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女子サッカー選手の体調管理について、知っておくべきこととは?

女子サッカー選手の体調管理について、知っておくべきこととは?

女子サッカー選手の身体の悩み」をテーマにした、順天堂大学医学部附属順天堂医院・浦安病院の女性アスリート外来所属の上木先生によるコラム。第2回は「女子サッカー選手の体調管理」にまつわるお話をお届けします。女子サッカー選手を持つ親御さんは、きっとどこかで役に立つと思います。

第1回のコラムはこちら

女子選手が陥りがちなFATとは?

コンディションを整える上で必要なのは、運動、栄養、休養であることは前回説明しました。しかしながら、様々な理由からこれらのバランスが崩れ、しかもなかなか改善できずに、継続してしまうことがあります。
特に中学校や高校、大学に進学し、練習環境や生活環境が変わって、運動量が増えたり、睡眠時間が少なくなったりするタイミングは要注意です。 このような時期に注意しておかないと、「FAT」と言われている女子アスリートが陥りやすい障害に繋がるからです。

FAT

FATは、「利用できるエネルギー不足」「視床下部性無月経」「骨粗鬆症」の症状を示し、上記の図のように作用しています。

「視床下部性無月経」と「骨粗鬆症」のいずれも、「利用できるエネルギー不足」が起因することが多いと言えます。それは、食事量が運動量と見合わないこと、つまり、運動量や通学などの活動量が増えたにもかかわらず食事量が増えていない、とうことです。その状況が長期にわたって続くと10代で十分な骨密度を獲得できなくなり、高校生で70代と同じくらいの骨密度になってしまうこともあります。

骨は強くしようと努力してできるものではありません。タイムリミットがあります。それが成長期である10代なのです。この時期をエネルギー不足で過ごさないことが、骨を強くし、将来の健康にも繋がる大切なポイントになるのです。

もし10代で疲労骨折と診断されてしまった場合は、食事が不足していることをまず疑ってみてください。
なお、FATに当てはまるかどうかは、下記のスクリーニングテストでチェックすることができます。

★女性研究センターFATスクリーニングシートのダウンロードはこちら
https://www.juntendo.ac.jp/athletes/fatscreening/download.html

エネルギー不足は省エネな身体に

食事量が足りなくてエネルギー不足になったら、身体はどうなると思いますか?
生きるためにはどこからかエネルギーを調達しなければなりませんよね。身体がエネルギー不足になった場合、体脂肪や筋肉を壊してエネルギー源とするのです。体脂肪がなくなるのはなんだかうれしい気もしますが、体脂肪は月経にも関わるため、適度な体脂肪が必要です。また、アスリートが日々トレーニングで培ってきた筋肉も、エネルギー不足により減ってしまうのです。

そのため、このような状態で練習をしたり試合に出たりするのは、アスリートとしてのパフォーマンスが落ちるのはお分かりいただけますね。さらに、食事量が足りない場合は、身体の機能を低下させ、少ないエネルギーで生きていけるような省エネな身体へと変わっていきます。「何を食べても太りやすい」といった選手は、もしかしたらこの状態かもしれません。ですので、運動量に合わせた食事量を確保することは、ベストコンディションを維持するためにも大切なのです。

月経との付き合い方

 

FATに陥っている選手の中には、高校生になっても月経がなかったり、数か月おきに月経がくる不順の選手がいます。もし、15歳をすぎても初経が来なければ、疾患などによる無月経の可能性があるため、婦人科を受診しましょう。また、初経を迎えたとしても、3ヶ月以上無月経が続く場合も、早目に婦人科を受診することをお勧めします。

成長スパートで身長が伸び、体重が増え、定期的に月経が来ることが、女子選手が健康で競技ができるバロメーターになります。
実は月経が来るということは、体脂肪が大きく関係しています。体脂肪が15~17%位になると月経異常を起こす人もいますので、しっかりと練習が積めて身体を動かすことができる体脂肪をキープすることが、よいコンディション維持には大切なポイントになります。

選手と話すと「減量することで身体が軽くなり動きやすくなるはず」と思い込んでいるように感じます。声を大にして伝えますが、身体が動きやすくベストパフォーマンスができることを指標とし、競技力を発揮できる体格を整えていくことが大事なのです。

なお、女子選手は月経に関する相談は、家族である母親や姉にすることが多いようです。そのため、親御さんは、適切な情報提供ができるように準備しておくといいでしょう。生理用品の種類や使い方など、知識が少ない女子アスリートも多いのが現実です。
また、月経に関する体調不良がある場合は、一度婦人科の先生に相談してみましょう。きっといい提案がいただけるはずです。決して、「自分(母親)も生理不順だったから、大丈夫」「自分(母親)も初経が遅かったから遺伝かも」などと、親御さんは甘く見ないでくださいね。

成長期をしっかりと迎え、骨密度が高まり、月経が発来して安定していることが、お子さんである女子選手の将来の健康につながっていくのです。