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指導者の言霊「山田耕介 前橋育英高等学校サッカー部監督」

指導者の言霊「山田耕介 前橋育英高等学校サッカー部監督」

2025年1月、第103回全国高校サッカー選手権大会を制した前橋育英高等学校。7年ぶり2度目の優勝に導いたのが山田耕介監督です。山田監督が心がけている「人間力」を伸ばす指導、子どもの強い意志を育むために大切なことについてお聞きしました。

スキルがあっても人間力がなければ、選手の能力は伸びていかない

前橋育英高等学校(以下、前橋育英)のサッカー部には、みんなサッカーが好きで入部してきます。それまでサッカーの楽しさ、おもしろさを感じながら生きてきたのに、高校で燃え尽きてしまうようではダメだと思うんです。選手たちには、どんな道に進んでも、サッカー少年の心を持ち続け、サッカーを大好きでいてほしい。指導者になるだけでなく、楽しみながらサッカーをする、日本代表を応援することでもいいので、大人になってもなんらかのかたちでサッカーに関わっていてほしいと思います。

私が指導するうえで大切にしているのは、『人間力』です。人間力とは、胆力と包容力があり、自立の精神を持っていること。胆力とは芯の心の強さ、包容力は優しさ、気づきの心です。仲間が何かで悩んでいる時に「どうした?」と声をかけてあげられるような気づきの心があれば、色々なことにも目を向けていけるようになり、それが人格を築き上げることにもつながっていきます。どんなに技術や身体能力に優れていても、人間力がなければ選手の能力は伸びていかないし、逆にスキルがなくても人間力があれば、選手の総合力は上がっていくということです。選手たちにはいつも「大切なのは腰から上、頭と心。どんなにサッカーが上手くても、最終的に大事なのは人間力。自分自身に矢印を向けて考えないと、人間力がゼロだよ」という話をしています。

山田耕介 前橋育英高等学校サッカー部監督

ダメな部分はあったほうがいい、直していくことで成長できる

1年生の選手の中には、入部当初、胆力が弱い子もいます。私は月曜から木曜、寮で生活をしているので、そういった選手には、気づいた時に「調子はどうだ?」と声をかけるようにしているんです。サッカーの話でなくても世間話をしたり、コミュニケーションをとりながら考え方を伝えていき、心の強さを育んでいくことが一番大事だと思っています。ただ、選手のダメな部分は、はっきりと伝えます。「ダメな部分はあったほうがいい。それを直していけば成長できる」と。だからこそ、試合に負けることも実は大事。ずっと勝ち続けていたら、学ぼうとしなくなってしまうからです。負けて学び、考えて行動する、その繰り返しが成長につながっていくのです。

自立の精神を育むには、中学卒業後あたりから、寮生活をさせるのも一つの方法です。前橋育英のサッカー部の寮では食事の片付けや洗濯などは自分でやらないといけないですし、日曜日は食堂がないので、自炊もしなければいけません。ある時、保護者から電話があり「何もしなかった息子が家に帰ってきた時に、お茶を入れてくれたんです。ありがとうございます」と(笑)。自立を育む環境に身を置くことで、子どもたちは自然と成長していくんだと思います。

山田耕介 前橋育英高等学校サッカー部監督

伸びていく選手は同じミスを3回連続はしない

サッカーはもちろん勉強も、根本的な考え方は同じです。SKILL(技術)を伸ばすためにも重要なのはWILL(意志)だということ。例えば、家でテレビやスマホを見ていても、この時間に勉強すると決めたら、机に向かわないといけない。誘惑に負けず、机に向かう「意志」が大切なのです。「できる、できない」ではなく、「やるか、やらないか」。やろうとする意志がないと何も始まらないのです。

世の中に、なんでもすぐにできるような天才的な選手はほぼいません。でも、伸びていく選手は、同じミスを絶対に3回連続はしないものです。自分にポリシーやプライドを持っているからこそ、ミスを繰り返さないように努力をするからです。自分自身に負けない強い意志を持って、努力を積み重ねる。それが人間力の土台にもなっていくのです。

頭の中で考えるだけで何も行動しないのが、一番よくないことです。動画を見てヨーロッパのサッカーを研究し、こんな選手になりたいと思っても、行動しなければ理解していないのと同じです。それよりも、すぐに行動を起こして、失敗するほうがよっぽどいい。なぜ失敗したのかを考えて、もう一度チャレンジする。それを根気よく続けていけば、自信になり、強い意志にもつながっていきます。そして、サッカーに限らず人間的に成長していくのです。そのことは、つねに選手たちにも伝えています。

 

前橋育英高校サッカー部の1日の練習は2時間半。練習場の一角にクラブハウスを併設。
前橋育英高校サッカー部の1日の練習は2時間半。練習場の一角にクラブハウスを併設。

子どもを真剣に怒れるのは、親にしかできないこと

チームの指導者とは、毎朝20~30分打ち合わせをして、コンセンサスをとっています。その中で言い続けているのは、“本気を根気強く”ということ。選手たちは、教えてすぐにできるようになるわけではなく、何よりも指導者が本気になって選手たちと向き合わないと思いは伝わらないからです。サッカーはロジック(理論)だけではできないし、そこにパッション(情熱)が加わってこそ、結果がついてくるもの。「少しよくなった」「もう少し」などと声をかけながら、根気強く指導していくことが大切だと思っています。

同様に“本気を根気強く”は、子どもたちにとっても大事なことです。失敗を重ね、その中から学んだことを根気強く練習していけば、身体が勝手にそのスキルを覚えていくはずです。また、一歩ずつ積み上げていけば、何かが起こった時に踏ん張れる力もついているのです。時に「自分のストロングポイントはなんでしょうか?」と聞いてくる選手もいます。選手たちは何かしらの強みを必ず持っているのです。だから我々指導者がそれを見つけ出し、スキルの部分でなくても「大きな声がよく出ている」「背後につくタイミングが最高にいいよ」など、発見したことを伝えるようにしています。

子どもたちの意志を育むために、親御さんには、子どもを色々な角度から見てあげてほしいと思います。例えば、正面から見れば、我がままで、どうしようもないと思っていても、角度を変えれば、優しい部分が見えてくることもあるからです。決めつけずに、色々な見方をすれば、子どもの伸びしろがみつかるはずです。

現代の考え方とは逆の発想になってしまうかもしれないけれど、自分の子どもに悪い部分があれば、怒っていいと思うのです。自分の子が一番大切なのはわかります。でも、本当に真剣に怒ってあげられるのは、心から愛情のあるお母さん、お父さんしかいないのです。本気で怒って、子ども自身が気づいてくれれば、それで御の字ではないでしょうか。ダメなことはダメと言える、そんなお母さん、お父さんになってもらいたいと思います。

第103回全国高校サッカー選手権大会の決勝戦では、前橋育英高校と流通経済大柏高校が対戦。PK戦に突入し、10人目までもつれる激闘を前橋育英高校が制して優勝。
第103回全国高校サッカー選手権大会の決勝戦では、前橋育英高校と流通経済大柏高校が対戦。PK戦に突入し、10人目までもつれる激闘を前橋育英高校が制して優勝。

写真/金子悟・編集部

(2025年4月発行 soccer MAMA vol.53 「指導者の言霊 vol.53」にて掲載)

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