば事情は異なるかもしれませんが、都市部であればほぼすべての学校に英語を母国語としないお子さんをサポートする専門の先生がいますし、サポートシステムも確立されています。小学校レベルですと楽しいイベントやパーティなども盛りだくさんですから、駐在でこちらへいらっしゃったばかりのご家族から「言葉はまだよくわからないんですけど、学校はとにかく楽しいみたいで元気に通っています」なんて声をよく聞きます。親御さんが自宅に引きこもらずに「わからなくてもどんどん外に出してあげよう」と心がけさえすれば、お子さんはあっという間に英語を習得していくのではないでしょうか。
ちなみに息子のコーチはコロンビア人で、私たちの住むテキサス州はヒスパニック人口が非常に多いので、英語だけでなくスペイン語も多く飛び交います(スペイン語のサッカー用語集も作成中)。英語としてもスペイン語としても正しくはない「スパングリッシュ」と呼ばれる表現もたくさんあり、英語、スペイン語、スパングリッシュ、人種やバックグランドの違う人が話す訛りやアクセントの強い英語、そして外国語と、町中にいろいろな言語があふれている印象です。
日本人は真面目で几帳面なので、言語習得の際にどうしても正確さを追求してしまいがちですが、こちらに住んでいると「言語はただのコミュニケーション。意思疎通ができればそれでいいんだ」という気持ちにさせられます。何よりもサッカーは世界共通言語。言葉がわからなくても、ボールさえあればあっという間に友達はできるはずです!