「うちの子は試合に出られなくて…」と悩む保護者の方へ。補欠経験を「一生モノの武器」に変える、親の寄り添い方【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】
サカママ読者の皆さま、こんにちは。大槻です。
つい先日2026年がスタートしたかと思えば、カレンダーはもう1月の終盤…時が経つのは本当に早いものですね。
今年のサッカー界も、お正月の風物詩である高校年代の全国大会から華々しく幕を開けました。テレビや現地で、夢を追いかける選手たちの熱い戦いに胸を打たれた方も多いことでしょう。

しかし、その盛り上がりの影で、保護者の皆さまがふと感じる「現実」もあるのではないでしょうか。「あんなに練習しているのに、なぜうちの子は試合に出られないのか」「カテゴリーが上がっても、ベンチを温める日々が続いている」「頑張りは認めてほしいけれど、結果(出場時間)が伴わない」華やかな舞台を見れば見るほど、わが子の現状と比較してしまい、「試合に出ることの厳しさ」や「競争の激しさ」を痛感することもあると思います。
これまで多くのジュニア年代の選手、そしてその保護者の方々と関わってきましたが、最も多く寄せられる切実な悩みの一つが「試合に出られないこと(チーム内での評価)」についてです。
「うちの子、ずっと試合に出られないんです」「下のクラスに落ちてしまって、親子で立ち直れません」「試合に出られないのに、このまま続けていて意味があるのでしょうか?」
週末、グラウンドの隅でユニフォームを汚さずに帰ってくるわが子の背中を見るのは、親として本当に胸が痛むものです。代わってやりたい、せめてコーチに理由を聞きたい、いっそ別のチームへ……そんな思いが駆け巡ることもあるでしょう。
しかし、あえてお伝えしたいことがあります。「試合に出られない(補欠)の経験」は、捉え方次第で、順風満帆に過ごすことよりもはるかに価値のある「一生モノの武器」になることがあります。
今回は、挫折や我慢が必要なこの時期に、親としてどう寄り添えば子どもに「折れない心」が育つのか、一緒に考えていきたいと思います。
1. 「試合に出られない=停滞」という思い込みを捨てる
まず、保護者の皆さんに知っておいていただきたいのは、「指導者は子どもの『今』の能力で分けているだけで、『将来』を諦めて分けているわけではない」ということです。
子どもの成長スピードは驚くほどバラバラです。早熟な子もいれば、技術はあっても体格が追いつかない子、戦術理解に時間がかかる子もいます。
ここで最も避けたいのは、親がショックを受けるあまり、無意識に「試合に出られない=ダメな子」というメッセージを子どもに発信してしまうことです。子どもは親の表情を実によく見ています。親が暗い顔をしていれば、子どもは「試合に出られない自分は、お父さん・お母さんを悲しませているんだ」と、サッカーそのものに罪悪感を抱くようになります。
試合に出られない状況は決して停滞の場ではありません。自分に足りないものを見つめ直し、虎視眈々とチャンスを狙う「準備の場」なのです。

