担架の種類、知ってますか? 万が一に備えて選手の安全を守ろう
みなさん、こんにちは。スポーツナースの山村です。
お子さんが試合中に怪我をして担架で運ばれるような事態になったことはありますか? こんな経験はないに越したことはありませんが……私が初めてサッカー現場で担架を見たのは、息子が試合中に怪我をして運ばれたときです。相手選手と激しく接触し立つことができず、ピッチから担架で運ばれ、救急搬送されたことがあります。
サッカー会場でもよく見る「布担架」、実は危険性も
息子が運ばれた際に使用されていたのは、恐らく皆さんが「担架」と聞いて一番思い浮かべるであろう「布担架」というものです。
名前の通り負傷者を乗せる面が布でできており、柔らかいのが特徴です。大半の怪我は布担架で対応が可能なのですが、実は頭頸部外傷の際にはこの柔らかさという特徴がマイナスに働いてしまいます。というのも、脊椎損傷が疑われる場合は動かすことでさらに症状が悪化してしまう危険性があるためです。損傷の程度や部位にもよりますが、動かすことでさらにダメージが加わると、麻痺や感覚障害などの大きな後遺症により車椅子での生活を余儀なくされることもあります。
頭頸部外傷に適した担架とは?
頭頸部外傷や脊髄損傷が疑われるような場合は、「スパインボード(バックボード)」や「スクープストレッチャー」と呼ばれる担架を使用します。
これらは硬い板でできているため、布担架とは違い体をしっかりと保持することができます。また、これらと併せて頸椎カラーや頭部固定具(ヘッドイモビライザー)を使用して頭頸部を固定し、ベルトで体幹を固定すれば、全身をしっかりと固定して負傷者を搬送することができます。
救急車にはこれらの担架類が積まれており、用途に応じて使い分けられています。スクープストレッチャーは板を2つに割ることができ、板に乗せる際の体の揺れや動きを最小限に抑えることができるので、最近はスクープストレッチャーを使用することが多くなってきているようです。
とはいえ、スポーツ現場でスクープストレッチャーが主流になっているのは、国際大会やプロスポーツ界まで。ジュニア年代ではまだ普及しているとは言いづらいのが現状です。サッカーでもそれは同じで、Jリーグなどのトップリーグでは整備されていますが、ジュニアサッカーの現場ではスクープストレッチャーどころか、バックボードもまだ普及していません。
その理由の一つには、会場に準備されている備品を使っていることが挙げられます。救急用具は各チームで準備できていることが理想ですが、金銭面や保管場所などの問題があり厳しいのが現状。そうなると、会場に備えられている救急道具を使わざるをえません。大きな大会の会場では担架の準備がされていることもありますが、場合によっては布担架すらないこともあります。
選手の安全性を確保するラグビーの取り組み
ここでサッカーではなく、ラグビー現場の話をしたいと思います。ラグビーはその競技特性もあり、安全への取り組みが盛んに行われているスポーツの一つです。都道府県協会やチームレベルでもバックボードやスクープストレッチャーを所有していたりします。高校ラグビーの試合会場ともなると、ドクターが常駐しており、試合前にはバックボードの使用法の説明や救護練習が行われることもあります。
また、ラグビーにはセーフティーアシスタント(SA)という制度が導入されています。セーフティーアシスタントは競技中であっても審判の許可無しで競技区域に入ることができ、選手の怪我などに対応することができるというものです。この役割は、医学的知識を持ち、ラグビーのルールにも精通している人物が務めるため、チームドクターの他にはトレーナーなどが務める場合が多いようです。試合の流れを止めることなく、すぐに負傷者の手当にあたれるというわけです。
こういった取り組みに加えて、ラグビーでは選手自身が頭頸部外傷の危険性をよく把握している印象があります。競技特性の違いはありますが、サッカーで頭頸部外傷は起こらないとは言えませんし、万が一の事態が起こる可能性は十分にあります。そんな時でも被害を最小限にとどめるためには、どの種目、どのカテゴリーにおいても万全の備えができるようにしたいものです。
万が一の事態にも柔軟に対応できる環境、知識を備えることが大事
ラグビーに比べると、まだまだ安全面の配慮が足りていない部分も多いサッカーの現場。とはいえ、すぐにバックボードやスクープストレッチャーを用意できるわけでもありません。それに、こういった道具があっても、知識や経験のないメンバーで無理に対応しようとするのも良いとは言えません。
でも、「頭頸部外傷で負傷者を無暗に動かすのは危険」ということを知っていれば、万が一の事態が起きても、焦ることなく消防・救急の到着を待つという判断ができるようになるはずです。こうしなくちゃいけないと言うよりは、どうすればいいかをみんなで考え、準備、対応ができる環境を作っていけるといいですよね。