子どもたちの成長の個人差【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】
サカママ読者の皆さま、こんにちは。大槻です。
2025年がスタートしました。
引き続きコラムを継続していく予定ですので、本年もどうぞよろしくお願いします。
12月に入ると、各カテゴリーで全国大会が開催されていましたね。
参加選手のみならず、保護者の皆さまの関心も大きかったのではないでしょうか。全国大会なのでどうしても結果に注目が集まります。スマートフォンの普及によってメディア媒体も増え、育成年代を取り上げるメディアやライターも増えてきました。注目していただくことは良いことではありますが、そこには冷静にならなければならないこともたくさんあります。
もちろん結果も大切ですし、指導者としても選手としても全力でそこに立ち向かいます。しかし、どんな結果であっても、どのように取り組んできたのか、どういう思いで取り組んできたのか…そういったことに少しでも目を向けて大切にしてほしいとも思っています。
結果だけに縛られてしまって、大切なことを見失ってしまわないようにしたいものです。
さて、今回のコラムですが、私も父親になり、子どもたちのサッカーに関わることが多くなってきました。指導者として、そして父親としての二つの想いが複雑に交差する瞬間があります。
そんななか、少し冷静になって子どもたちのことを考えることがあります。親の立場になると、頭の中では解っていても、どうしても焦る気持ちが出てきてしまいます。そこで『子どもたちの成長の個人差』について、もう一度整理をしていきたいなと思っています。
成長の個人差
ご存じの通り、子どもたちの成長には個人差があります。
同じ学年であっても体の大きな子もいれば、まだまだ小さな子もいます。加えて体の成長だけでなく、理解力であったり、判断力であったり、頭の成長の個人差もあります。
もちろん環境によって後天的に変わってくる部分もありますが、まずは個人差を受け入れることが大切です。
体の成長の早い大きな子は、スピードやパワーに勝ることが多いと思います。周囲と比べると勝ることが多いので、考えや狙いがなくてもできてしまうことが多いこともあるでしょう。結果的にできることが多いので自己肯定感も高まり、自信を持ってプレーするようになっていきます。
しかし、体が大きくてスピードやパワーに恵まれているからできていることなのか? そこに考えや狙いがあってできていることなのか? そこの見極めはとても大切なポイントです。
できる、できないだけでいえば、体の小さなうちはできないことがあったり大柄な選手に負けてしまうこともあると思います。先程も述べたように、そういった目に見える結果だけを取り出してしまうと、体の小さな子どもたちは自己肯定感を育みにくくなりますよね。
結果だけにとらわれずに、考えていることや狙っていることを見つけ出してあげる必要があります。体の小さな子どもたちであっても、少しだけアプローチを変えてあげるだけで、自己肯定感を高めながら成長を見守ることができると思います。
加えて、体が大き過ぎてうまく動かせない…といった子もいます。これは〝クラムジー〟という時期かもしれません。
クラムジーとは?
