緊張するのは悪いことじゃない!緊張しても良いパフォーマンスができる考え方とは?
元プロサッカー選手で現在はメンタルトレーナーとして活動する山下訓広さんによる連載第3回目。今回のテーマは「緊張とパフォーマンスの関係」。緊張していても良いパフォーマンスを引き出すために必要な考え方とは?
緊張するのは悪いこと?
サッカーをしていると緊張する場面も多いですよね。大事な試合やPK、セレクションなどなど…。緊張したくないと意識すると、ますます緊張してしまうなんてこともあると思います。
緊張するのは良くないことだと思うかもしれませんが、そんなことはありませんし、「緊張する=メンタルが弱い」ということでもありません。日本人は感情を評価したがる傾向にあると言われていますが、感情とは本来、出来事に対する心の反応です。それは自然と湧き出てくるものであって、コントロールすることはできないのです。自分がコントロールできないものを評価基準にするなんて、あまり意味がないと思いませんか?
緊張のデビュー戦ではいつものパフォーマンスができず…
とはいえ、そう言う私も現役時代は感情を評価し、コントロールしようとしていました。また、感情をコントロールできる人こそメンタルが強いのだと思っていました。
大学卒業後、私はロアッソ熊本というクラブに入団したのですが、デビュー戦は非常に緊張したことを覚えています。残り10分、1-0で勝っている、なんとしても守りきりたいという状況でディフェンダーの私が呼ばれました。監督からの指示は残り10分守り切る。そこで私が感じたのは「ここで失点してしまい、悪いパフォーマンスをしたらもう試合に出られないのではないか…」ということでした。それに加えて、スタジアムには2万人の観客。こんなに多くの人の前でプレーするのは初めての経験で、いよいよ緊張はピークに…。試合に入る前、「落ち着け、リラックスするんだ」と感情をコントロールしようとしました。
結果は勝利できたものの…自分自身のパフォーマンスは最悪でした。普段しないような簡単なパスミスや、声をかけるといったコミュニケーションも取れませんでした。また10分という短い出場時間でしたが、フル出場したくらい疲れを感じたことを覚えています。この時は、「やっぱり緊張すると良くない」と思っていました。
緊張したけど良いパフォーマンスができた入団テスト。その理由は?
こんな風に最初の頃は緊張すると良いプレーができなかったのですが、ある時、緊張をどう扱えばいいか分かるようになりました。
それは、海外でいくつかのチームの入団テストを受けていた時のことです。チームと契約できなければ引退という状況だったので、当然テストの時には緊張してしまいます。「落ち着け、リラックスしろ」と思いながらテストに臨むものの、中々自分のパフォーマンスが出せず、契約にも至らないという結果が続いていました。
そんな状況で5チーム目のテストを受けることに。このテストに受からなければいよいよ引退です。ラストチャンスということで一番緊張したのですが、心境としては「最後なのだから、思いっきりやってやろう!」と開き直っていました。そして、このテストでは今までで一番良いパフォーマンスができ、契約を勝ち取ることができました。
最初の4チームでのテストと最後のチームでのテスト、同じように緊張していたものの、その緊張に対する思考は正反対です。最初の4チームでは、緊張に対して「リラックスさせよう」という思考を働かせていました。その一方で、最後のチームでは開き直って「緊張してもいいや」という思考になっています。
感情を扱う上では、ここがとても大切なポイントになります。感情と思考が不一致を起こすと、脳は大きなストレスを感じてしまいます。最初の4チームのテストでは、緊張という感情に対して「リラックスしろ」という思考を働かせていたため、感情と思考が不一致の状態になっていたのです。冒頭にも述べたように、感情は本来コントロールできるものではありません。大切なのは、感情をコントロールすることではなく、感情をしっかりと受け入れることです。「緊張するのは当たり前、緊張は悪いものではないんだ」というように、寄り添うような感覚で緊張という感情を受け入れてあげてください。
そして、ここからもう一つ重要なことは、行動を整理することです。緊張を受け入れた上で、自分自身がどのように行動するのかをしっかりと整理するのです。例えば、先ほどの5チーム目のテストの場面。開き直って緊張を受け入れてからは、自分の長所は何かを整理し、普段調子の良いときにしているプレーをしっかりと整理することができました。「リラックスしなくては」という思考を捨てることで、具体的な行動だけに集中して動くことができたんですね。
緊張の感情を受け入れ、行動を整理することが重要
緊張するとパフォーマンスが落ちてしまうと思っている人も多いですが、実はパフォーマンスが落ちる原因は緊張そのものではなく、「リラックスしよう」という思考の方なのです。緊張を落ち着かせることに意識がいってしまうから、パフォーマンスが上手くいかなくなってしまうのです。緊張した中でも感情を受け入れて、自分がすべき行動を整理できればパフォーマンスの向上に繋がるはずです。
お子さんが緊張している時は、「リラックスして!」といった声を掛けがちですが、それよりも行動に意識が向くようなアドバイスができるといいかもしれません。繰り返しになりますが、感情はコントロールできないものですから、どのように扱うのかということが大切です。感情を受け入れるという思考を持った上で、次の行動を整理して考えるようにすれば、緊張も上手く扱えるようになるはずです。