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アメリカ少年サッカー記9「違いをつくる選手」になるためには

求められる選手像

子供がサッカーをしていく上で気になる事の一つに、育成コーチはどういう選手を求めているのか、という点が挙げられます。そして、そのコーチ達の答えは、ほぼ共通して、「違いをつくるプレーヤー」。その話を聞いた時は、なんとなく理解をしたつもりだったのですが、良く良く考えると、何だかわかりにくい表現です。「つくる」という言葉をとっても、漢字の「作る」「造る」「創る」では、意味が僅かに違ってきます。果たして、違いをつくる、とは、どんな事を指すのでしょう?

この言葉を検索すると、様々な意見に出くわします。私と同様に、分からない人は多いようで、質問のまとめサイトまでありました。それらを総称すると、違いをつくるとは、「意外性や意表のつくプレーができる人」、「突出したプレー」など。要は、こちらの予想を超えるような創造性、クリエティブなプレーができることを指すようです。

さらに、クリエティブな選手には、難しいトラップなどの技術的創造性、思いもつかないパスなどの戦術的創造性、圧倒的な高さやスピードなどの身体的創造性、と分けられる意見もあり、一概に「違いをつくる」といっても、技術、視野、身体能力と幅広い領域で発揮される能力のようです。

では、子供がクリエイティブな選手になるためには、どうしたら良いのでしょうか? 様々な環境や練習のアイディアがあるようですが、その中で、今回は、選手に決定権を与えてプレーさせるコーチにつくと良い、という意見について着目してみました。というのも、最近、コーチングによって、子供達のプレーが変化する出来事があったのです。

コーチングでガラッと変わる子供のプレー

秋のリーグ戦で、息子のチームは、2−5で負けた試合がありました。その日は、チームのフォーメーションが崩壊し、前半からズルズルと失点したのですが、普段は冷静にどーんと構えているコーチが、この日は指示を飛ばしていました。指示の内容は、ドリブルしないでパスしろとか、ミスした選手に、もっとこういうオプションがあった、などです。ドリブルしている最中に、そうじゃない、などと言うので、選手がプレーに迷っているのが分かりました。結局、1試合を通して、子供達は静かにプレーを続け、普段の元気さが出ないまま、負けたのでした。

後日、この試合映像を見返すと、試合中にコーチの声が休むことなく録画されていて、コーチ陣は指示の出し過ぎに気づいたようです。その結果、次の試合から、コーチ陣は、コーチングの仕方を大きく変えたのでした。

新しい試みは、チーム内の3人のコーチでポジションを分担し、そこにだけ指示を出すというもの。それも、選手がベンチに下がってから話す、というやり方でした。息子が、選手交代でベンチに戻った時は、一人のコーチからホワイトボードを使って説明を受けていました。試合中に、ベンチからの声かけがなかったので、代わりに聞こえてきたのは、子供達が連携しようと互いに掛け合っている声でした。子供達の表情も豊かで、伸び伸びプレーしているのが、観客席からも分かりました。結局、その試合は惜しくも1点差で負けてしまったのですが、大敗を期した試合からたった一試合で見違えるのようなチームになりました。

さて、冒頭の話。コーチは、違いをつくる選手が欲しい。一方で、違いをつくる選手を育てるには、コーチは試合中のコーチングを極力減らし、選手自身に考えさせなければならない。この両者の関係性を考えると、コーチの苦悩が想像でき、コーチングの難しさやサッカーの奥深さを感じるのでした。

「アメリカ発 少年サッカーの育成事情」https://utlogan.blog.fc2.com/ でも執筆中

WRITER PROFILE

近本 めぐみ
近本めぐみ

日米で色々な大学、研究所を渡り歩く理系研究者。現在はアメリカ在住、在米歴と息子のサッカー歴が8年のサカママ。サカママWEBでのコラムを通して、アメリカならではのサッカー育成の面白いところ、興味深いところを発信していきます。

★外部ブログ「アメリカ発少年サッカーの育成事情」でも執筆中