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今さら聞けない!? サッカールール番外編「Jリーグ 秋春制への移行について」

今さら聞けない!? サッカールール番外編「Jリーグ 秋春制への移行について」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ! 今回は、2026年以降のJリーグへの適用が決まった“秋春制”移行の目的や、移行によって生じる影響について解説します。

秋春制へのシーズン移行、その影響は?

Jリーグは、長年懸案としていた「秋春制へのシーズン移行」を現実化し、その最初のシーズンを2026年から2027年にかけて実施することを決定しました。
今回は、2024年2月にライターの堀田大介氏が語った資料を基に、Jリーグのシーズン移行の目的やメリット、デメリットを紹介しながら、審判目線で「秋春制」をみていきたいと思います。

1.秋春制の試合日程

図1をご覧いただくと、現行と秋春制の具体的な違いが分かります。

 今年の2月14日に開幕する予定の2025シーズン終了後、2026年8月第1週から始まる2026-27シーズンは、2027年5月最終週に閉幕することになりそうです。
途中、降雪期間にあたる12月第3週頃から2月第2週頃まではウィンターブレイクとして、休止期間となります。

※現在、女子のWEリーグ2024-25シーズン(12チーム全22節、132試合)は2024年9月14日~2025年5月17日に行われ、途中にウィンターブレイク(2024年12月2日~2025年2月28日を休止)を設けています。

2.秋春制に移行する目的とメリット

Jリーグは国際的なスタンダードに合わせ、より競争力のあるリーグを目指して「秋春制」を提案してきました。そのメリットは次の5点です。

①国際大会との整合性

ヨーロッパの多くのリーグでは日本の秋春制と同じスケジュールで行われているため、国際大会のスケジュールに合わせやすくなります。特にFIFAワールドカップやAFCアジアカップなどの大規模な国際大会との調整がスムーズになります。
その結果、選手にとってはメリハリがつき、休みが取れ、疲労回復につながるでしょう(現行ではJリーグのシーズン途中に国際大会が入ることが多く、長距離移動などで選手への負担が大きい)。

また、審判目線でも考えてみると、IFAB(国際サッカー評議会)による競技規則の改正が6月頃に行われます。そのため現行ではシーズン途中に新たな規則が適用されるという難しさがありました。移行後は8月のシーズン開幕から改正された競技規則を適用することができるため、規則が周知徹底しやすくなると思われます。

②選手の国際競争力向上

上述のとおり、5大リーグ(スペイン、イングランド、ドイツ、イタリア、フランス)をはじめとしたヨーロッパのリーグと同じスケジュールでプレーすることで、Jリーグの選手が海外移籍しやすくなり、国際的な経験を積む機会が増えます。

これは選手の技術向上に寄与すると考えられます。現在の日本代表も海外のトップリーグで活躍している選手が多く、近年は高校生年代からJリーグを経由せずに海外のクラブに加入する選手も見られます。

逆にさまざまな国籍の選手が移籍先としてJリーグを選ぶ可能性が上がることも期待されます。彼らが日本のファンの前で活躍することは、多文化交流の場ともなり、審判員としてもいろいろなタイプの選手のプレーに接することができ楽しみです。

そして、審判員の長期的な海外派遣、反対に招聘することもでき、相互の交流も活発化し、審判技術の習得にもつながる可能性があります。

③選手の負担軽減

 国際大会とスケジュールが合いやすくなるため、大会期間中のJクラブからの長期離脱が減り、選手全体の負担が軽減されます。リーグ戦やカップ戦、天皇杯などで水、土・日の連戦が続くことによる身体的・精神的負担を解消する期間を設けることは、選手にとっても審判員にとっても喜ばしいことです。

また、チームとしても十分な準備期間を確保することができるので、戦術面の確認だけに追われていた期間を、新たなチャレンジへの準備にあてることができるかもしれません。

④ファンの関心とメディアの注目

ヨーロッパのリーグと同じスケジュールとすることで、国内外のファンの関心を高め、メディアの注目も集めやすくなると考えられています。
特に、インターネットの発達により、若い世代の選手によるテレビ以外のメディアでの情報発信にもこれまで以上に関心が高まるでしょう。個人技術・戦術が飛躍的に伸びるかもしれません。

