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「勝ち」は子どもの「価値」か?〜SNS時代のサッカー育成で大人が持つべき心構え【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

「勝ち」は子どもの「価値」か?〜SNS時代のサッカー育成で大人が持つべき心構え【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

サカママ読者の皆さま、こんにちは。大槻です。

10月に入って朝晩が少し涼しく感じるようになってきました。各カテゴリーの最終学年を迎える子どもたちにとっては、最後の大会を戦っている最中でしょうか。
応援にも力の入る時期になってきましたが、子どもたちはもちろんのこと保護者の皆さまも、とにかく今の時間を楽しんでほしいと思います。

さて最近、育成年代のサッカーの現場に立っていると少し不安になってしまうことがあります。それは、勝ち負けが価値の証明となってしまっているような風潮です。もちろん私も現場の指導者ですから、勝敗にはこだわりますし、負けず嫌いであると自負しています。子どもたちには全力で勝利を求めています。しかし、同時に育成年代を預かる指導者として、勝敗に対するアプローチは冷静に考えなければならないとも思っています。

これは育成年代のサッカーを取り巻く社会環境の変化も要因の一つかもしれません。子どもたちの成長を見守る大人として、どのような心構えが必要なのでしょうか?
整理をしながら、一緒に考えてみましょう。

SNS時代と大人の不安

現代のサッカー育成で、勝ち負けだけが目立ち過ぎてしまうのは、スマートフォンの普及やSNS、メディアの多様化といった社会の変化が大きく影響していると思っています。

地域の大会の結果でさえ、すぐにネットで共有され、誰が活躍したかが「公開情報」となってしまう時代です。成功も失敗も、すべてが可視化されてしまいます。
この「結果の露出」は、私たち大人の焦りを生み、不要な競争意識を生み出している気がしています。

「あの子はもうこんなに活躍しているのに、うちの子は……」。他の子との比較は、知らず知らずのうちに本質的な育成の視点を曇らせてしまいます。大人の不安が、知らず知らずにお子さんに伝わり、「勝つこと」「活躍すること」がすべてだという、少し窮屈な価値観を押し付けてしまいかねません。

良い思考の習慣を育てる

このコラムの中でも何度も申し上げていることですが、他の子と比較せずに我が子の成長を見てあげてほしいのです。

育成年代のサッカーでは、結果(ゴールを決めた、試合に勝ったなど)だけで評価すると、「練習はサボっても、試合で点を取れればOK」「結果、勝てば良いでしょ!?」という考えにつながってしまう可能性もあります。それでは、選手は取り組みの価値を見失ってしまいます。

ですから、取り組む姿勢を評価することが大切だと思っています。
例えば、
1. 試合に負けたとき
「今日は負けたけど、〇〇選手が最後まで諦めずにボールを追いかけた姿勢は素晴らしかったね」
2. 練習のとき
「この前の試合でパスミスが多かったから、今日は練習中ずっと誰に、どういうパスを出すか意識していたのはすごいね」

このように過程を評価することで、結果がどうであれ、「自分の努力は意味があった」と、選手自身が自分の取り組みに点数をつけられるようになります。

このような思考の習慣は、サッカーの現場だけで育っていくものではありません。ご家庭での日々の声かけ(例えば、宿題に根気よく取り組んだことや、お手伝いを一生懸命やったこと)の積み重ねで育まれます。サッカーと家庭、両方で「姿勢を評価する」習慣が、選手の成長につながっていきます

成長は、十人十色。身体の「今」は才能のすべてじゃない

皆さん、思い出してみてください。これまでのお子さんの成長は、決して一直線ではありませんでしたよね?

まず大前提に子どもの心と身体の成長には、個人差があります。これは大人が理解しておく必要があります。ある子は小学4年生で急に身長が伸び、ある子は中学を卒業してから一気に伸びることだってあります。それは理解力であったり、メンタルや感情のコントロールだって、みんなバラバラです。そのなかでフィジカルの強さが目立つ時期があったとしても、それはお子さんの「今の状態」にすぎません。

しかし、一方では身体の成長の早いお子さん、早熟傾向の子のほうが試合の中心になりがちです。短期的な勝利を求めると、どうしても早熟傾向の子に頼りたくなってしまいます。指導者としては、その気持ちも分からなくもありません。しかし、必要な技術や戦術、メンタルをおざなりにしてしまうと、身体の成長によって条件が同程度になったときに選手として苦労することもあります。逆に身体の成長の遅い子は、どうしたら身体の大きな子に勝っていくか? を考えてプレーすることになり、必然的に技術や発想、アイデアといったものが身についていくこともあります。

