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「認知的不協和」から考える子ども達への働き掛け【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

サカママ読者の皆さま、こんにちは。大槻です。
気が付いたら、もう11月になろうとしています。今年も残り2か月、月日の経過が早く感じますね。私たちはこの2年間余り、コロナに振り回される時間を過ごしてきた訳ですが、そのような状況だからこそ出来たこと、逆に出来なかったことがあったかと思います。しかし、一方で本当は出来たかもしれないことでも、コロナを出来ない理由にしていたこともあったのではないかと思っています。

日常生活の中でも、本当はやりたいんだけど、なぜか自分に都合良く出来ない理由を探してしまうということはありませんか? 大人だけではなく、子ども達もまたそういった相反する思いと戦っていることがあります。今回は、そんな時どんな風に働きかけていけば良いのかを考えていきましょう。

認知と行動の矛盾で生じる「認知的不協和」とは?

認知的不協和」という心理効果をご存知でしょうか。これは自分の認知と行動に矛盾がある時に生じる不快感やストレスのことを言います。この状態に陥ると、人は不快感やストレスを軽減するために認知や行動を変化させることがあります。

この認知的不協和を説明する際によく用いられるのが、イソップ童話の「酸っぱい葡萄」です。これは、キツネが手が届かなくて食べられないブドウを見て、「あのブドウは酸っぱくて美味しくない!」と言って立ち去るお話です。
キツネは【食べたいけど手が届かない】という状況に対して不快感・ストレスを感じている訳ですが、これを解消するためにはどんな対応が考えられるでしょうか? 一つは、何か対応策を講じてブドウを取ることですね。そして、もう一つがお話の中でキツネがとった「このブドウは美味しくないから、食べなくていい」と考えを変えて自分を納得させることです。

私たちもキツネがとった行動と同じように、認知的不協和の状態に陥ると当初の考えを変えて、自分の行動を合理化しようとすることがあります。この方法はとても簡単ですし、ひとまず不快感やストレスも解消されるでしょう。でも、根本的な問題の解決にはつながっていませんし、これを続ければ成長も止まってしまいます。そして、こういった認知的不協和はサッカーの指導現場や、親子の向き合い方でも起こるものだと感じるのです。

 

指導者にとっての認知的不協和

サッカーの指導現場でも認知的不協和が見られることがあります。例えば、プレーヤー時代に理不尽で厳しい練習を経験してきた指導者がいたとします。自分では過去の練習を「必要以上に辛く、厳しいものだった」と認識しているのにも関わらず、自身の経験を否定することができずに「あの頃の厳しい練習があったからこそ今がある!」「この世界ではこれが当たり前のことなんだ」と、その経験を合理化して、また同じような理不尽で厳しい練習を指導者としても繰り返してしまうのです。

ここで気にしてほしいのは、厳しいの練習の中身です。乗り越えなければならない壁に立ち向かう時は、程度の差はあれど誰でも厳しさを感じるものです。しかし、それが心を奪うものになってはいけないと思っています。「自分がやってきたからいいはずだ」と深く考えることなく進めてしまうのではなく、「それは本当に必要だったか」「それをした時、どんな風に感じていたか」「他にどんな方法があるか」といったように、新しい情報や知識、今の価値観とあわせて検討していくことが必要ではないでしょうか。

 

子どもの認知的不協和を解消する保護者の働き掛け

さて、認知的不協和は大人に限ったものではありません。当然、子どもでも自分の認知と行動の矛盾に苛立ち、簡単な方法を取ろうとしてしまうことがあるでしょう。

例えば、ドリブルが苦手で自信が持てない子どもがいるとします。本人はドリブルが出来るようになりたいと思っていても、上達へのハードルが高い状況です。そうすると、「○○君もドリブル苦手だから、自分も出来なくていいか」「ドリブルしないで、パスすればいいか」と自分に都合がいい理由を探し始めるかもしれません。それを見た保護者は「やる気がないから出来ないんだよ!」などと怒ってしまうこともあるでしょう。でも、子どもは出来るようになりたいと思っていますし、保護者もこれを乗り越えて欲しいと思っていますよね。ただ、そのハードルの高さを感じて、「なぜ苦手なのか」を考えずに、親子共にひとまず自分が感じているストレスを解消しようという方向に走ってしまうのです。

では、こんな時に保護者はどのように子どもを導いてあげるといいのでしょうか? これまでのコラムでもお伝えしている通り、他人との比較には意味がありませんから、その子自身の成長を見て行くことが大前提にあります。その上で、3つのポイントを提案したいと思います。

ポイント❶不安の根っこがどこにあるのかを探ってみる

子ども達のサッカーにおいては、不安の原因が技術的な問題ではないことも多くあります。例えば、友達関係です。友達から言われた心無い一言に傷つき、自信を失っているのかもしれません。不安の原因が何なのかをしっかりと把握することで、アプローチの仕方も変わってくるはずです。

ポイント❷まずは簡単なことから取り組む

あまりにも高い目標は気持ちがなかなか続かないものの。ですから、いきなり難しいことに挑戦しないことです。例えば、いきなり「試合でドリブル突破してシュートを決める!」という目標を設定するよりも、まずは「試合でドリブルしてみよう!」など少しハードルを下げた設定をすることです。達成可能な目標を設定することがモチベーションにも繋がります。

ポイント❸トライを賞賛する

ポイント❷のように目標を設定できたらそれに取り組むステップに入りますが、その時に「出来た・出来ない」の話よりも、まずはトライした子どもの姿勢を賞賛してあげてください。たとえ最初は出来ないことが続いても、最終的に出来たときの喜びは格別なものになるはずです。

 

「根本的な解決になっているか?」という視点を忘れずに

認知的不協和な状態に陥ったときに、どのように対処していくのかを考えることは子どものみならず大人にとっても大切なことです。こういった心理状態があることを知っておくだけで、自身を振り返る瞬間が作れると思います。大人でもその場の感情をやり過ごすために、つい楽な考えをしがちですが(例えば「ダイエットは明日から……」とかでしょうか。笑)、「それが根本的な解決になっているか?」という視点を忘れないようにしたいですね。

WRITER PROFILE

大槻邦雄
大槻邦雄

1979年4月29日、東京都出身。
三菱養和SCジュニアユース~ユースを経て、国士館大学サッカー部へ進む(関東大学リーグ、インカレ、総理大臣杯などで優勝)。卒業後、横河武蔵野FCなどでプレー。選手生活と並行して国士舘大学大学院スポーツシステム研究科修士課程を修了。中学校・高等学校教諭一種免許状を持ち、サッカーをサッカーだけで切り取らずに多角的なアプローチで選手を教育し育てることに定評がある。

BLOG「サッカーのある生活...」も執筆中
★著書「クイズでスポーツがうまくなる 知ってる?サッカー

株式会社アクオレ株式会社ティー・パーソナル