サッカーでは珍しくない!脳振盪に注意しよう
みなさん、こんにちは。スポーツナースの山村です。
今回は、サッカーではよく見られる競合いの場面で頭同士がぶつかったり、転んで頭を打ったり、ヘディングをした際などに起きる脳振盪についてお話をしたいと思います。
ヘディングは危険?
本題に入る前に、一つ気になるトピックがありましたので、ご紹介させていただきます。
この夏、イングランドのサッカー協会が12歳以下の試合では意図的なヘディングを禁止するルールを試験的に導入すると発表しました。このルールが導入された背景には、元プロサッカー選手と一般人との死因を比較した際に、元プロサッカー選手は認知症などの神経変性疾患で死亡する可能性が高いという研究結果が発表されたことがあります。明確な因果関係は定かではありませんが、ヘディングによる脳へのダメージが蓄積されることを問題視したようです。
ヘディングと脳へのダメージは何度か話題にあがることがありましたが、特に問題になっているのが子どものヘディングについてです。ヘディングは頭部の質量が小さいほど衝撃が大きくなることが分かっていますし、また、子どもには頭部を支える筋力が十分に備わっていません。したがって、子どもがヘディングで受ける衝撃は、大人のそれよりも大きいのです。
実は珍しくない、脳振盪
それでは、今回の本題の「脳振盪」に話題を移しましょう。
脳振盪とは、その漢字からも分かるように、頭を強くぶつけたり、揺さぶられることで頭蓋骨の中にある柔らかい脳が振れてひずみが生じ、脳の機能が一部停止することを言います。重症な場合には命に危険を及ぼすことにもなるものです。
JSCによる調査研究で、2005年から2011年の間に学校管理下で起きた頭頸部外傷のうち、特に重症例にあたる4,396件の内容を分析したものがあるのですが(※1)、それによると脳振盪は全体で2番目に多く、その数は855件に達しているとの報告が出ていました。ちなみに、最も多いのが頭部打撲の1,240件で、脳振盪と合わせると全体の約半数を占めています。また、競技をサッカーに絞って見れば、頭頸部外傷837件中、脳振盪は235件と約3割近くを占めています。
さらに、脳振盪を起こした直接的な原因の約7割は、人との衝突・接触によるものと報告されています。サッカーはコンタクトスポーツですから、このことからも脳振盪が起こる危険性が大いにあることが分かるかと思います。
脳振盪が起きるとどんな症状が出るの?
次に脳振盪はどんな症状が出るかをお話しします。
脳振盪の主な症状には、頭痛・めまい・ふらつき・集中できないなどがあり、一部分の記憶が消失することもあります。これらの症状は一過性のものが多いのですが、脳振盪が怖いのは実は9割以上は発症していても意識を失うことがないという点です。そのため、本人や周りの人が認識しにくく、その後も運動を続けてしまうことも少なくありません。
さらに厄介なことに、脳振盪はほとんどの場合CTやMRIなどの画像検査で異常が出ません。また、脳振盪後症候群と言い、月単位で症状が続くこともあります。そして、一度脳振盪を起こすと同じような衝撃でもまた脳振盪が起きやすくなってしまいます。これが繰り返されると脳へのダメージが蓄積され、将来後遺症となる慢性外傷性脳損傷という病態につながるリスクもあるのです。
脳振盪が起きた際は、どうすればいいのか?
それでは、実際に脳振盪が起きた際は、どうすればいいのでしょうか?
脳振盪が起こるほどの衝撃が加わると、急性硬膜下血腫という出血を起こすリスクもあります。そのため、練習・試合などはすぐに中止し、症状が悪化しないか観察するようにしましょう。
実は私自身も息子が試合中の競り合いで頭をぶつけて倒れた経験があります。大事な全国予選の一場面で、その時はすぐに立ち上がったこともあり、「離脱しないで……頑張れ、何かあっても助けるから、今は頑張れ……」とスタンドから応援していました。結果的に息子は脳振盪ではなかったのですが、冷静になってみると、医療従事者であるにも関わらず自分勝手な想いだったなと反省しました。その場の感情だけではなく、冷静に現状を見極めて判断しなくてはいけない難しさを実感した場面でした。
少し話が逸れてしまいましたが、JFAのHPではサッカーにおける脳振盪に対する指針が掲載してあります。また、脳振盪後の練習復帰には、段階的なプログラムを踏むことも必要になります。この復帰プログラムもJFAのHPに掲載されているので、一度確認してみてください。サッカーでは珍しくない脳振盪、しっかりと対策が出来るようにしておきましょう。
参考:
※1)独立行政法人日本スポーツ振興センター 学校災害防止調査研究委員会「学校の管理下における体育活動中の事故の傾向と事故防止に関する調査研究」, 2013年3月, 第2編 体育活動における頭頚部外傷の傾向
https://www.jpnsport.go.jp/anzen/anzen_school/bousi_kenkyu/tabid/1651/Default.aspx