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アメリカ少年サッカー記21「絶対に外せないキックがそこにはある」

PKのキッカーに任命された息子

リーグ戦の試合中に、自分の座る応援席から遠い方のゴール前で、選手がゴチャっと入り乱れ、笛が鳴りました。どうも、相手選手がファウルをしたようで、こちらのチームのペナルティーキック(PK)のジャッジでした。倒されてムクッと起き上がったのは、息子のよう。そのまま何人かのチームメイトとボソッと話して、中央に置かれたボールの前にスッと立ったのでした。え?息子がPK蹴るの? 記憶によると息子がPKを蹴るのを何年も見ていません。立っている背中が何だか小さく見えて、本人以上に私の方がこのPKにビビってしまいました。

 

PKの上手いと下手

久しぶりに子供がPKを蹴るのを見て、改めて湧いた疑問は、「サッカーがうまければ、PKは入るのか?」ということ。チームでPKをよく蹴る選手は、サッカーが上手な子が多いのですが、果たしてPKの上手い下手は、サッカーの上手い下手で決まるものなのでしょうか?

このことを考える上では、PKの特性を理解する必要がありそうです。PKはキッカーとゴールキーパーの1対1の対決で、一見すると、ゴール前で選手とゴールキーパーが1対1で対峙する場面と似ています。ところが、後者の1対1は、他の選手が介入してくる可能性があるため瞬時の判断が求められますが、PKは完全な1対1の勝負です。蹴る選手は、フィールドやベンチにいる選手、コーチや観客からの全注目を浴びることになり、試合が重要になればなるほど、そのプレッシャーは半端ありません。

大人のプロの試合であれば、PKは心理戦であると言います。キッカーは、蹴る方向を決めるのでその場を支配しているように見えますが、どこに蹴る方が成功できそうか、蹴るタイミングも謀りますし、ゴールキーパー自身もどちら側に蹴らせたい、など心理的な駆け引きがあります。この心理戦には小道具も有効です。W杯で初のPK戦が行われた82年のスペイン大会では、コーチ陣が西ドイツのゴールキーパーに小さなメモを渡しました。そこには、選手の特徴などが一言ずつ書いてあったのですが、ゴールキーパーが毎度そのメモを見て確認する行為はキッカーには恐怖でしかなく、結局そのPKを制し、西ドイツは決勝へと駒を進めました。

同じように、子供の試合のPKも心理戦なのでしょうか? 子供の場合は、成長段階にバラツキがあるため、少し勝手が違うようです。例えば、中学生年代では、キック力がまだ弱い子がいる一方で、フィールドやPKの距離は、大人と同じサイズなので、手が使え速く反応できるキーパーの方が優位だったりもするようです。身体の成長段階の他に、個人差の大きい精神的な成長段階も、PKの成功率に影響するようです。

before game

 

PKの場面で親ができることとは?

このように、子供の試合におけるPKの成功率には、心理戦や成長速度の複合的な要素が絡み合うので、親としては、PKの結果を気にする必要はないことが分かります。むしろ、キッカーとしてPKの場面に立てれば、子供は色んなことが学べます。まずは、PKは、感情をコントロールする良い機会になります。こんなプレッシャー満載の場面なんて、日常生活で滅多にお目にかかれません。そして、そもそも、PKが蹴れること自体が貴重な機会なわけです。息子は、公式戦でのPKは、避けていた節があり、3年間も機会がありませんでした。PKを蹴るには、PKのジャッジが出た時に、フィールドでプレーしていなければならないですし、PKを誘発するプレーをした、とか、予めPKを蹴る選手をチームで決めるなら、そこで選ばれる必要があります。PKを蹴ることは、親として、大いに誇るべき場面なのです。もし、PKに失敗すれば、打ったコースやミスキック、精神的な焦りなど、本人はそれらの行動に後悔し、次も同じ失敗をしないか、恐怖が出ることもあるかもしれません。それでも、長い成長過程において、こういった失敗はした方が良く、更なる成長の糧になるはずです。

親として、子供の失敗は、本人の悲しみに感情移入しますし、本人以上にショックを受ける人もいるかもしれません。それでも、W杯の決勝戦で、優勝をかけたPK戦を失敗した悲劇の天才プレーヤー、ロベルト・バッジョが言った、「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持ったものだけだ」、という言葉があります。子供のチャレンジする勇気に大いに誇り、結果に関わらずその挑戦に応援を続けていきたいものです。

squirrels

 

WRITER PROFILE

近本 めぐみ
近本めぐみ

日米で色々な大学、研究所を渡り歩く理系研究者。現在はアメリカ在住、在米歴と息子のサッカー歴が8年のサカママ。サカママWEBでのコラムを通して、アメリカならではのサッカー育成の面白いところ、興味深いところを発信していきます。

★外部ブログ「アメリカ発少年サッカーの育成事情」でも執筆中

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