誰もがサッカーのできる環境づくりへ U15女子サッカーのみらい
今年のパリ五輪での活躍など世界を舞台に躍進を続けるなでしこジャパン。活況の代表チームとは対照的に、中学生年代の女子サッカー選手の競技人口は伸び悩んでいます。 少子化や部活動における顧問の不足などはもちろん、受け皿となるチームの伸び悩みなど課題は少なくありません。しかし日本女子サッカーの未来のために、この喫緊の問題に取り組む「歩みを止めない」者たちに普及活動について伺いました。
女子の「U12→U15の壁」をなくしていきたい
仲野浩(JFAコーチ関東女子担当チーフ)
1979年、東京都出身。日本体育大学体育学部体育学科卒業。2002年、母校の東京都立砂川高等学校サッカー部のコーチとして指導をスタート。東急Sレイエスフットボールスクールのスクールダイレクター(2022年まで)を務め、高校、大学の女子サッカー部を兼務。2015年からナショナルトレセンコーチ関東女子担当(現JFAコーチ関東女子担当)を務め、2022年から同チーフ、今年8月に開催されたEAFF U15女子選手権2024で監督を務めた。2024年JFA公認S級コーチライセンスを取得。
女子サッカー全体のJFA登録数は2023年末時点で5万2083人、全体のわずか6.2パーセントとなっています。中学年代にいたっては、10年前と比較して中体連の登録選手数の減少率(-38.5%)が示す通り 、小学生から中学生に上がるタイミングでサッカーを辞めてしまう子の割合が多くなっています。小学生でサッカーをしていても、中学生になるとサッカーを続ける環境がなくなってしまう。サッカーを続けたかったとしても、中学の部活動はもちろん、近所にクラブチームがないと、他の部活に入るしかありません。それは首都圏に比べて地方になるほど顕著で、人口が少ない地域では、選手はもちろん、サポートするスタッフも限られてきます。
JFAとしてはこの3種(13歳~15歳)の女子登録数のへこみの解消はもちろん、サッカーを始める4種(12歳未満)の子どもたちを増やしていくことが女子選手全体の増加につながると考えています。 実は近年の調査で中体連(日本中学校体育連盟)に所属している女子選手、つまり部活動の男子チームの中に混ざってサッカーを続けている女子選手が、一定数いることがわかってきました。大事なのはこれら共通の悩みを抱える子たちをいかに大事に扱っていくか。JFAでは、中学校女子選手を対象とした中学校女子サッカー部フェスティバルを全国で開催してきました。また、都道府県サッカー協会(47FA)でも、中体連に所属している選手を集めて合同練習会を行っています。 女子同士がチームで活動することの楽しさを地元に持ち帰り、選手活動を継続してもらう。その人数を一人でも増やすことが、中学校の女子サッカー部の増加につながっていきます。誰もが自分のレベルにあった環境で取り組めることが、本来あるべき姿なのです。各FAの女子サッカー普及コーディネーターに対して研修会も行ってきましたが、地域の実情を理解し、地域特性に合わせたサポートも欠かせないと思っています。
部活動の地域移行(※少子化が進む中、中学校部活動を学校単位から地域との連携・活動に移行する施策)の進捗はまだまだこれからですが、中学年代の女子サッカー選手の受け皿として大いに期待しています。中学部活動の女子サッカー部は生まれづらい傾向にありますが、実際に埼玉県、沖縄県では盛んに女子の部活動が行われています。その成功例を部活動地域移の活動に生かしていくなど、課題克服のチャンスはまだたくさんあると思っています。
JFAは世界一を目指すためのナショナル・フットボール・ビジョン「Japan's Way(ジャパンズ・ウェイ)」を発信しています。その中で、ベースとなる育成年代はユースサッカーの「育成」 とグラスルーツの「普及」が混在し、それ以降の年代は生涯スポーツを追求するアマチュアと、競技をする選ばれしプロフェッショナルの2方向の領域に分かれる「ダブルピラミッド」構造があります。どちらかを優先するのではなく、一方が高まればその影響でもう一方も高まるというシナジーが、この国のサッカーを強くしていくと考えています。男子に混じってバリバリやる「個」の育成はもちろん、女子チームを増やしてく施策も同時に行ってく必要があります。
