師弟対談 杉本龍勇先生×岡崎慎司選手「一流選手を育てる体幹トレーニング」
杉本龍勇先生は、清水エスパルスのフィジカルアドバイザー時代の教え子である岡崎慎司選手とパーソナルトレーナー契約を結び、岡崎選手の活躍を支えています。岡崎選手と、現在は法政大学の教授である杉本先生の師弟対談が実現しました。
今までのトレーニングとは違う理論的な考え方に衝撃を受けた
―まず、お二人の出会いについて教えてください。
杉本先生(以下、杉本)「僕たちはいわゆる“同期入社”なので。初めて彼と会ったのは清水エスパルスの入団会見です」
―岡崎選手は杉本さんの指導ではどのような印象を受けたのでしょうか?
岡崎選手(以下、岡崎)「トレーニングをどういう意図でやるのかを聞いたのですが、そのインパクトがすごかったです。今まで考えたことがないような話を説明されたので。それまでの僕は、ただガムシャラに走るだけだったんです。どのように走ればいいのか。そこに理論があって、練習を積めば速くなるというわけです。それがすごく衝撃でしたね。だから、龍勇さんの話をさらに聞きたくなって。練習が終わった後に、『どうすれば速く走れるようになるんですか?』と聞きに行ったのを覚えていますね」
―そのとき、杉本さんは何と答えたのですか?
杉本「練習をすれば、速くなるよという話はしました。走るというのは一つの技術ですし、まして、サッカー選手は走ることについて考えずにプロになるのが当たり前です。だから、『伸びしろ』は十分にあるとわかっていました」
―実際に話を聞いてみて、どこに感銘を受けたのですか?
岡崎「まず、教えられたのが走りのフォームではなかったということが魅力的でした。速く走るのに必要なのはフォームではなく、どこの筋肉を意識すればいいのかということを教えられたのが、自分にとってはすごく大きかったです。その上で、やるように言われた練習がすごくシンプルなものだったんです。最初の1、2年間はずっと、トランポリンで跳ねる練習をしていました」
―トランポリンを使った練習の意図について教えていただけますか?
杉本「基本的に、上手く走るためには身体をバネのようにしないといけません。そして、弾む力を進行方向に方向転換するというのが、走るということなんです。でも、足の遅い人というのは、跳ねるという感覚がないんですよ。岡崎にとっては、タイミングをあわせて跳ねる感覚を身につけることがすごく大事だ ったのです」
「体幹=止める」だけではなくどこで身体を支えるのかを感じる
―そもそも、当時の岡崎選手は「体幹」という言葉については知っていたのですか?
岡崎「知らなかったですね。高校のころは『体幹』とは言わずに、『腹筋』とか『背筋』という風に呼んでいましたね」
―「体幹」という言葉の名称についてはよく知られているのですが、言葉の意味について解説していただけますか?
杉本「『体幹』って、ドイツから派生した概念なので。僕がドイツで現役の選手だったころに教わっていた理学療法士が考え出したようなトレーニングなんです。だから、現在日本で言われている『体幹』のオリジン(起源)のようなところを、自分は今までトレーニングしてきました。
どうしても、『体幹=止める』というイメージがすごく強くて、体幹トレーニングは、同じフォームで頑張ると考えている人が多いと思います。体幹というと、同じフォームでやることがクローズアップされがちなのですが、実際はそれだけではありません。
サッカーの試合では常に動いているわけですし、相手チームの選手に当たったときに、負けないでバランスを保とうとする場合、一瞬止まったとしても止まり続けることはないですよね?だから、体幹を使って動きを止めるということよりは、どこで身体を支えるのかが大事になってきます。僕が今まで選手たちに言ってきたのは、身体のどの部位を意識するとどれくらいの力が入るのかを感じながら、体幹トレーニングをしなさいということでした」
正しい姿勢で体幹を鍛えることで世界に通用する選手を目指す
―岡崎選手は高校のときにも足が速くなるために自分なりに工夫をしていたということですが、もしも杉本先生と中学の時に出会っていたらと思うことはありませんか?
岡崎 「龍勇さんと会うのは早ければ早いほど良いと思いますね。だから、子どもたちには龍勇さんの考えを知ってもらいたいなという思いが自分の中にはあります。
何故なら、例えば『腹筋を1日に決められた回数をこなす』という練習ではなくて、日常生活で取り組むべきことを教えてくれるからです。龍勇さんのトレーニングに僕が魅力を感じた理由は他にもあって、すべてがシンプルなところです。龍勇さんがすごく長い間考えてきて、そこで出来たトレーニングは、シンプルでわかりやすいんです。
また、自分がスッと受け入れられるような言葉をいつもかけてくれます。例えば、味方からのボールをゴールに背に向けて受けようとしたときに、前かがみのような状態になってしまい、上手くいかないことがあったんです。それを解決してくれたのはテクニックでも筋肉の問題でもなく、前かがみになっていた姿勢を良くすることだと指摘してくれたのです。『どんなときも顔をあげろ』と。それが重要なことだったのかなと思いますね」
―「姿勢」というのは杉本さんの練習において大事な要素なのでしょうか?
杉本「大切です。姿勢を保つために体幹を使うわけですから。だから、体幹のトレーニングをやっても姿勢が悪いままで取り組んでいる人にはまったく意味がありません。良い姿勢でいるときが身体のバランスが良く、姿勢を良くするために体幹トレーニングがあるのです。
例えば、サッカー選手としては決して大きくはない岡崎が、背の大きな選手とぶつかっても負けないようにしたいと思ったら、筋力トレーニングをやればという発想になりやすいと思いますが、そうではない。
当たっても負けないように、世界のトップレベルの選手とぶつかっても、倒されないようにするためには、あるいはそこで相手を倒していけるようになるためには、良い姿勢でいることが大切なのです。 そうすれば、岡崎が今持っている力でも十分にドイツ人に勝てるパフォーマンスが出来るのです」
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※この記事は過去に読者のみなさまから反響の多かった記事を厳選し再録したものです。(2014年4月17日掲載)