2. 「比べる対象」を横から縦へ変える
試合に出られない状況にいると、子どもも親もどうしても「試合に出ている誰か」と自分を比べてしまいます。「あの子より自分のほうが足が速いのに」「あの子はミスをしても外されないのに」。
この「横の比較」は、多くの場合、嫉妬や諦めといったネガティブな感情しか生み出しません。大切なのは、比較の軸を横(ライバル)から縦(過去の自分)へシフトさせることです。
私はいつも選手たちにこんなことを言います。
「昨日の自分より、一つでもできることは増えた?」と。
保護者の皆さんの役割は、この「縦の成長」の証人になってあげることかもしれません。
「今日はトラップの向きを意識していたね」
「ベンチにいる時も、大きな声で仲間を鼓舞していたのは立派だったよ」
「1カ月前より、球際で逃げなくなったじゃない」
試合の結果や得点、アシストなど「目に見える結果」ではなく、本人が積み上げている「プロセスや姿勢」に光を当ててください。親だけは自分の努力を見てくれている。その安心感こそが、逆境に立ち向かうエネルギーの源になると思います。
3. 「共感」はするが、コーチの「批判」はしない
お子さんが「なんで俺だけ出られないんだよ!」と腐りそうになったとき、どう答えていますか?
ここで大切なのは、「感情には100%共感し、課題の所在は明確にする」というバランスです。
「悔しいよね」「出たいよね」という言葉で、まずは子どもの傷ついた心を受け止めてあげてください。しかし、その後に「あのコーチは見る目がない」「ひいきだ」と同調するのは違います。親が指導者を批判した瞬間、子どもの思考は「自分の努力」ではなく「他人のせい(環境のせい)」に向かってしまいます。これを心理学で「外的コントロール」と呼び、これが癖になると自立心は育ちません。
「悔しいね。じゃあ、コーチは今のあなたに何を求めているんだろうね?」「試合に出ている選手にあって、今のあなたに足りないものは何だと思う?」
このように、「どうすれば現状を変えられるか」という課題の主導権を子どもに戻してあげることが、精神的回復力を育む第一歩になります。

4. 精神的回復力を育む「3つのステップ」
具体的に、試合に出られないという環境をどう成長につなげるか。以下の3段階を意識して接することをお勧めしています。
ステップ1:受け入れる
まずは「今は試合に出られない状況である」という現実をフラットに受け止めること。これは諦めではなく、現在地を知ることです。地図を見るとき、目的地だけわかっていても、現在地がわからなければ進むべき方向が決められませんよね。
ステップ2:自分でコントロールできることに集中する
出場時間やメンバー選考はコーチが決めます。つまり子ども自身にはコントロールできません。しかし、「今日の練習の取り組み」「家での身体のケア、生活習慣」「ベンチでの振る舞い」は間違いなく自分でコントロールできます。「自分にできること」にエネルギーを注いでいくことで、子ども達にも方向性が見えてくるはずです。
ステップ3:意味づけを変える
「試合に出られないのは恥ずかしいこと」という定義を、「試合に出られないからこそ、自分の弱点をじっくり克服できる時間だ」と書き換えます。この思考の転換ができる子は、大人になっても強いです。どうしても周囲を気にしてしまいがちですが、考え方を変えることで自主性も育っていくと思います。
5. 子どもを自立させる「魔法の問いかけ」
大人の指示ではなく、子どもが自ら考え始めるために、日常生活でこんな問いかけを試してみてください。
「今のチームで、君が一番貢献できることは何だと思う?」(自分の役割を客観的に探す視点を持たせる)
「試合に出たら、どんな武器で勝負したい?」(未来の自分をポジティブに想像させる)
「お父さんは、どんな状況でも頑張る君を誇りに思っているよ。何か手伝えることはある?」(無償の愛を伝えつつ、本人の主体性を尊重する)
「頑張れ」という言葉は、時に子どもを追い詰めます。しかし「見守っているよ」というメッセージは、子どもを自由にします。

まとめ
10年後の「武器」を作るのは今の積み重ね
サッカー人生は長いです。プロになる子もいれば、別の道に進む子もいるでしょう。しかし、人生のどこかで必ず「自分の思うように評価されない」「壁にぶつかる」という時期がやってきます。
そのとき、中高生や大学生、社会人になってから初めての挫折を味わうよりも、ジュニア年代という「やり直しのきく時期」に、悩み、もがき、自分なりに工夫して現状を打破しようとした経験は、何物にも代えがたい「最強の武器」になります。
「あのとき、試合に出られなくても腐らずに頑張ったから、今の自分がある」10年後、20年後、お子さんとそんな風に笑い合える日が必ず来ます。
今、お子さんが向き合っている「我慢」は、決して無駄ではありません。それは、深く根を張るための大切な時間です。保護者の皆さんも、焦らず、腐らず、お子さんの「一番のファン」として、その背中を温かく見守ってあげてください。
未来の彼らを作るのは、今の「上手くいかない時間」への向き合い方なのです。