アメリカサッカーで感じる「圧倒的な壁」に立ち向かう!
こんにちは、テキサスのサカパパ、Japa-ricanです!
今回のコラムでは、多種多様な人種が集うアメリカでサッカーをしていて感じる「圧倒的な壁」と、息子がそれをどう乗り越えようとしているか、についてお話ししたいと思います。
多人種、多国籍な選手たちが集うアメリカサッカー
先日アメリカでプレイする吉田麻也選手(ロサンゼルス・ギャラクシー所属)が自身のラジオ番組で発言されていましたが、MLS(アメリカのサッカープロリーグ)は、世界で最も多国籍な男子サッカーリーグといわれており、昨シーズンは79か国の選手が在籍していたそうです。
MLSの発表では、この数字は世界をリードする5大リーグ(スペイン、イングランド、ドイツ、イタリア、フランス)のどの数よりも多いとか。
もちろん人種や国籍の多様性はアメリカどこでも見られるわけではなく大都市部に集中していますが、私たちが住むダラス近郊は「人種のサラダボウル」と呼ばれるアメリカ社会を体現したような地域です。そしてそれはジュニアサッカーにもあてはまります。
幼少期から多人種・多国籍の選手たちに交じってサッカーができることは、アメリカでジュニアサッカー年代を過ごす最大の利点のひとつだと私は考えています。
なぜこれがメリットなのか? それは、身体能力や体格の違いからくる「圧倒的な壁」を感じながらサッカーをすることで、それを乗り越える方法を日々試行錯誤せざるを得ず、結果的にプレイヤーとしてより成長していくことができると思うからです。
2002年に高校を卒業した後の4年間、私は留学先のアメリカの大学でサッカーを続けていました。ちょうどその頃日本では、1998年のW杯初出場をきっかけに、ヨーロッパへ移籍する選手や国際大会での競争が増え始めていました。
そのような環境下にある日本人サッカー選手たちが発信していた情報の中でもとりわけ頻繁に伝えられていたのが、人種が異なる選手たちのプレイスタイルの違いや身体能力のすごさです。
実際に私も、アメリカの大学で日本人以外の選手たちと初めてプレイをしたときに「な、なぜそこから足が届くんだ...」「は、速すぎるっ!!!」「す、すっげー筋肉...」と驚愕し、委縮してしまった経験があります。日本での10年間のサッカー人生では決して経験することのなかった衝撃を、この時初めて味わったのです。
かたや、アメリカでプレイする9歳の息子は毎回の練習や試合でこれを体感しているのだと思うと私は本当にワクワクします。
息子のチームには今、アメリカ以外に8か国にルーツを持つ子どもたちが集まっているのですが、たとえばアルゼンチン人のA君。同世代では抜きんでた体の厚みと安定したディフェンス、ハーフラインから直接ゴールしてしまうキック力はチームの要です。
圧巻のドリブルテクニックと「ボールはすべて俺に回せ」という我の強さをもつブラジル人のD君、チームで一番小柄ながらとにかくハートが強くて全身全霊でプレイするメキシコ人のE君、頭脳と俊敏性で勝負するアジアンボーイズ4人は、それぞれ韓国、台湾、中国、そして日本人を親に持ちます。
その多国籍軍団を率いるコーチは、365日サッカーしか考えていないんじゃないかというくらいサッカーを愛する熱血コロンビア人の青年。チーム内だけでもこれだけ多様な個が集まっているのですから、練習中の言い争いや押した蹴ったの小競り合いは日常茶飯事、時にはとっくみあいの喧嘩だって起こります。でもハード面とソフト面でこれだけの個性をもった子たちと日々切磋琢磨できる環境は本当にありがたいと私は感謝しています。
と同時に、このような環境下で私たち日本人親子が早々と理解したのは、ガチンコでは絶対にかなわない相手がゴロゴロいる、ということです。生まれもった筋肉量、身体能力の差、メンタルの違いというものをこれだけまざまざと見せつけられると、どうひっくり返ってもこの子たちにはかなわない、という気持ちにさせられます。