なでしこvision(女子サッカー発展のためのマスタープラン)では2030年までに 女子の登録プレーヤーを20万人にする目標があります。今は全体の6.2%ですが、10パーセント、その先の20パーセントを目指していく。グロース(未登録者、初心者へのアプローチ)&リテンション(継続)の精神で、増やす、減らさないを同時に進めて女子サッカーが身近にある日常を創り出さなくてはいけません。現在、女子サッカー普及に関わっている方々の、熱いパワーに支えられているのはすごく感じます。全国のFAには指導者養成やトレセン活動等の育成事業に「専任」で携わる技術担当専任者「FAコーチ」がいますが、男子の技術だけでなく女子サッカーの普及に関わってくれる方が、近年はどんどん増えているんです。全国のFAが女子に力を入れてきていることはすごくポジティブな傾向だと思っています。
中学年代の女子の育成・指導について
選手は十人十色ですから1人ひとりに寄り添って指導してくことが大事だと思っています。自分の持ち味は「パッション(情熱)」。心の火をつけてあげることが指導者の役目だと思っています。この年代は特に自分の考えを認めてもらえないと心に蓋をしてしまいがちなので、とことん問答して理解してあげることが大事。その上で個々の性格にあったアプローチが必要です。自分の熱さで火傷させてはいけないですからね(笑)。
私の目標はサッカーをもっと女性にとって身近なスポーツにすることです。サッカーとの関わり方ってもっとたくさんあっていいと思うんですよ。年齢にかかわらず全国どこに住んでいてもサッカーにアクセスでき、楽しみ続けられる環境を広げていく。そのためにも、私自身が知見を広げていく必要があると思っています。いろんな形でもっともっとサッカーに関わり、それら全ての経験を女子サッカーの普及に還元できればと思っています 。また、今回11月17日(日)に水戸で開催される「JFAxMS&AD なでしこ“つぼみ”プロジェクト」については、プロジェクトの趣旨である、「中学校年代女子の受け皿となる地域クラブの創設や運営の支援」はとても素晴らしい取り組みだと感じています。このプロジェクトによって新たなチームが生まれることで、さらなる女子サッカー人口の増加に繋がれば嬉しいですし、自治体と連携することで、選手が自分の生活圏内で、自分に合った環境でサッカーを続ける選択肢が広がることを期待しています。
サカママへのメッセ―ジ
私には小学生の娘と息子がいて、2人ともサッカーをやっています。やっぱり自分の子どもに対してはすぐに熱くなってしまうのですが(苦笑)、結果だけでなくトライしたことに対して「プロセス」を褒めてあげることが大事だと思います。一番近い距離にいる母親がよき理解者であることが、サッカージュニアが伸び伸びサッカーをできる一番の要因なんだと思います。
イベントには育成・普及だけでなく、人を巻き込む大きな力がある
廣原啓二(茨城県サッカー協会女子委員長兼女子サッカー普及コーディネーター)
1961年、茨城県出身。2003年、女子チームの東小沢FCバンビーナを創設し、現在も監督を務める。2018年から茨城県サッカー協会(IFA)女子委員長(それ以前は副委員長、少女部会長)、2021年から女子サッカー普及コーディネーターを兼務している。定年退職した現在も日立市役所にて職員(再雇用)として勤務を続けている。
茨城県サッカー協会(IFA)女子委員長として、年代別のリーグ戦や年間を通じた試合環境の整備はもちろん、他県との交流を注力してやってきました。しかし現在、茨城県に女子チームは30弱ほどしかありません。県内の女子サッカーの選手数は現状維持を保っていますが、中学年代のチームは増えておらず、減少傾向にあります。小学生年代は女子の選手も多くいるのですが、中学年代以降は女子だけのチームの受け皿がなく、指導者も含めて関わる大人の人数も乏しいのが現状です。同じスタッフが掛け持ちで続けている状態で、若い年代の指導者への継承も課題となっています。
