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今さら聞けない!?サッカールール「試合にまつわる時間のルール」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は「サッカーの試合にまつわる時間」について。キックオフ、ハーフタイム、アディショナルタイム…知ってるようで意外と知らない、サッカーの時間にまつわるルールを改めて理解しておきましょう!

サッカーの試合にまつわる時間のルールを再確認

 

試合を見るのはサッカーの醍醐味。キックオフの時間はいつでも待ち遠しいものです。今日の試合は10時キックオフだから、家の用事を何とか済ませて会場に9時58分到着し、「間に合った!」とホッと一息なんてした経験がある保護者の方も多いのではないでしょうか。また、応援しているチームが勝っていると、「長いな~。後何分あるんだ!?」なんてヤキモキすることもあるかもしれませんね。
今回はそんなサッカーの試合にまつわる時間について解説していきます。

試合の始まりを告げる「キックオフ」

公式戦では、予め決められたキックオフ時間にあわせて、選手、チームスタッフ、応援団、審判、運営スタッフ、観客が行動します。キックオフは22人の選手が試合を行う準備が整い、主審が笛を吹けば試合が始まるという状態です。

例えば10時キックオフですと、審判は10時00秒に笛を吹くことを目指します。00~59秒も同じ10時とされますが、できるだけジャストタイムを心がけます。早く始めることや、遅く始めることはスポーツマンシップの観点から良くないと言われているからです。
ただ、グラスルーツの冬の大会などで、寒空の下で長く選手を待たせることは安全の面の観点から好ましくないので、両チームの準備が整っているならば、審判は両チームと運営スタッフに確認して時間前に開始することもあります。

※グラスルーツ…プロだけでなく、老若男女すべての人が関わるサッカー。草の根サッカーとも言えます。

「試合時間」は年代や大会によって様々、環境条件によって変更があることも

サッカーの試合時間は90分、8人制であれば40分という認識をしている方が大半かと思います。もちろんこの認識で問題はないのですが、実は競技規則では、ユース、年長者、障がい者およびグラスルーツのサッカーでは、「前半と後半(同じ長さ)からなる試合時間(および、同じ長さの前半と後半から延長戦の時間)」と示されています。全体が何分というよりも、前後半からなる時間と示されているんですね。

そして、試合時間の長さは選手のコンディションや身体的負荷会場の条件(使用できる時間帯、あるいは照明がないので日没後は難しいなど)、自然環境(気温、風雨など)を考慮して決めています。大きな大会の場合は大会規定というものであらかじめ定められています。

例えば、中学生は前後半各30分間の合計60分間、高校生は前後半各40分間の合計80分間と体力に合わせて決められています。また、暑い夏に行われる全国高校総体インターハイでは前後半35分間の合計70分間で行われています。一方、冬の高校サッカー選手権、女子高校サッカー選手権では1回戦から準々決勝までは前後半40分間の合計80分間とし、準決勝、決勝は前後半45分間の合計90分間で行っています。

まれにですが、規定の90分間で行うと日没になってしまう場合などは両チームと審判が協議し、同意されると試合時間を変更することがあります。競技規則には「試合は、前半、後半共に45分間行われる。プレーの開始前に主審と両チームが合意した場合に限りプレー時間の長さを短縮することができ、それは競技規則に従ったものでなければならない。」と示されています。

このように、前後半が同じ長さという規則はあるものの、試合時間は様々な環境条件のもと柔軟な対応がされているということが分かります。

「ハーフタイム」のインターバル

ハーフタイムのインターバルは、前半終了(の笛)から後半開始キックオフ(の笛)までの時間を示し、11人制では15分間を超えないもの、8人制では10分間とされています。ただし、大会要項によって決定されるのですが、短い時は5分のインターバルの試合や、テレビ中継などが入る時は前半キックオフから1時間後というケースもあります。

インターバル終了の時間が近づくと、審判は選手が後半のキックオフの準備が整うように、2分前くらいに笛を吹き声をかけます。後半のキックオフ時間を選手だけではなく、運営スタッフや応援団を含めた全ての方で守ることも、スムーズな試合運営のためには大切です。

尚、延長戦のハーフタイムのインターバルは、短時間(1分間を超えない)の水分補給時間を取ることが認められるようになっています。また、8人制サッカーで3ピリオド制をとるときは、インターバルはありません。

空費された時間の追加「アディショナルタイム」

試合が終盤になる頃、皆さんは「今日の試合のアディショナルタイムはこれくらいかな?」と予想することがあると思います。長すぎても短かすぎても、疑問に思うときはありませんか?

