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行き過ぎた勝利至上主義の影で子どもたちのサッカーはどうなる?~育成年代のサッカーを考える~【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

行き過ぎた勝利至上主義の影で子どもたちのサッカーはどうなる?~育成年代のサッカーを考える~【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

サカママ読者の皆さま、こんにちは。大槻です。
早いもので夏休みも終盤に差し掛かってきましたね。サッカー指導者の夏休みは、気が付いたら終わっているという感覚ですが、少しの休みの中で子どもたちとプールに行ったり、サッカーしたり、サッカー観戦に行ったり...結局サッカーな夏休みを過ごしています。笑

さて、今回は育成年代のサッカーでは毎回のように問題視されている「行き過ぎた勝利至上主義」について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
サッカーは子どもたちにとって、楽しい時間であり、仲間と汗を流し、成長を感じる素晴らしい時間のはず。しかし、勝利だけを追い求めるあまり、大切な何かを置き去りにしていないでしょうか? 整理をして考えてみましょう。

「強く行け!」の言葉の裏に隠れるもの

サッカーの試合中、こんな指導者の声がよく響きます。

「強く行け!」
「球際負けるな!」

そんな熱い声掛けは、子どもたちを鼓舞する意味で大切なもの。でも、ちょっと待ってください。「強く行く」って、どういう意味なんでしょう? ボールを奪うために相手の身体に強く力いっぱい当たること? それとも、フェアにボールを奪いにいくこと?

実はこの解釈の違いがとても重要です。指導者が「強く行け!」と叫ぶとき、子どもたちはどう受け止めているでしょうか。もしかしたら、解釈を間違えてしまってボールを奪う(結果)ために、つい乱暴なプレーに走ってしまう子もいるかもしれません。

ファウルギリギリの過剰な力で相手に当たってボールを奪えた瞬間は、 有利に感じるかもしれませんし、ファウルにならずにそのままプレーが続行されるかもしれません。しかし、だからといってファウルにならなければ何をやっても良いということではありませんよね。
ましてや相手をケガさせてしまったら楽しいサッカーの時間が台無しです。
ファウルをしてでも守ることが「かっこいい」と勘違いしてしまったら?

それは、サッカーを通じて子どもたちに伝えたいことなんでしょうか。サッカーはスポーツです。フェアプレーの精神が根底にあるからこそ、世界中で愛されているんです。
相手をリスペクトしながら、全力でプレーする姿勢。それが、子どもたちが大人になっても心に残る「サッカーの価値」じゃないでしょうか

指導者の『強く行け!』という言葉が、『フェアにボールを奪いに行く』と同じ意味になるように練習の中から働き掛けていく必要があるかもしれません。
私たち指導者の一言が、子どもたちのプレースタイルや価値観にどれだけ影響を与えるか。グラウンドの外から見ている保護者の皆さまも、ぜひ考えてみてください。

審判への抗議が子どもたちに与える影響

さて、行き過ぎた勝利至上主義のもう一つの影。
それは、審判への過剰な抗議や異議です。試合中、指導者や保護者が審判に「なんであの判定!?」「おかしいだろ!」と声を荒げるような場面を見たことがあると思います。なかには、グラウンドの中に入って試合を止めてまで抗議するような場面も見たことがあります。

たしかに、審判のジャッジに疑問を持つ瞬間はあります。審判も人間ですから、ミスもあるでしょう。しかし、不満の感情を爆発させて審判に詰め寄る姿を、子どもたちはどんな気持ちで見ているでしょうか。
対戦相手だけでなく審判へのリスペクトもサッカーには欠かせません
指導者や保護者が大声で文句を言ったり、時には人格を否定するような言葉を投げかけたりする姿を見て、子どもたちは何を学ぶのでしょうか。
勝利への執念でしょうか?
抗議をすれば判定が有利に働くということでしょうか?

