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今さら聞けない!?サッカールール「ゴールキーパーへのバックパス」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は「ゴールキーパーへのバックパス」について。そもそもなぜゴールキーパーへのバッグパスに反則があるのか、という点が分かると理解が深まりますよ。

今回のテーマは「ゴールキーパーへのバッグパス」

 

先日、Jリーグのゲームである一連のプレーがゴールキーパーへのバックパスかどうかで話題になっていました。その場面は以下のようなものです。

サイドバックの選手が相手選手と競り合う中で、ボールをインサイドキックで後方にけった

ボールは味方のセンターバックの横を通り過ぎ、ゴールキーパーのところへ

ゴールキーパーがそのボールを足で止めてから手で拾いあげた

主審は、味方からのパスを手でキャッチしたゴールキーパーはいわゆる「バックパス」として、一旦は間接FKの反則としたのですが、その後、攻撃側の選手にボールが触れていることが副審から伝えられ、反則は取り消されてドロップボールで再開となりました。
「バックパス」は最近では珍しい場面ですので、この機会に今一度理解を深めてもらえればと思います。

ゴールキーパーへのバッグパスが反則になった経緯は?

「ゴールキーパーへのバックパス」が間接フリーキックの反則となったのは、1992年からです。この経緯は、実質のプレー時間を長くするようにゴールキーパーのプレーの制限を強化したところにあり、ゴールキーパーのところでボールが留まっている時間を少なくしようとしたものです。

いたずらにゴールキーパーへボールを返すことでプレーの早い展開が止まり、サッカーの面白さをそいでしまうことを防ぐために、競技規則の第12条では、次のように示されています。

ゴールキーパーが自分のペナルティーエリア内で、次の反則のいずれかを犯した場合、間接フリーキックが与えられます。

  • ボールを放すまでに、手や腕で6秒を超えてコントロールする。
  • ボールを手放した後、他の競技者がボールに触れる前に、手や腕でボールに触れる。
  • 次のような状況で、ボールを手や腕で触れる。ただし、ゴールキーパーがボールをプレーに戻すため、明らかにボールをける、またはけろうとした場合を除く。
    • ボールが味方競技者によって意図的にゴールキーパーにキックされる。
    • 味方競技者によってスローインされたボールを直接受ける。

3項目目がいわゆるバックパスに対する手での対応に関する規制です。少し詳しく見ていきましょう。

ゴールキーパーが手で触れることができないパスやスローイン

ボールが味方競技者によって意図的にゴールキーパーにキックされる」とき、ゴールキーパーがボールを手や腕で触ると間接フリーキックの反則となります。ゴールキーパーは味方競技者が足でパスしたボールを手で触れることができないということですね。
この「足」というのは、足首より先を指しています。つまり、ヘディングや胸、太もも、膝のパスであればゴールキーパーは手で扱うことができます。(ただし注意点がありますので、後述も参考してください)

また、味方競技者のミスキックもパスではないので、手で触れることができます。同様に、味方競技者が相手と競り合いながら足に当たったボールや、シュートブロックしたボールも、パスでないので手で触れることができます。
但し、ミスキックかどうか、足に当たったボール、シュートブロックしたボールが意図的なものだったかどうかは、主審が判断します。主審はプレーの状況と競技者の意図を十分見極めて、的確に判断しなければいけません。ですので、ゴールキーパーは紛らわしいと思えば手で扱わないことです。

尚、味方競技者からのスローインのボールを直接ゴールキーパーが手でプレーすることが規制されたのは、1997年の改正からです。

味方競技者からのパスを手で触れた場合、スローインを直接受けた場合、どちらも手で触れた場所から相手チームの間接フリーキックで再開となります(パスした場所ではありません)。

前にけっても「バッグパス」

ちなみに、ゴールキーパーが(味方競技者よりも)前方にいて、ゴールライン付近から味方競技者がゴールキーパーにパスしたケースも「バックパス」です。「バック」という方向を意味する言葉で理解するのではなく、ゴールキーパーへの意図的なパスやスローインと考えてください。

足以外でパスすればOK、というわけではない!

先ほどの説明で、「足」というのは足首より先を指している、としました。確かに足以外の部分でバックパスしたボールは手で扱えますし、足でのバックパスやスローインでも、ゴールキーパーが手以外の部分でプレーすることは許されています。
それでは、反則を取られないために、ヘディングなど足以外でパスをすればいいのかというと、そうではありません。

例えば、わざと足でボールを浮かしてから頭でバックパスをしたとしましょう。こういったプレーは、競技規則の精神に反する(競技者が規則の裏をかくために意図的に策略を用いること)ので、バックパスをした競技者に反スポーツ的行為として警告が与えられ、相手チームの間接フリーキックとなります。
この例の他にも、スローインのボールを意図的に味方競技者がヘディングでゴールキーパーに戻したりするようなプレーも、競技規則の精神に反するとみなされます。ゴールキーパーが手でとるかとらないかに関わらず、このような行為自体が罰則の対象となるのです。

「意図的な策略」とみなれる例

  • 相手競技者にマークされていないフリーの競技者がボールを浮かせて、もう一人の味方競技者にパスし、その競技者が頭や胸、膝など、足以外の部分を使ってゴールキーパーにパスをする。
  • ゴールキーパー自身が自分のキープしているボールを浮かせて、フリーの競技者にパスし、その競技者が足以外の部分を使ってパスを返す。
  • 競技者がフィールドに膝をつき、意図的に膝や頭でボールを突いて味方のゴールキーパーにパスする。

また、警告は与えられませんが、ゴールキーパーがペナルティーエリアの外に出て、味方競技者がキックしたボールを足で受け、そのままドリブルをしてペナルティーエリア内に戻ってから手でボールを扱った場合や、味方競技者が足の裏などで止めたボールに、ゴールキーパーが手で触れた場合は、「バックパス」で、間接フリーキックとなります。

「競技規則の狙い」を理解することが大切

 

冒頭で取り上げたJリーグの場面では、攻撃側の選手に触れていなければ、競技規則の精神や歴史的な経緯から、守備側の選手がゴールキーパーに意図的にパスしたと判断し、「ゴールキーパーへのバックパス」の反則と考えます。

その事象の形や結果だけではなく、競技規則の狙いを考えてみると、その理解がより深まるかと思います。競技規則は時代の流れや要求によって変化していますが、それぞれの改正が何を目的にしているのかを理解することが大切なのです。
サッカーのゲームはどんどん進化しています。選手や審判は観客も楽しめるようなインプレー時間の長いゲームを目指してもらいたいです。

 

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WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。