【Special Interview】佐藤龍之介選手[ファジアーノ岡山]の母・佐藤希代子さん
16歳でFC東京とプロ契約し、今シーズンはファジアーノ岡山で活躍する佐藤龍之介選手。6月には日本代表デビューも果たした龍之介選手を育てた希代子さんに、ジュニア時代を振り返りながら、食事や声かけ、メンタル面など、どのようなサポートをしていたのかをお聞きしました。
幼い頃から負けず嫌い。できるまでは、とことんやりたい子
幼少期、龍之介(以下、龍)は子どもらしくて、前向きなタイプでした。ただ、お兄ちゃんと弟がいることもあり、負けず嫌いな面はすごくありましたね。誰かに負けたくないというよりは、自分がやりたいと思ったことができないと、悔しくて泣いてしまうんです。幼稚園の時、リフティングにハマっていて、毎日庭で2時間程やるんですけど、1000回目くらいで失敗すると10分近くも大泣き。本人は、もっとできると思っているから、失敗したことが悔しいんですよね。「できるまでは、とことんやりたい」というのが幼い頃からあり、自分がやりたいことに対しての集中力はすごかったと思います。
お兄ちゃんがサッカーをしていた影響もあり、龍がサッカーを始めたのは年中の頃。幼稚園でやっていたJACPA東京FC(以下、ジャクパ)のスクールに入りました。毎日、お父さん、お兄ちゃんと一緒に練習をしていたからだと思うんですけど、年中の時に出た大会で、30点近くシュートを決めたんです。コーチたちは衝撃的だったみたいで、3年生から所属できる選抜クラスのセレクションを受けてみてと。1人だけ小さくて、鼻水たらしながら受けてましたね(苦笑)。結局、それには落ちてしまったんですけど、1年生の時に育成クラスのセレクションを受けて、飛び級で3年生のチームに。その後は1学年上のチームにいて、5年生の時に自分の学年に戻り、6年生まで所属していました。
食事でこだわったのは「旬のもの・温かいもの・つくり立て」
子どもたちが小学生だった頃、やっぱり一番大変だったのは送迎です。お兄ちゃんは少年団、龍はジャクパとチームは違うし、しかも電動ではない普通の自転車で送迎してましたから。前に弟、後ろに龍を乗せて、10㎞も離れた試合会場まで連れて行ったこともありました。遠征は電車で送迎していたのですが、群馬、山梨、長野など色々な場所であるので、さすがに限界になってしまって…。ペーパードライバーだったこともあり、もう一度教習所に通い、それから車で送迎するようになりました。振り返ると、当時の送迎は本当に頑張ったなって思います。
私の中で、子育ての基盤は“食事”なんです。食事は毎日のことなので、そんなに凝るわけにはいかないんですけど、「旬のもの・温かいもの・つくり立て」にだけは気をつけて、とにかく愛情を持ってつくろうと。そうすれば、子どもたちもサッカーを頑張れるんじゃないかなって。そんな思いで食事をつくっていたからなのか、子どもたちはみんな好き嫌いがないんですよね。どうしてもサッカーのサポートは、龍が中心になってしまうのですが、3人を平等に育てたいという思いがあったので、できる限りバランスをとるように心がけていました。今日、お兄ちゃんの好きなものをつくったら、明日は弟の好物を出してあげたり。栄養のことに関しては、ジュニアの栄養の本を数冊読んで、あとは独学で勉強しました。大事なことをノートにまとめて、たまに見返して、工夫するようにはしてましたね。
今、龍は岡山で1人暮らしをしているのですが、自炊をしなければいけないので、小さなノートに我が家の味付けをまとめて渡したんです。例えば中華だったら、この調味料を入れるとこんな味になるというのを、たくさん書いて。家にいた時は、全く料理はしていなかったのですが、器用だからできるんでしょうね。つくった料理を写真に撮って送ってくれるのですが、肉じゃがや餃子など、私が出していたような料理がよく出てくるんです。これまで食べてきて、おいしいと感じたものをつくっているんだなって。改めて、味覚は伝わるものだと実感しましたし、何より“龍は食事の基本をわかっているんだ”と感じて、これまで頑張って食事をつくっていて本当によかったと思いました。
準備や挨拶ができないと、めちゃくちゃ怒ってました(笑)
子どもたちによく話していたのは、“やりたいことと、やりたくないことはセット”だということ。「サッカーを楽しくやりたいんだったら、上手くならないといけないし、だから練習を頑張らないといけないよね」「試合に出たい、でも練習はしたくない…なんていう虫のいい話はないよ」と。私自身は“お母さんも、家事はしたくないけど、必要なことだからやっている”というのを背中で見せていたつもりです。
「子どものサッカーは楽しくやればいい」と思っているので、サッカーに関して怒ることはなかったんですけど、挨拶や準備、身の回りのことができないと、めちゃくちゃ怒ってました(笑)。だから、子どもたちは自ら水筒を用意してましたし、汚れたユニフォームは自分で洗ってましたね。「当たり前」というのが好きじゃないこともあり、「親が当たり前にやってくれると思ったら違うよ」というのは、いつも伝えてました。
小学生時代、龍は負けず嫌いで泣き虫だったこともあり、メンタルを安定させることが大変だったこともありましたね。普段より少しでも暗いなと思ったり、悩んでいたら、まずは話を聞いてあげて、その後は、とにかくプラスに考えられるように「こういう考え方がいいんじゃない」とアドバイス。すごく落ち込んでいる時は、誰かに褒められたことを何十倍にして「こんなに褒められていたよ」と伝えてました。それと、調子がいい時ほど「まだ上には上がいるんだからね。頑張らないといけないよ」と、発破をかけてましたね。とくに龍は調子にのりやすいので(笑)。
試合を応援していると「〇〇君にパスを出さず、自分でシュートだよ!」などと言う親御さんの声が聞こえてくることもあったのですが、私はそれが苦手で(苦笑)。龍には「みんなで勝つために、楽しむために、やれることをやろうよ」と伝えることも多かったですね。
子どもがサッカーを始めると、普通に子育てをしていたら味わえない経験が多いと思うんです。仲間との関わり方、試合に勝った時の喜び、悔しさ、ケガをした時の辛さ…。うちは3兄弟だから、3倍も子どものサッカーを通して経験させてもらっていると感じています。それに、サッカーを頑張っている子のお母さん同士だと、すぐに仲良くなれますよね。私自身、ママ友を超えた戦友のような友人ができて、今でも関係は続いています。
先日、龍に「小学生の時、親にしてもらって嬉しかったことは何だった?」と質問をしたんです。すごく考えてくれて、「やっぱ、お母さんに褒めてもらったことかな」って。びっくりしたんですけど、純粋にそう言ってくれたんですよね。大好きなお母さんから褒めてもらいたい―子どもはそう思っているんだと頭に入れて支えてあげれば、きっと素敵な大人に育つはずです。今、子どもたちが頑張っているサッカーは、将来必ず役に立つと思うので、お母さんたちは無理せずに、楽しみながらサポートをしてもらえたらと思います。
写真提供/佐藤希代子