もちろん練習を積み重ねることで能力を伸ばすこと、彼らに近づこうとすることはできるでしょう。でもその間、生まれもったアドバンテージを武器に彼らも同じように練習をしていくわけですから、この差はなかなか埋まらない気がします。
この現実は、アメリカにいるからではなく、世界のどこでプレイしていても誰もがサッカー人生のどこかでぶち当たるものだと私は思います。日本にいても、「うわーあの子うちの子とは比較にならないくらいメンタルがめちゃくちゃ強いなぁ」とか「うちの子は足が遅いな…」「なんで身長が伸びないんだろう」などなど、親として我が子の前に立ちはだかる壁を感じる親御さんは多いのではないでしょうか。
超えられない壁にどう立ち向かえばよいのか
では、この状況でどうするのか。私は息子にこの環境下で身につけてほしいことが3つあります。
1.考える
先日の試合で息子は、とあるアフリカ系選手とよくマッチアップしていました。9歳とは思えないパワーと走力。ボールを受けて加速したらほぼほぼ追いつけません。何度も抜かれ、置いてけぼりにされてしまうなか、ファールにはなってしまったものの、息子がこの選手を吹っ飛ばしてボールを奪った瞬間がありました。
試合後その場面について聞いてみたら、「あの子めっちゃ速いから、速くなっちゃう前に止めようとしたの」とのこと。「よーい、どん」では絶対に勝てない相手に、「よーい...」で走り出してしまってもいいのがサッカーなんですね。自分の身体能力では勝てない相手とも、頭を使えば勝負できるのがサッカーの面白さなんだ、ということを息子には早い段階から知ってほしいと思います。
2.「周り」ではなく「自分」にフォーカスする
この地にいると、息子よりも大きくて速くて強い選手はいくらでもいますから、周りと比べることで浮き彫りになる身体能力の差や欠点にばかり目を向けていたら、どんどん気持ちは沈んでいきます。今の時期に一番大切なことは、周りとの比較ではなく、自分が向上したいこと、克服すべきこと、できるようになったこと、に集中することなんだと息子に繰り返し伝えています。
そして私も息子に対して誰かと比較するような声かけはしないように肝に銘じています。ジュニア年代というのは、周りを気にせず自分自身や今この瞬間に没頭するのが得意な年代のはずです。この頃から周りの目や評価を気にしてしまうのは、もしかしたら私たち大人の責任なのかもしれません。
3.サッカーの本質を理解したうえで、自分の武器を探究する
年齢が上がりもっともっと競争が激しくなっていくと、自分にしかない圧倒的な武器を持ち合わせて、それをピッチ上で表現できなければ選手として生き残っていけません。
ジュニア年代ではとりわけ「上手い」「速い」だけが注目されがちですが、将来サッカー選手として必要とされる武器はそんな単純なものではありません。チームや監督は何を必要としているのか、自分はそこにどうハマるのか、他の選手にはない自分の特徴とは何なのか、それは試合でゲームの流れを変えたり決定づけるような力になりうるのか、といった多角的な視点から武器探しをする必要があるのはもちろんのこと、何よりもそれがサッカーの本質である「チームとして勝つ」という目的を達成することに貢献できる武器でなければいけません。
ジュニア年代の息子は今、このサッカー選手としての武器探しの旅を始めたばかりです。強い個性をもった選手たちに囲まれて成長していくなかで、「ただ上手い」サッカー選手を目指すのではなく、サッカーの本質に沿ってチームの勝利に貢献できる自分だけの武器を見つけ、磨いていってほしいと願います。
アメリカであっても日本であっても、サッカーを続けていれば高い壁はいつでもどこでも立ちはだかります。時にどんなに努力したとしても真っ向勝負では超えられない壁も存在します。
そのなかで自分の武器と勝負の仕方を考え、追求し、磨き上げていくことが、サッカー選手として成長していくことなのでしょう。親としてそのプロセスを楽しみながら、ゆっくりと長い目で見守っていきたいです。