「勝つためには審判にプレッシャーをかけるのが当たり前」なんて思ってしまったら、フェアプレー精神は育ちません。グラウンドの外で繰り広げられる大人たちの行動が、子どもたちの心にどんな影響を与えるか
私たち大人は、もっと自覚する必要があると思います

さて、こんな場面に遭遇したら、皆さんはどうしますか?

皆さんのお子さんのチームが、目の前で明らかに押されて倒されてしまいました。当然反則の笛が鳴るかと思っていたら、笛は鳴らずにプレーが続行されてしまい失点につながってしまいました。

試合後、お子さんとどんなふうに話しますか?
「審判も人間だから、間違えることもあるよ」と子どもに伝えるのか...
それとも、つい一緒に「ひどい判定!」と熱くなってしまうのか...

どちらが子どもたちの未来にプラスになるか、考えてみる価値はありそうです。
※このケースは子どもたちの気持ちに寄り添いながらというのがポイントになりそうですね。

※もちろん審判員のレベル向上は、競技の公平性や質を保つために重要です。お互いがリスペクトし合える関係が大切だと思います。

リーグ戦化の光と影

育成年代のサッカー環境は、一発勝負のトーナメントからリーグ戦が中心となってきました。これは子どもたちの実力が拮抗した中で定期的に試合を経験し、チームとしても個人としても成長する機会が増えたことを意味しています。
しかし、個人的にはこのリーグ戦の普及が、行き過ぎた勝利至上主義を加速させている一面もあるのではないかと危惧しています。

リーグ戦の結果のみが注目されてしまい、上位リーグにいることが「育成の成功」と見なされる風潮を作り出し、SNSや地域の噂話で「○○サッカークラブは〇部リーグに所属している」なんて話で盛り上がる。

そうなるとクラブ側は存続のために「勝たなければ...」と焦りが生まれてしまう...結果、子どもたちへのプレッシャーが増してしまい、どうしても行き過ぎた勝利至上主義につながってしまっているのではないかと思うのです
昔に比べれば格段にサッカー環境は整備されてきました。しかし、一方では勝ち負けだけが先行してしまい、クラブとしてどのような人物に育ってほしいのか? といった育成の根幹になる部分が見えなくなってきているような気もしています。

見え方、見せ方だけを気にしていても選手は育ちません
サッカークラブだけでなく、保護者の皆さまも勝ち負けや見えているものだけで価値を作らないように
そんな働き掛けができたら良いと思っています。

まとめ

育成年代のサッカーは、子どもたちの成長の場であるべきです。
しかし、行き過ぎた勝利至上主義が、フェアプレーやリスペクトの精神を曇らせることがあります。「強く行け!」という指導者の言葉が乱暴なプレーを助長したり、審判への過剰な抗議が子どもたちの価値観に悪影響を及ぼしたりする危険性があります。リーグ戦の普及は成長の機会を増やしましたが、勝ち負けに囚われすぎると、育成の目的を見失いがちです。

大人は、子どもたちがサッカーを通じて人間として成長することを第一に考え、フェアプレーの精神を伝えなければなりません。保護者の皆さまも、勝敗を超えた価値を子どもたちに示し、共に未来を見据えたサポートを心がけましょう。サッカーは、子どもたちの心を豊かにする素晴らしいスポーツです。

指導者も保護者も、その責任を胸に刻みましょう。

WRITER PROFILE

大槻邦雄
大槻邦雄

1979年4月29日、東京都出身。
三菱養和SCジュニアユース~ユースを経て、国士館大学サッカー部へ進む(関東大学リーグ、インカレ、総理大臣杯などで優勝)。卒業後、横河武蔵野FCなどでプレー。選手生活と並行して国士舘大学大学院スポーツシステム研究科修士課程を修了。中学校・高等学校教諭一種免許状を持ち、サッカーをサッカーだけで切り取らずに多角的なアプローチで選手を教育し育てることに定評がある。

BLOG「サッカーのある生活...」も執筆中
★著書「クイズでスポーツがうまくなる 知ってる?サッカー

株式会社アクオレ株式会社ティー・パーソナル

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