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「傷」への対処法をアップデートしよう!

みなさん、こんにちは。スポーツナースの山村です。
うちの息子はセンターバックをやっているんですが、守備の局面ではスライディングをすることがあります。なので、摩擦で擦り傷を作って帰ってくることがよくあります。選手の間ではその傷を「ハンバーグ」なんて呼んでいるみたいです。
今回はそんな「」について取り扱います。傷への対処法は昔と少し変わっているところもあるので、参考にしてもらえればと思います!

 
サッカー少年に傷は付き物…。治癒を早められるように対処法を覚えておきましょう。

本題に入る前に…皮膚と「痛い」感覚の話

傷の話の前に、まずはじめに皮膚についても説明しておきます。
私たちの体を覆っている皮膚は、体内でも最も大きな臓器です。なんと、皮膚の総面積は成人だと畳一畳分(!)にも相当します。皮膚は外部からの様々な刺激や衝撃から体を守る他、水分や体温の調整を行っていたり、生命維持には欠かせない役割を担ってくれています。

そんな皮膚に傷が出来ると、大抵は「痛い」と感じますよね。この痛いという反応は人が生きていく上でとても重要なサインです。今回は傷の話ですが、傷がないのに痛いと感じる場合は、体から何かしらの警告が出ている可能性も。過敏になりすぎる必要はありませんが、場合によっては休むことも必要です。特に成長期の子どもの体は様々な変化が起きています。休むことはサボっていると捉えられることもあるかもしれませんが、そこは周りの大人がしっかり選手の体調を理解し、休ませることも必要です。

傷が治っていく仕組みって?

それでは、今回のテーマである「傷」について話を進めていきます。
普段の生活の中でも、ちょっとした傷が出来ることがあると思いますが、それっていつの間にか治っていたりしますよね。知らないうちに治っている傷ですが、実は体の中ではこんなことが起こっています。

  1. 血液の中に含まれる物質が出血を止めたり、炎症を抑えます。(受傷直後~数時間)
  2. 好中球が異物や細菌を分解する酵素を出し、マクロファージーが分解された細菌を掃除する。(数時間~数日)
  3. 傷口が埋まり、徐々にくっついていく。また、皮膚の中では新しい血管が出来始める。
  4. くっついた傷口のところに新しい皮膚が出来る。

これらの過程が重なり合いながら、もともと体に備わっている創傷治癒能力(受けた傷を元通りに戻そうとする力)により、傷は自然と治癒に向かっていきます。専門用語をできるだけ省いた簡易的な説明なので、「こんなことが起きてるんだなぁ」くらいのイメージを持ってもらえればと思います。

傷への対処法、昔とは少し変わってきています!

 
傷が出来たら消毒してガーゼや絆創膏…という方法、実は変わってきています

日常生活で出来るちょっとした傷はさておき、サッカーで子どもが怪我をして傷を作ると、つい慌ててしまいがちです。そこで、ここからは実際に傷を負った時の対処法を説明していきます。
「傷には消毒して絆創膏じゃないの?」と思うかもしれませんが、医学は日々進歩していきます。少し前までは当たり前であったことが、そうではなくなることもあり、傷への対処法も徐々に変わってきていますので、ぜひ覚えておいてもらえればと思います。

傷口の洗浄が第一!消毒は必須ではありません

これは昔から変わりませんが、まず一番大切なことはしっかりと【洗う】ことです。どんな薬を塗っても、傷口の表面に菌がついていれば意味がありません。最近は人工芝のグラウンドも増えていますが、ジュニア世代は土のグラウンドであることも多いかと思います。キレイに見える傷口でも、削り取られた自分の皮膚などの壊死組織が残っていることもあるので、まずはしっかりと水で傷口を洗い流しましょう。また、洗う際に使用する水は水道水やペットボトルの水でOKです。滅菌水を使う必要はありません。

傷口を洗った後は消毒と覚えている人もいると思いますが、この点は少し変わってきていて、キレイに洗浄ができている傷には消毒は不要とされています。そもそも肌には常細菌といって常に菌が生息しているので、殺菌の必要はなく、滅菌ができていればいいことが多いのです。また、消毒は菌を攻撃してくれますが、それと同時に傷を治す体本来の働きまで阻害してしまい、治癒が遅れてしまうこともあります。このような理由から、消毒は必ずしも必要ではなく、傷口をしっかり洗浄することが重要になります。

傷口の乾燥を防ぐためには、ガーゼよりも被覆剤を使う

次に大切なのが、【湿潤】を保つこと、つまり乾燥を避けることが必要になります。というのも、傷口を乾燥させてしまうと、その部分の細胞が死んでしまい、組織が壊死して傷が悪化してしまうから。傷口から出てくる液は「滲出液しんしゅつえき」と言うのですが、これには細胞を成長させる働きがあります。傷口が乾燥してしまうと、滲出液の機能が奪われてしまい、傷の治りも遅くなってしまうということです。

傷口の保護にはガーゼや絆創膏を使うことが多いかと思いますが、これらは滲出液を吸い取り、乾燥につながることから使用を避けるのが望ましいとされています。そのかわりに使えるのが、ハイドロコロイド材という【被覆剤】です。
被覆剤は滲出液を吸収し、傷口を湿潤したゲル状のもので覆うことで傷の治りを促進してくれます。また、乾燥による神経への刺激を抑えてくれるため、痛みを和らげてくれる効果もあります。サッカーをする子ども達にとっては、この痛みの軽減が一番必要なのかもしれませんね。

被覆剤、ハイドロコロイド材というと聞きなじみがないかもしれませんが、最近は100円ショップなども販売されており、種類もたくさんあります(ハイドロコイド材で検索してみると、「これのことか!」となるかと思います)。一つ購入して、練習用の荷物に入れておくといいかと思います。

また、すぐにハイドロコイド材が用意できない場合などは、ガーゼを使用することもあるかと思います。その際、ガーゼと傷口がくっついてしまうと、剝がす際に痛みが生じます。そのような場合は、ガーゼを湿らせてからゆっくり剥がすようにしてみてください。また、ガーゼにワセリンを塗布してから傷に当てると、くっつきを少し予防することができますよ。

傷であっても不安がある場合は、病院を受診!

今回は「傷」についてのお話をさせていただきました。自分たちが小さい頃に覚えた対処法から変わった部分もあったのではないでしょうか?
最後に、不安な場合は必ず病院を受診するようにしてください。どこまでの傷なら縫う必要があるかを判断するのは難しいです。傷口が深い、開いている場合や、洗っても砂や異物が取れない場合なども受診が必要になります。受診する際は形成外科、皮膚科、外科、整形外科がおすすめです。

WRITER PROFILE

山村麻衣子
山村麻衣子

シングルマザーとして3人の子育てをしながら、救命センターで看護師として働き、スポーツナースとしても活動しています。末っ子は高校サッカーで全国を目指し奮闘中です。万が一が起きている現場にいるからこそ、スポーツの現場でも安全や予防の必要性を感じているので、コラムではメディカル目線のサポート情報などを中心にお届けしていきます。