サッカーの試合では、できるだけプレー時間を確保するように、前半、後半、それぞれにおいて空費されたすべての時間は「主審の判断」によって追加されています。どれだけの時間が空費されたかは、主審の判断、裁量に任されており、バスケットボールやアメリカンフットボールなどの「カウントダウン方式」とは異なるところです。

例として、主審は以下のようなことを空費された時間として判断しています。

  • 選手の交代
    但し、8人制サッカーの自由な交代では適用されません。
  • 負傷による治療、退出
    負傷が発生したときには、その程度を判断し、軽傷ならばボールがアウトオブプレーになるまでプレーを続けさせ、重傷ならばプレーを停止し、その選手をフィールドから退出させます。時にはチーム関係者がフィールドに入って治療を行うこともありますから、その時間は3分を超えることもあります。
  • 時間の浪費
    以前は「時間かせぎ」と示されていましたが、勝っているチームが行うものという誤解が生じるため、時間を無意味に使うことすべてを指しています。決して、細かく逐一カウントするわけではありません。
  • 懲戒罰の罰則(注意、警告、退場にかかった時間など)
  • 飲水タイムやクーリングブレイクなど、競技会規定で認められる医療上の理由による停止
  • VARのチェックやレビューに関わる遅延
  • プレーの再開を著しく遅らせる行為を含む、その他の理由
    ゴールキック、コーナーキック、スローイン、フリーキックなどプレーの再開を意図的に遅らせたり、得点した時に過剰に長く喜んだりした場合など

主審によって決定されたアディショナルタイムは、前半、後半の終了時(前後半45分間ならばランニングタイム45分になった時)に、第4の審判員によって表示されます。この時に発表される追加時間は、主審によって決定された最小限に追加される時間であって、その試合における正確な残り時間を示すものではありません。ですので、主審はそれを増やすことはできますが、減らすことはできません。

主審から第4の審判員にアディショナルタイムが伝えられてからの具体的な流れは、下記のようになっています。

  • 前半、後半終了予定1分前頃、主審は第4の審判員にアディショナルタイムを何分とるかを指や手で合図を行います。
  • 第4の審判員はハーフウェーラインとタッチラインの交点まで交代ボードを持って出て、ランニングタイムの45分頃に主審から示された数字を表示します。
  • 表示する時間は分単位とし、秒は切り捨てます。例えばアディショナルタイムが2分0秒~2分59秒の場合は「2」と表示します。
  • アディショナルタイムが0分台、すなわち1分未満のときは、主審から第4の審判員に対して、そのことを連絡するが、第4の審判員は0分の表示は行わないで席に戻ります。
  • アディショナルタイムを何分とるかは主審が判断していますが、前半に時間計測を間違えたとしても、後半の時間を延ばす、または短くして埋め合わせることはできません。
  • アディショナルタイムを考えるとき、秒は切り捨てで考えますので、主審が2分30秒あるなと思って2分で伝えたならば、試合の流れもありますが、2分を超えたら終了するように求められています。

アディショナルタイムとロスタイム

アディショナルタイムという言葉を聞いて、「あれ、ロスタイムじゃないの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。実は「ロスタイム」というのは和製英語で、「空費された時間の追加」は競技規則の英語版では「ALLOWANCE FOR TIME LOST」と示されています。

日本サッカー協会はフランスワールドカップでの時間表示を取り入れ、1998年には「ロスタイム表示」に関する通達を出していましたが、この和製英語を2011年には「アディショナルタイム」という表現に改めました。失われた大切な時間を後ろにくっつけるという「ロスタイム」から、ポジティブな「アディショナルタイム」という表現にしたとも言われています。アディショナルタイムには、「あと何分プレーができる」という気持ちをもってプレーしてもらいたいですね。

サッカーには公平な時間管理が求められる

 

いかがでしたでしょうか? 試合時間一つをとっても様々なケースがあり、意外と知らなかった部分もあるのではないかと思います。
サッカーは時間の管理も審判に任せられていますが、選手やチームスタッフ、運営の方と協力して、公平な時間管理が求められています。知識の一つとして、今回解説したことも覚えておいていただけるといいかと思います。

そして、サッカーの試合は時間によっていろいろ変化することも面白さの一つです。開始3秒で得点が生まれたり、アディショナルタイムの残り1秒で同点に追いついたりします。途中、雷や雨で中断することもあります。選手はゲームの流れを感じ、その時間の中で全力でプレーし、自分のチームの有利になるように呼び込んでもらいたいものです。

勝った、負けたという結果も大切ですが、どの時間帯でどのようなプレーをするのか、考えるのかもサッカーの楽しみ方だと思います。平等に与えられた時間をどのように使うかを考えることは、サッカー以外にもきっと役立つのではないでしょうか。

WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。