ケガをした時のメンタルと焦り・不安との向き合い方
元プロサッカー選手で現在はメンタルトレーナーとして活動する山下訓広さんによる連載第19回目。
ケガをした時って「早く治して練習に参加したい」「これまで通り試合に出られるかな?」と気持ちが焦りや不安になりがちで、感情を上手く扱えない事があると思います。そこで今回のテーマは「ケガをした時のメンタルの向き合い方」についてです。
ケガから復帰する為の目標を設定
以前、私のメンタルトレーニングを受けている中学3年生の選手(A君)からこんなご相談がありました。
「調子が良かったけど足首のケガをしてしまい、最後の試合まで残り1カ月ですごく焦っています。全治3週間くらいなので間に合いそうだけど、練習をしておかないと動けないかもしれないので不安です。」とのことです。ケガはトップアスリートの選手もメンタル的な課題が多く発生し悩まれることです。
まずはA君にここから大会までの目標を明確にしてもらいました。1カ月後の大会までにどうなっていたいか?という部分です。
「痛みのない状態で1試合走り切れる体力が復活して試合をしたい。」ということでした。現状の足の状態を考えた時に、それが現実的か?ということをA君に質問しました。すると「今の痛みを考えると、トレーニングをできるまでに時間がかかりそうなので、体力的に1試合走れるかどうかまではわからない」ということでした。
そこで、ベストな目標は1試合走れるだけの体力が復活した状態で試合に臨むことで、最低でも途中交代でも試合に出られる状態にする、ということになりました。そして今そのためにできることを聞いてみると、まず1週間は動かず安静にして、痛みが引いてきてから少しずつ動かしていく。また毎日アイシングは欠かさないということでした。目標のためにやるべき行動を明確にして、この日はメンタルトレーニングを終えました。
1週間後にもう一度、A君に設定した行動の通りに過ごしていたのか確認してみました。すると「3日程度で痛みもだいぶ引いてきたので、少し走っています。走り終わった後は痛いですがアイシングはしています。」とのことでした。改めてA君にもう一度目標を確認しましたが、1か月後の試合に出ることと以前と同じ答えが返ってきました。
焦り・不安という感情の向き合い方
お医者さんから言われた1週間は動かさないという行動を決めたが、なぜ動いたのか確認すると「痛みも少し和らいだので、とにかく試合で走れるようにトレーニングをしたい」という理由でした。
ここで今大会が近づくにつれてどんな気持ちか聞いてみました。「とにかく試合に出たいので少し焦っています。治るか不安は感じています。」
ここで重要なのは自分の感情に気づくことで、今出てきた感情は焦り・不安です。感情によって自分がするべき行動からぶれてしまうことがあります。この場合一見、試合に早く復帰できるように努力しているように見えますが、実はA君の中で防衛本能が働いています。焦りたくない、不安でいたくないといった感情のために努力しているのです。これは自分がその感情になりたくない、自分を守りたいという本能から行動に移しているということです。
定めた目標を見失わないように行動する
自分の目標を達成したいという結果のために努力をするときは、必ず結果というものと向き合わなくてはいけません。しかし、結果と向き合う時に「もしかしたら思い通りの結果が出ないかもしれない」「結果が出ないことで自分が傷つくかもしれない」という想いが表れます。ここで大切なのは自分が本来得たかった結果は何なのか?ここを見失わず結果のために行動していくことです。
目標を見失いかけた時はもう一度整理する
もう一度A君に「今何のために努力をしていますか?」と尋ねました。「確かに不安でいたくなかったので、そのためにいち早く動きたいと思っていました。今やるべきことをもう一度考えます」と回答があったので、ここでもう一度やるべきことを整理しました。
- 1週間は休んでアイシング
- 痛みが引いてきてから足首を動かすトレーニング
- 復帰1週間前からランニング
改めてA君自身でやるべき行動を決めて、焦り・不安の感情に流されないように実行する事を約束してくれました。その後、試合に向けて準備を行い無事、試合にフル出場することができました。
感情が揺れ動いている時こそ目標の再確認が大切
目標を決めて努力をするときには、様々な感情が出てきます。そして大切なのは不安や焦っているからメンタルが弱いなどといったことではないということです。
人は様々な感情を感じて当たり前です。その中で目標のために何をするのか?具体的な行動を自ら決めてそれに取り組む。感情に巻き込まれそうになっているときは何のために今努力しているのか明確にしてみましょう。