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今さら聞けない!?サッカールール「飲水タイムとクーリングブレイク」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は「飲水タイムとクーリングブレイク」について。ハーフタイム以外にも水分補給の時間がとられているのは知っていますか?

熱中症を防ぐための飲水タイムとクーリングブレイク

 

「8月7日は立秋だったのに、東京では35.4℃の猛暑日となり、全国で30地点を数えました。」という内容の新聞記事がありました。
気候変動によって、2010年以降、35℃を越える猛暑日と言われる日数が増え、日中にスポーツを安全に楽しむという環境ではなくなってきています。

日本サッカー協会は、2011年にユース以下の試合において、熱中症予防という安全面から、また、より良い身体のコンディションを保って質の高いプレーを続けるという面からも、試合中の十分な水分の補給が必要、重要であるとし、1分程度の「飲水タイム(ドリンクスブレイク)」を設けました。
さらに、2016年には、日陰にあるベンチに入って身体を冷やし、水やスポーツドリンク等を飲むという3分間の「クーリングブレイク」を設定しています。
現在では、年代に関わらず暑熱対策として「飲水タイム」や「クーリングブレイク」を取り入れるようになりました。特に子どもたちの試合では、どうしても自分から水分補給ができないので、両方を併用しているところもあるように聞いています。

今年は春に十分な運動ができなかったため、基礎体力が十分備わっていない選手も多いかと思います。さらに、コロナ禍でペットボトルを共有できませんので、現地の体感温度や状況に応じて「飲水タイム」を設けるなどして、いつもの夏以上に体調管理に目を配らなくてはいけません。水分補給については、のどが渇いたと思ったときでは遅いということを忘れないでください。

飲水タイム・クーリングブレイクの基準

飲水タイム・クーリングブレイクの判定に用いられるのは、WBGT(湿球黒球温度)という指標です。WBGTとは、暑さ指数を示す、気温湿度輻射熱の3つを取り入れた指標のことで、気温と同じ℃で示されますが、気温とは異なるものです。このWBGTを、試合前とハーフタイムに運営の方々が会場で測定します。

4種(小学生年代)の子どもたちの試合では、WBGTが25℃以上の場合は「飲水タイム」または「クーリングブレイク」を、28℃以上では「クーリングブレイク」を行います。この条件に当てはまった場合、試合開始前に運営側から両チームに飲水タイム・クーリングブレイクの対応方法を伝えます。また、ハーフタイムでの測定が条件に当てはまった場合も、両チームに後半の対応を説明します。

尚、WBGTが測定できない場合では、WBGT28℃=摂氏31℃を目安としています。とはいえ、前述したようにWBGTの測定値にこだわらず、安全を優先し柔軟に対応することが大切です。また、選手だけではなく、審判員やボールパーソンなども飲水、あるいは、からだを冷やすようにしましょう。

飲水タイム・クーリングブレイクのタイミングは?

 

前後半それぞれの半分の時間が経過した頃、試合の流れの中で両チームの有利、不利が生じないようなボールがアウトオブプレーのときに、主審が選手に指示を出して行います。最も良いのは中盤のスローインのときですが、負傷者のための中断や、ゴールキックのときでも可能です。反対に、フリーキックやコーナーキックなどのときは避けるべきでしょう。

尚、それぞれに要した時間は、「その他の理由」により空費された時間として、前後半それぞれに時間が追加されます。ですので、アディショナルタイムの表示はいつもより長くなります。

選手の交代はしてもいいの?

選手の交代は手続きを行った上であれば、飲水タイム・クーリングブレイクのどちらの間でも可能です。試合再開時には、審判が交代する選手の背番号を表示し交代するといった風にすると、全員が分かって良いでしょう。
尚、飲水タイム・クーリングブレイク共に「自由な交代」が可能な試合についても、設定できます。

飲水タイムとクーリングブレイクの相違点は?

ところで、飲水タイムとクーリングブレイク、どこが違うの?という方も多いかと思います。それぞれ異なる点もありますので、あわせておさえておきましょう。

時間

飲水タイム:1分程度
クーリングブレイク:90秒~3分間

場所

飲水タイム
ライン(タッチライン、ゴールライン)上で、ラインの外に置かれているボトルをとるか、チーム関係者からボトルを受け取って飲みます。ラインからは大きく離れないようにしましょう。

クーリングブレイク
日陰にあるベンチ、テント、更衣室など決められたところで、必ず全員が集まります。ですので、ラインの外に出ても構いません。

認められていること

飲水タイム
前もって指示された摂取可能エリアならば、水以外のスポーツドリンク等の飲料を飲んでも構いません。ただし、氷はグラウンドに残っているとプレーヤーにとって危険なので避けた方がいいかもしれません。

クーリングブレイク
水だけではなくスポーツドリンク等を飲むことができます。さらに、クーラーの効いた部屋や日陰の涼しいところなどで、氷・アイスパック・冷水を含んだスポンジ等でからだを冷やし、必要に応じて着替え(ゼッケンビブスの下のTシャツなど)をして構いません。
特に、頸部・脇下・鼠径部など、大きな血管がある辺りを冷やしたり、冷たいシャーベット状の食べ物を摂ったりすることが効果的だと言われています。

※塩分の摂取不足や水だけの過剰摂取による低ナトリウム症(血液中のナトリウム濃度の低下)を防ぐため、また腸管での水分補給を促進させるために、塩分(ナトリウム)と糖分を含んだ水分としてスポーツドリンク等を飲むことが熱中症予防に適しているとされています。

選手だけではなく、関係者、保護者も万全の対策を

 
選手だけではなく、運営側、観る側も万全の対策を!

この夏は、新型コロナウイルス感染症対策に加えて、暑熱対策・熱中症対策も忘れずに心がけなければいけません。運営の方々、選手やチームスタッフ、観客の皆さん、試合を担当する審判員が「命と健康を守るための行動」を充分意識して、みんなでスポーツを楽しんでいただきたいと願っています。

WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。