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Jリーガーたちの原点「小林 悠(川崎フロンターレ)」

Jリーガーたちの原点「小林 悠(川崎フロンターレ)」

カズさんに憧れてサッカーを始めて、カズさんを目指していた

攻撃的なスタイルを掲げ、Jリーグで常に上位争いを演じる川崎フロンターレにおいて、前線の中核としてアグレッシブなプレーを見せ続けているのが小林悠だ。キレのあるドリブルや鋭い裏への飛び出し、コースを狙った丁寧なシュートやラストパスなど、多彩なプレーで相手の守備網をかき回し、サポーターの大歓声を浴びている。そのルックスと気さくな性格でファンからの人気も高い小林だが、ここまでの成長を支えたのは、彼自身が「僕の一番のファン」と語る母親の存在があったと振り返る。

小林がサッカーをはじめたのは、幼稚園の年長の頃だった。「1歳年上の兄が小学校に入学する時、友達に誘われてサッカーをはじめたので、『僕もやりたい』と言って一緒にはじめました」。兄と共に入ったのは地元のクラブである町田JFC。ここから彼のサッカー人生がスタートする。

町田JFCはボールタッチやリフティングなど、基本技術の向上に重きを置いたクラブで、小林のテクニックも当時の反復練習によって磨かれていった。「毎朝、学校に行く前にリフティングの朝練をして、小学校でも休み時間には友達とサッカーをやって、放課後は週に4回、町田JFCの練習に行って。週末もいつも試合があったので、ほぼ毎日サッカーをしていました」。絵に描いたような“サッカー小僧”であった小林はメキメキと頭角を現していった。

当時のポジションはトップ下。自ら動き回ってゴールに迫る現在の姿とは違い、パスを出すのが好きなタイプだったという。「アシストすることに喜びを感じていました。みんなには『嘘つけ!』って言われるんですけどね(笑)」。一方で、憧れていたのは三浦知良選手(現・横浜FC)だった。「カズさんはゴールを決める選手なので、当時の僕とポジションは違ったんですけど、僕たちの世代はみんなカズさんに憧れてサッカーをはじめて、カズさんを目指してサッカーをしていました。シザースなどのフェイントや『カズダンス』も、みんなでまねしていました」

母親は当時も今も変わらず僕の一番のファンでいてくれる

当時、町田JFCは遠征が多く、そのたびに交通費や宿泊費がかかった。小林の家は母子家庭だったゆえ、母親の負担も大きかったそうだが、スパイクなどのサッカー用品は質の高いものを買い揃えてくれるなど、小林がサッカーに打ち込める環境をいつも作ってくれたという。「母は僕がサッカーで活躍する姿を見るのが大好きで、今でも毎試合、見に来てくれます。当時も今も、僕の一番のファンでいてくれて、応援してくれるんですよ」。親子でありながら、選手と熱狂的なファンという関係があったからこそ、小林はサッカーに集中することができたのだろう。

母親の溢れんばかりの愛情の下、大好きなサッカーに熱中していた小林だが、中学生になると母親に悲しい思いをさせてしまったと振り返る。とはいえ、サッカーをやめてしまった、学校で問題を起こしたなどといった類の話ではない。「僕自身はあまり覚えていないのですが、小学生の頃はゴールを決めるたびに母親に向かってピースをしていたらしいんです。でも、中学生になると思春期に入るから、恥ずかしくてやらなくなりますよね。母親は『何でやってくれないの』って(笑)。寂しかったみたいです」

好きな言葉は『向上心』。向上心を持っていれば年齢に関係なく成長できるし、子どもたちであれば、なおさら伸びていくと思う

苦しみ続けた中学時代……常に支えてくれ母親に感謝

一方で、その頃小林自身も壁に直面し、悩んでいたという。「みんな成長期で体が大きくなっていったんですけど、僕は全然、背が伸びなかったんです。体の線も細くて小さくて。それに、みんなどんどん足も速くなっていくのに、僕だけ走るのも遅いまま。中学の3年間は自分のサッカー人生の中で一番つらくて、うまくいかなかった時期でした」。小学生の頃から東京都選抜や関東選抜に選ばれるなど広く知られた存在だっただけに、このギャップに苦しみ、思い悩み、サッカーに対する前向きな気持ちが失われつつあったのかもしれない。

体の成長が遅れたのは、当時の食生活に原因があったのではないか、と小林は分析している。「お菓子がすごく好きで、学校帰りにいつも友人と駄菓子屋に寄って、夕方ぐらいまでお菓子をずっと食べていたんです。だから夕飯の時間になってもお腹が全然すかなくて。それでご飯を残して、母親に『お菓子ばかり食べて帰ってくるから、ご飯が食べられないんでしょ!』ってすごく怒られました。もっとちゃんと食べていれば、体も大きくなったんじゃないかな、と思いますね」

苦しみ続けた中学の3年間を乗り越え、麻布大学附属淵野辺高校への進学を機に急成長を遂げる。食生活を改善したことでようやく体も成長し、同年代の選手のパワーやスピードに対応できるようになった。また、中学生時代に技術を磨くトレーニングを怠らなかったことも功を奏し、体が成長することによって、その頃に習得したテクニックが発揮できるようになったのだ。そして全国高等学校サッカー選手権大会に2年連続で出場するなど、小林は充実の3年間を送ることになる。「その時に何をすればいいのか、自分で気づくことが大切ですね。僕の場合は母親がずっと気にかけてくれて、いろいろと言い続けてくれたことで、気付くことができました。支えてくれた母親にはすごく感謝しています」

向上心を持っていろいろなことに取り組むことがすごく大事

拓殖大学に進学した小林は、MFからFWにコンバートされ、大学3年の時には関東大学2部リーグで得点王に輝いた。母親の愛情を受けてサッカーに打ち込んだ小学生時代、苦しい3年間を送った中学生時代、急成長を遂げた高校時代、そしてFWとしての才能を開花させた大学時代。栄光と挫折を繰り返した末にプロへの扉を開いた小林の好きな言葉は「向上心」だという。「向上心がなくなったら成長できないと思います。年齢は関係ありません。たとえベテランの選手であっても、向上心を持ち続けていれば成長できると思いますし、子どもたちであれば、なおさら伸びていくでしょう。サッカーだけではなく、向上心を持っていろいろなことに取り組むことがすごく大事だと思います」

プロになった今も向上心を持ち続け、サッカーにひたむきに取り組んでいる小林。最後に、サカママと子どもたちにメッセージを残してくれた。「小学生の試合や練習をたまに見るのですが、僕たちの頃とは比べ物にならないぐらいうまい子がたくさんいます。彼らが将来、プロ選手になったら、日本のサッカー界はどこまで成長できるのかと、ワクワクしながら見ています。みんなサッカーが大好きでやっていると思うので、僕のように途中で挫折を味わうこともあるかもしれませんが、諦めずに努力すれば必ず道は開けます。そのためには、なによりも親御さんのサポートが重要です。応援は絶対に伝わりますので、いつまでもお子さんを支え続けてほしいですね」

取材・文/池田敏明 写真/山口剛生

2015年10月発行の15号掲載

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