でも、もし育成年代にある選手たちを、“身体のサイズや走力、力強さといった身体的な差を選手としての差である”という基準だけで判断してしまったらどうでしょうか。。。

成長が遅い子は「自分はダメなんだ」と自信をなくし、大好きなサッカーへの意欲、ひいては自己肯定感を下げてしまうかもしれません。間違えてはいけないのは、彼らはただ自分自身の成長曲線をゆっくり進んでいるだけなのです。

大切なことは、身体のサイズに関係なく、必要な技術や戦術、メンタルを指導していくことだと思っています。そのうえで身体のサイズが特徴になることがあれば、それを生かしていくべきですし、その特徴を子どもたち全員が尊重できるような環境にしていくことなのだと思います。

身体の条件が整う未来を見据え、「今」は何を育ててあげられるか。それを考える時間こそが、本当の育成なのではないでしょうか。

大人の責任と振る舞い

勝ち負けが唯一の価値だと信じ込まされてしまうと、勝つためにプレーが少し荒々しい方向へ向かってしまうことがあります。加えて暴言や挑発行為などを見かけることもあります。

「球際の攻防」はサッカーの魅力ですが、それが「勝つため」という言葉で過度に強調されると、接触が悪質になったり、危険なプレーが横行することにつながります。
これは、お子さんたちをケガのリスクが高い環境に晒すことになります。

そして、さらに心配なのが、大人たちの判断です。
とにかく激しい当たりを強要し、リスペクトに欠けたプレー、相手のことを考えない危険なプレーを賞賛してしまう...サッカー以前に指導しなければならないことを見過ごしてしまうようなこともあるようです。

加えて「多少のケガなら大丈夫、試合に出しちゃえ」と目先の勝利に目がくらみ、私たち大人のリスク管理が足りないために、子どもの身体を大切に扱えなくなってしまうこともあるようです。

指導の現場には、勝利を求める熱意を持ちつつも、お子さんの心身の安全を何よりも優先し、正しい技術とフェアプレー精神を教える、愛情と倫理観が求められています。勝利を追い求めることは当たり前のことです。しかし、子どもに厳しい指導をするだけでなく、大人の振る舞いも見直すことが必要なのではないでしょうか。

勝利の先にある「子どもたちの笑顔」を見つめ直す

「結果」と「育成」のバランスを考えることは、私たち大人や社会全体で、もう一度温かい目で見直さなければならないことだと思っています。目先の勝利がもたらす喜びは、一瞬で消えてしまうかもしれません。でも、子どもたちの健全な成長、サッカーへの心からの愛情、そして自分を信じる力は、子どもたちの長い人生を支え続ける、かけがえのない宝物になります。

何度も申し上げますが、勝利を目指すことは当たり前のことです。
しかし、勝利を追い求めるあまり、将来大きく花開くかもしれない子どもたちの成長をないがしろにしたり、子どもたちの身体の安全を軽視したりすることは、子どもたちの未来を自ら手放してしまうようなものだと思うのです。

私たち大人が、短期的な結果への焦りから解放され、「個」の成長の多様性を尊重し、子どもたちの「今」だけでなく「未来」に対して、愛情を持って見守ること

勝利の歓声も素晴らしいですが、それ以上に一人の子どもが自信を持って、目を輝かせて成長していく姿を、心から称賛できるような大人でいたいと思います。

どんな偉大なサッカー選手も育成年代を過ごしています。すべての選手が、彼らが幼い頃からスター選手だったわけではありません。成功の裏には数多くの失敗を経験しているものです。大切なことは、その失敗を一緒に考えて、良い方向に導いてあげることだと思います。

WRITER PROFILE

大槻邦雄
大槻邦雄

1979年4月29日、東京都出身。
三菱養和SCジュニアユース~ユースを経て、国士館大学サッカー部へ進む(関東大学リーグ、インカレ、総理大臣杯などで優勝)。卒業後、横河武蔵野FCなどでプレー。選手生活と並行して国士舘大学大学院スポーツシステム研究科修士課程を修了。中学校・高等学校教諭一種免許状を持ち、サッカーをサッカーだけで切り取らずに多角的なアプローチで選手を教育し育てることに定評がある。

BLOG「サッカーのある生活...」も執筆中
★著書「クイズでスポーツがうまくなる 知ってる?サッカー

株式会社アクオレ株式会社ティー・パーソナル

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