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Jリーガーたちの原点 vol.55「市原吏音(RB 大宮アルディージャ)」

Jリーガーたちの原点 vol.55「市原吏音(RB 大宮アルディージャ)」

小4で憧れのアルディージャへ。考えてプレーすることの大切さ

2023シーズンにクラブ史上最年少の18歳5日でトップチームにデビューすると、以来センターバック(以下CB)のレギュラーに定着。RB大宮アルディージャ(以下アルディージャ)のアカデミーが生んだ最高傑作と言われる未来の日本代表スター候補が、プロ2年目の市原吏音だ。

埼玉県さいたま市で生まれ、サッカー部の顧問を務める体育教師の父と、サッカーを始めていた2歳年上の兄の影響で「物心ついた頃にはボールを蹴っていた」という市原。「小学校に上がる前から、兄が通う大宮流星サッカースポーツ少年団の練習に参加させてもらっていました。すごく自由な少年団で、FW からGK までやりたいポジションはどこでもやらせてくれましたし、サッカーは楽しむことが一番だというのを教えてもらいましたね」

同時に幼少期から身近な存在だったのが、自宅から自転車で2、3分のところに練習場があるアルディージャだ。小学生になると少年団と並行して同クラブのサッカースクールに通い、3年生のときにU12のセレクションに挑戦。最終選考で漏れてしまったものの、翌年には合格し、憧れのクラブの一員となった。「最初のオリエンテーションで『プロサッカー選手になるのは東大に入るよりも難しい』といった話をされたんです。それを聞いたときに『やってやるよ!』と気持ちに火がついたのを覚えています。『プロになりたい』と思った瞬間でした」

そこでプレーできる喜びを感じながら、先にアカデミーに加入していた兄を追いかけ、よりレベルの高いチームメイトと切磋琢磨した日々を「すべてが学びだった」と振り返る市原。「蹴った分だけ、やればやるだけ上手くなるので、とにかく必死に練習していました。そこで大切だと知ったのが、考えてプレーするということ。パスを1本出すにしても、どういう意図を持って、受け手のどちらの足に、どのくらいの強さで出せばいいかといったことを練習から意識するようになりました。この頃からピッチの上で“考えるクセ”がついたことが今につながっていると思います」

信じて尊重してくれた両親の支え。人生を変えた中3の「追加招集」

こうしたサッカー漬けの毎日を、両親は常に陰から支えてくれたそうだ。「指導者の父もサッカーに関して口を出すことはありませんでした。あえて言えば、兄が何か言われているのを見て、こうしないほうがいいんだなって学んだり。僕は要領がいいほうなんです(笑)。母もいつも優しく見守ってくれていました。僕は小学生の頃、チームで一番と言っていいくらい、ごはんを食べられない子だったんです。ときには泣きながら食べていましたけど、母が毎日おいしい食事を用意して、なんとか食べさせようとしてくれたことは、今思うと本当にありがたいですね。両親とも教師なのですが、勉強に関しても言われることはありませんでした。何事も僕の意見を尊重してくれましたし、最終的には自分で判断しろと。だから自然と考えて行動するようになったんだと思います」

アルディージャU15に進んだ中学時代、その後CB として大成するうえで貴重な経験となったのが、ボランチでのプレーだ。「ボランチとCB を半々くらいでやっていましたが、最初は正直、ボランチに乗り気ではなかったんです。前後左右360度の状況でプレーするボランチはやはり難しいポジションで、体力的にもきつかったので。それでも当時のコーチが後方で“ラクをしがち”だった僕に対して、『CB は余裕でこなせるんだから中盤でもっとチャレンジしてみろ』『その経験が絶対に生きるから』と言い続けてくれたんです。振り返ると本当にボランチをやっていてよかったですし、僕の将来を見据えて向き合ってくれた指導者のみなさんには感謝しかありません」

そんな市原に人生のターニングポイントが訪れたのは中学3年生の12月。アルディージャで中心選手として活躍していながら、埼玉県トレセンやナショナルトレセンとも無縁だったが、それを一気に飛び越えてU-15日本代表の候補メンバーに選ばれたのだ。トレーニングキャンプに選出されていた選手がケガをしたことで、「追加招集」という形で回ってきたチャンスだった。「ずっと練習は真剣にやってきたし、チームメイトに代表クラスの選手がいたので、(代表の選考スタッフから)確実に見られているのはわかっていたんですけど、中1、中2と呼ばれることはなくて。『自分に何が足りないのか?』と悩む時期もありました。そんなとき、代表から声がかかったんです。サッカーをやっていてよかった、やり続けることが大事なんだと思いましたね」

初めての代表活動を「やれる自信しかなかった」「手ごたえしかなかった」と回想する市原。そこで実力を存分にアピールすると、翌年昇格したアルディージャU18でも努力を重ね、高校1年生から高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグの舞台でスタメン入りするなど経験を積み、世代を代表するCB に成長していく。そしてキャプテンに就任した3年生の7月には、前述のようにトップチームに参戦。その後のJ2リーグ全17試合に先発フル出場し、瞬く間に不動の地位を確立して翌2024年1月、プロ契約を勝ち取ったのだった。

市原吏音選手試合風景

選手である前に人間として、「今を全力で」「常に謙虚に」

「 アルディージャのアカデミーに入っていなかったら今の自分はない」と市原は言う。「サッカー選手としてというよりも、ひとりの人間として社会に出ていくために必要なことを叩き込まれました。施設やスタッフに恵まれた環境でプレーさせてもらっていましたが、『これが当たり前ではない』『慣れてしまったら成功しない』と言われ続けていたので。僕は小6、中3、高3と節目の年に監督が一緒だったんです。プロ選手としても活躍した森田浩史監督(現U15コーチ)から教えられて心に残っているのが『今を全力で生きる』ということ。その言葉が書かれた色紙が実家の部屋に飾ってあります。また、父からはずっと『謙虚に』『愚直に』と言われていて、その教えも僕の人生の指針となっていますね」

思い描く自身の未来像について「まずはアルディージャでJ1に昇格することが一番近い目標。そして将来的には海外で活躍して、A代表に入って、日本を背負ってプレーすることが僕の夢です」と力強く語ってくれた市原。現在はFIFA U-20ワールドカップ(9月27日開幕)に臨んでいるU-20日本代表のリーダーが、最後に全国のサッカージュニアとサカママに向けてメッセージを残してくれた。「チャンスは突然やってくるから、それを信じて練習をやり続けることが大事。今がすべてじゃないので、苦しいことがあっても楽しむことは忘れず、サッカーに向き合ってほしいですね。親御さんには、まだ20歳の僕が言うのはおこがましいですけど、子どもを信じて、なるべくやりたいようにやらせてあげてほしいなと。あまり言いすぎると親の言うことしかやらなくなってしまうと思うので、色々なことを自分で考えさせる環境に置くことも大切なのかなと思います」

市原吏音選手試合風景

写真提供/RB大宮アルディージャ
Ⓒ2024 RB OMIYA Inc.

(2025年10月発行 soccer MAMA vol.55 「Jリーガーたちの原点 vol.55」にて掲載)

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