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Jリーガーたちの原点 vol.11「澤 穂希(INAC神戸レオネッサ)」

Jリーガーたちの原点 vol.11「澤 穂希(INAC神戸レオネッサ)」

リフティングを懸命に練習したことは今でも活かされている

今年6月、女子アジアカップで優勝し、15年のカナダW杯出場を決めた、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表チーム)。日本女子サッカー界を牽引するのは、言わずと知れた澤穂希だ。

澤がサッカーをはじめたのは、一つ歳上の兄がサッカーをしていたことがきっかけだった。「兄の練習を見にいったときに『妹さんも蹴ってみない?』とコーチにすすめられてボールを蹴ったら、たまたまシュートが決まったんです。それが嬉しくて、私もサッカーをはじめたいと思いました」

入部したのは、兄と一緒の名門・府ロク少年サッカー団。ボールを止めて蹴る、シュートなどの基本的な練習が中心だったが、サッカーが好きという純粋な気持ちが日々の努力へとつながっていった。今でも鮮明に覚えているのが、リフティング表だという。「当時あったリフティング表には、目標とする回数や、右足、左足、インサイドステップなどの項目が記されていて、達成できると次のステップに進めたんです。コーチから、クリアできたら肉まんを買ってあげるといわれて、肉まん欲しさに一生懸命練習しました(笑)」

ネットにボールを入れて蹴りながらの登下校、兄との毎日の練習……次第にリフティング力はつき、合宿先で行われたリフティング大会では優勝し、トロフィーを手にすることも幾度となくあった。「当時から、頑張れば絶対に何か得るものがあると感じていました。頑張ることによって評価されたことは、幼いながらも自信につながっていたと思います」リフティングを懸命に練習したことは、今もなおボールを置く位置やファーストタッチに活かされているという。

女子という理由で悔しい想いも……でも、チームメイトに支えられた

府ロクで鍛えられたのは、サッカー技術だけではない。「挨拶や礼儀も叩きこまれ、ときに連帯責任を取ることも必要だと教えられました。今にして思えば、そのおかげで、サッカーにとって重要な協調性も身についたんだと思います」

とはいえ、チームメイトは男子のみで、女子は澤一人。当時は、ジュニアサッカー大会の最高峰である全日本少年サッカー大会にも、女子は出場不可とされ(現在は出場可能)、澤は予選リーグにさえ出場できなかった。「女子ということで、悔しい想いをしたこともあります。高学年になって、男子と女子を意識して、ギクシャクした時期もありましたね。でも、みんなで合宿や遠征に行って部屋でいろいろ話したり、遊んだり、ときには喧嘩もしたりとか、いろいろな経験ができたのはチームメイトがいたからこそ。何よりも楽しくサッカーができたのは、彼らのおかげです」当時のチームメイトとは、30年近くたった今も仲がいいという。

「チャンスの波に乗りなさい」
母親からの言葉がチャレンジ精神へ

朝早くからのお弁当作りや送り迎えなど、母親はいつも一生懸命サポートしてくれたと振り返る。なによりも、幼少の頃から今に至るまで、一度たりとも澤がやりたいといったことに反対しなかったという。「3歳から水泳を習っていたので、一時、サッカーと水泳の両方をやっていたんです。でも、個人競技の水泳より、みんなと一緒に作り上げていくサッカーのほうが楽しかったし、とにかくサッカーが好きだったので、一つに絞りたかったのです。母に水泳を辞めたいといったら『やりたくないなら、辞めなさい』とすぱっといわれました」

そんな母親に育てられ、見守られたからこそ、大好きなサッカーが思いきりできたことにすごく感謝していると語る。そして、当時から自分自身で考え、自分の道を決める勇気が持てたのも母親が澤に伝え続けた言葉―「チャンスの波に乗りなさい」―があったからだという。チャンスは必ず誰にでも訪れ、そのチャンスの波に乗るかどうかで人生が大きく変わる。だからこそ、チャンスの波が来たら、あれこれ悩むよりも、逃がさずに乗ることが大事。この言葉には、そんなメッセージが込められている。「母からこの言葉を言われていたからこそ、チャンスだと思ったときは、迷わずに思い切り行動にでられました。未だにこの言葉は胸の中にいつもありますね。だから可能性がある限り、絶対にチャレンジするって決めてるんです。やらないより、やって後悔したほうがいいですから」

中学1年で読売ベレーザ(現、日テレ・ベレーザ)の下部組織であるメニーナに入団、実力がずば抜けていたことから、1ヶ月後にはトップチームのベレーザに昇格した。その背景には、母親からの言葉がエールとなり、原動力になっていたにちがいない。

『チャンスの波に乗りなさい』母から言われたこの言葉があったからこそ、思い切りチャレンジできました

世界一が獲れたのは、大きな夢を抱いてサッカーを続けていたからこそ

澤が女子日本代表に選ばれたのは15歳のとき。今でこそ圧倒的な強さを誇るなでしこジャパンだが、当時は世界と戦うにはほど遠かった。「アメリカ代表と試合をしても、相手のコートで全くサッカーができないんです。欧米には、いつも大差で負けてましたね。日本のリーグ戦では通用していたことも、世界レベルでは全く通じないことを思い知らされました」

海外の選手に比べて何が足りないのだろう、どんなプレーなら世界で通用するのか―。世界の強さを目の当たりにした澤は、そんな気持ちから、20歳で単身渡米を決意。後、アメリカのプロリーグで活躍をみせる。

代表メンバーとしては、オリンピック4回、W杯5回出場。11年ドイツW杯では、チームを世界一に導き、得点王とMVPを獲得。そして、同年度のFIFAバロンドール授賞式で、アジアでは初となる『FIFA女子年間最優秀選手』を受賞した。

「日本代表に選ばれたときから、ずっと世界一を獲りたいという大きな目標を抱いて臨んでいましたし、決して無理だとは思いませんでした。目標を達成するには、努力が必要ですし、大きな壁にぶつかることもあります。とくにサッカー人生が長ければ長いほど、苦しいことはたくさんあるものです。世界一を獲るまでに約18年かかりましたけど、サッカーをやり続けていたからこそ大きな夢がつかめたんだと思います。だから、子どもたちも1回の失敗でくじけたりしないで、夢をあきらめずにチャレンジし続けてほしいですね」

澤の代表としてのキャリアは、今年で21年目を迎える。決して順風満帆なサッカー人生を歩んできたわけではないが、チャンスの波を逃さずに、チャレンジし続けてきたことが今につながっているのだろう。

最後に、サカママにメッセージを残してくれた。「お子さんが、チャレンジしたいということや、好きだと思うことは、反対せずに応援してあげてほしいと思います。お子さんが夢や目標を持てるように、好きなことをするときには、とにかく褒めてあげてください。私もいつか子どもを持ったら、母親がしてくれたように、好きなことを伸び伸びとさせてあげたいと思っています」

写真/足立雅史

2014年10月発行の11号掲載

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