⑤気候的な利点

最近の日本の夏が非常に暑いのは言うまでもありませんが、秋春制にすることで、選手にとってプレーしやすい環境を提供でき、選手の健康を守ることもできます。

日本サッカー協会(以下JFAと略す)は、気候変動による影響を深刻に受け止めています。いろいろな暑熱対策を講じていても、熱中症により尊い命が失われる痛ましい事案がスポーツ・サッカー界において毎年のように発生しています。

また、暑熱環境下では選手のパフォーマンスの低下も顕著であり、選手育成の観点からも本来在るべき姿とはいえない状況です。加えて、暑熱問題以外にも、落雷や豪雨等の荒天の発生など、事業運営の観点からも関係する皆様の安全面の確保が難しくなってきています。

こうした背景をふまえ、安心・安全なサッカー環境やオフの期間の確保を含めた最適な選手育成環境の提供のため、熱中症対策ガイドラインの厳格な遵守をあらためて強く打ち出すとともに、JFA主催事業の開催方針を次の通り定めています。

・2025年度以降、JFAの主催・管轄する大会・リーグ戦・フェスティバル等は7月・8月は原則開催しない。

・ただし、屋内・ナイター・冷涼地等において、熱中症対策ガイドラインに則し、事業に関わる皆様の安全確保が十分に可能と判断できるような環境下であれば、事業を実施する場合がある。

・他団体が主催する全国規模の競技会等についても、安心・安全な環境が確保できるようカレンダーの調整や関係各所との協議を進めていく。その一環として、JFAでは、各都道府県においてカレンダーがより柔軟に調整できるよう、2024年度より、U18/U15/U12リーグ戦の目標試合数を「20試合」から「14~20試合」に緩和するなどの取り組みを行っています。

3.デメリット

反対に、秋春制への移行に関するデメリットは以下の4点です。

①冬場の寒さと天候

日本の冬は一部地域で雪が多く、試合の開催が困難になる場合があります。サポーターも寒いなかでの観戦を余儀なくされ、スタジアムに足を運びにくくなるかもしれません。現在、その地域のスタジアムの施設・環境整備が検討されているようです。

また、寒さによる筋肉系のトラブルへの予防・回復を中心としたトレーニングなどの対策も必要となるでしょう。暑熱対策と異なり、温熱を発生・維持する服装・栄養補給の工夫が必要かもしれません。ただし、冬場でも水分補給は必須です。

審判員も今以上に時間に余裕を持って移動しなければならなくなり、プロ(2025シーズンは24人)ではない審判員は仕事との調整に苦労するかもしれません。

②伝統的なカレンダーとの変更

年間を通してのリーグ戦が長く続いてきたため、日本のファンや関係者にとっては大きな変更となり、適応に時間がかかる可能性があります。何事も慣れたことを変えるには抵抗があり、時間がかかるでしょう。

③スケジュールの調整

他の国内スポーツイベントや行事とのスケジュール調整が必要になることがあります。特に、現在の学校の制度(4月入学、7・8月夏休み、3月卒業)との関係が課題になるかもしれません。勝ち点争いが佳境となる5月に新メンバー(高校卒、大学卒など)を加えて戦うことも考えられます。

また、ウィンターブレイクによってシーズンが分かれるので、チームの勢いが中断される可能性も考えられます。疲労回復が可能な反面、一旦作ったフィジカルコンディションを再度作り直さないといけないかもしれません。

④新シーズンへの準備期間の短縮

現在は12月上旬にはリーグ戦及び昇格のためのステージが終了し、2月中旬に新シーズンが始まっていましたが、秋春制では、シーズンの終わり(5月最終週)と始まり(8月初週)が近くなるため、新シーズンへの準備期間が短くなる可能性があります。

4.今後の展望

秋春制への移行は、国際的なスタンダードに合わせるという点でメリットがありますが、日本独自の気候や文化に合わせた調整が必要となります。
海外への移籍や国際大会への参加がスムーズとなり、より世界で注目されるリーグになっていくでしょう。一方で、降雪地域にあるクラブに対する施設整備などに100億円規模の支援が行われるとの報道もあり、今後の動向に注目です。

Jリーグのトップチームだけの変更ですが、下部組織であるユース、ジュニアユースについても、今後継続して検討されるでしょう。
Jリーグが掲げる「日本サッカーの水準向上」「豊かなスポーツ文化の振興」「国際社会における交流や親善への貢献」という3つの理念を実現するために、選手、観客、運営、審判が力を合わせて秋春制に取り組みたいものです。

WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。

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