身長が急に伸びてしまうことによって、身体のバランスを失ってしまい、思うように身体が動かせなくなる時期のこと。今までできていた動きができなくなり、動きにぎこちなさが出てきてしまい転んでしまうことも目立つようになります。
『もっと早く動きなさい!』と言いたくなってしまうこともあると思いますが、この時期はスピードや強度といったものを求めるのではなく、まずは今まで取り組んでいた技術の復習をゆっくり取り組むことが良いでしょう。
成長には個人差があると頭では解っていても、いざ我が子を見るとモヤモヤとしてしまうこともあると思います。それでも『そういう時期なんだ…』と、少し冷静になって子どもたちを見てあげてください。
考える習慣の大切さ
先程も述べたようにジュニア、ジュニアユース年代は特に体の成長の個人差が著しい時期です。つまり体の大きな子が有利になることがたくさんあるということです。そこで〝良し〟とせず、考える習慣を身に付けていくことが大切です。
高校生から大学生くらいになると、体の条件は同程度になってきます。それまでは、どういったことを考えてプレーしていたか? という視点を持っておく必要があります。
もちろんそこには『なんでそのプレーに!?』みたいなこともあると思いますが、そこは技術的な問題なのか? 戦術的な問題なのか? メンタル的な問題なのか? ミスや失敗が起こった原因を見極めてあげる必要があります。これは子どもの考えや狙いを尊重するといった意味で重要なことです。
もちろん短期的に見れば、ガンガンやりこませていたほうが差になることがあるかもしれません。しかし長期的に考えたときに、体の大きさやパワーだけで誤魔化さずに、子どもたちの基準を整えてあげることが大切です。
〝生まれ月〟から見る子どもたちへの働き掛け
日本におけるサッカー選手の生まれ月を調べてみると、4月~6月に多いことがわかります。また、それとは対照的にいわゆる早生まれと呼ばれる1月から3月の選手が少ないというデータも出てきます。衝撃的なデータではありますが…これは何を意味しているのか? ということを深く考えてみる必要があります。
冷静に考えてみると、4月生まれの子と3月生まれの子は約1年の差がありますが、同じ学年です。体の大きさだけでなく、単純に失敗や成功の経験の差があるにも関わらず、同じ土俵で評価をされてしまいます(※極端ですが、0歳と1歳は違いますよね。。。)。
個人的な見解ですが、このデータが出る理由として3つのポイントがあると思っています。
周囲の期待とチャンス
どうしてもできることが多くなり、周囲の期待を受けてプレーができるので、結果的にさまざまなチャンスを得やすい状況にあります。同じ学年であるという枠組みによって、どうしても比較した見方をしてしまう。
自己肯定感
子ども自身が〝できるんだ!〟という自己肯定感を育みやすい環境にあるので〝自信〟を持つことができる。逆に早生まれだと、常に体格差のあるなかでプレーをすることになるので自信を失いやすい。
試合出場の機会
勝利を目指すからこそ育まれることはたくさんありますが、行き過ぎた勝利至上主義によって、早生まれの子の試合出場の機会を奪ってしまうこともある。
生物学的にいえば、学年が違うレベルですからそういった視点が必要だと思います。個人差のところでいえば、もちろん同じ月の生まれであっても体の成長スピードが違うこともあるでしょう。そういった視点を周囲の大人が持てるかどうかが大切なポイントだと思います。
他の国の取り組みでは、早生まれで代表チームを作ったり、早生まれのグループでトレーニングをしたりという事例もあるようです。そして、日本では国民体育大会の少年の部、アンダー世代の日本代表では、早生まれの選手を発掘する取り組みがなされています。
しかし、特に成長の個人差が大きいジュニア、ジュニアユース年代ではまだまだそのような取り組みや施策が十分とは言い切れません。ですから、まずは身近な保護者の皆さまや指導者の見方、働き掛けが重要になってくるでしょう。
今後、年齢ではなく生物学的な年齢別でトレーニングをしたり、大会を開催するような機会が必要になってくると思います。
関わった早生まれの選手
私が過去に関わった早生まれの選手でいえば、FC町田ゼルビアに所属している相馬勇紀選手(サッカー日本代表FW・大学卒業後に名古屋グランパスに入団、昨年6月までポルトガル1部でのプレーも経験)が挙げられます。彼は2月25日生まれの選手でした。
幼い頃から体は小さかったのですが、瞬間的なスピードがありました。とても人懐っこくて可愛いという半面、内面的にはすごく幼いところがあって、できないことも多かったのを記憶しています。しかし、同じクラブの中で彼のパーソナリティや武器を認められ続けたことで、少しずつ自身の武器を理解して発揮することができるようになってきた選手でした。
選手として大切な武器を持っている選手ではありましたが、周囲の関わりが彼自身の自己肯定感を育てた一つの事例だと思います。
まとめ
生まれ月だけでなく、子どもたちの成長には個人差があります。頭では解っていても、親になるとどうしても比較して見てしまいがちです。しかし、我が子を信じてあげられるのは一番近くにいる親しかいません。
少し冷静になって、我が子の様子を観察してみてください。子どもたちのできないことばかりに目を向けるのではなく、できることに目を向けてみてください。子どもたちの姿を笑顔で見守って、楽しいサッカーライフを送ってください。