JFAでは、大会や公式戦に出場する環境にない中学校女子選手に、サッカーを通じて仲間をつくる機会を創出する『中学校女子サッカー部フェスティバル』を全国各地で開催してきました。昨年は隣の栃木県で開催され、私も参加・協力させていただき、「こういったイベントをぜひ茨城県でやりたい!」と思っていったところ、今年から始動するJFAとMS&ADインシュアランスグループの価値共創事業「JFAxMS&AD なでしこ“つぼみ”プロジェクト」の話を伺い、声を挙げさせていただきました。
プロジェクトの立ち上げに合わせて、この茨城県で11月17日に部活動改革に関する全国の取組みとその課題や解決策について情報を発信する「JFAxMS&AD 地域スポーツ改革カンファレンス」と、中学校女子選手を対象とした合同練習・交流試合「JFA×MS&AD なでしこ”つぼみ”フィールド(以下、なでしこ”つぼみ”フィールド)」が開催されることになりました。女子選手同士が交流できる場をどうしても実現したいとの思いで活動を続けてきたので、こうしてIFAフットボールセンター(茨城県水戸市)での開催が実現できたことに、心より感謝しています。
今まさに本番に向けて練習会を行っていますが、みんなすごく楽しそうです。今回のなでしこ”つぼみ”フィールドは、男子に混じってサッカーをする子に、女子だけでサッカーをする環境を経験してもらい、高校までサッカーを継続してもらうことを目的としています。こういった場に来ること自体勇気がいることですが、知らない子たちでもボールを蹴るとすぐ仲間になって、チームとして活動することができるのが女子選手の特徴でもあると思います。練習会で対応するスタッフ6人はすべて女性で、その内3人は県内出身者です。小学生の頃からナショナルトレーニングセンター、ガールズリーグでプレーしてきた顔なじみのメンバーで、県外で活動した後にまた指導者として戻ってきてくれています。地元の選手たちが茨城県の女子サッカー普及、技術の向上に関わってくれるのは嬉しいですね。大きなフェスティバルは選手普及の効果はもちろん、関わる人を巻き込んでいく力があります。ナショナルトレーニングセンター時代からの顔なじみの子たちなので、私たちのこともわかっているし、地元愛もある。なでしこ”つぼみ”フィールドに参加してもらう選手には、なでしこジャパンの選手になりたいという大きな夢を抱いてもらいながら、こうやって大人になっても指導者として関わってもらう選択肢があることを伝えられればと思っています。
今回は、ゲストに佐々木則夫さん(公益財団法人日本サッカー協会 女子委員長)をはじめ、川上直子さん、小林弥生さん、矢野喬子さん、宮間あやさん、鮫島彩さん、阪口夢穂さん(元なでしこジャパン(日本女子代表))等に参加いただくので、非常に大きなインパクトになると思っています。あれだけのメンバーはなかなか集まらないですからね。以前、JFA主催イベントで澤穂希さん、海堀あゆみさんが茨城にいらっしゃいましたが、それはもう大盛況でした。今回の「JFAxMS&AD なでしこ“つぼみ”プロジェクト」が成功に終わり、11月17日の貴重な時間を“継続”へとつなげていきたいですね。
今後の目標は
IFA理事の定年65歳まであと2年です。女子サッカーの各カテゴリーにおいて可能性があることにはすべて取り組みたいと思っています。その上できちんと事業化して、後進に託せるようにしていきたいと思います。そう考えると時間はほとんどないですから、立ち止まってはいられませんね(笑)。
サカママへのメッセ―ジ
お母さんはサッカー普及において何よりも大事な存在です。子どもたちがたっぷり栄養をとって睡眠をとって、サッカーを好きでいてもらうには、お母さんのサポートは欠かせません。女子サッカーを続けてくれる選手が一人でも多くなれるよう、我々も頑張りますので、お母様方の今後のサポートもよろしくお願いいたします!
★2人の単独インタビューはMS&ADインシュアランスグループサイト「歩みをとめない者たち」でも掲載予定です。ぜひ一読を!
★11月17日(日)にIFAフットボールセンター(茨城県水戸市)で、第1回となる「JFA×MS&AD 地域スポーツ改革カンファレンス」と「JFA×MS&AD なでしこ”つぼみ”フィールド」が同日開催! チェックしておこう!
写真/金子悟