指導者の言霊「中村元彦 神奈川県サッカー協会 技術担当専任者」
目標が明確になることで、赤点だった選手も自ら勉強するように
自分で判断して実行できるのがサッカーです。そのため、プレーさせるのではなく、判断材料を持って自分で最適なプレーを実行したり、失敗しても判断して実行したことを分析できる選手になれるように指導しています。また、目標を持ち、それにむかって勉強、食事、睡眠なども含めて主体的にプロセスを踏んでいけるようにならないと、良い選手にはなれないですし、それができると、結果、常に目標を持っている、豊かな人生が歩める人に育っていくのだと思います。
厚木北高等学校のサッカー部を指導してしいた時、当初、試験前は必ず2時間ほど、部員全員で教室で勉強することが決まっていました。でも、勉強は各自の時間でコーディネイトすればいいので、それをやめて選手たちに自分で勉強時間を作るように任せたんです。最初は自由な時間が増えて遊んでしまい赤点を取っていた選手もいましたが、「目標から逆算すれば勉強するのが当たり前」と、徐々に理解を深めることで、自ら進んで勉強する選手が増えていきました。それが浸透し、選手たちの多くは成績優良者になりましたね。
私はいつでも、どこでも、選手たちがサッカーに夢中になれる環境を提供したいと思っています。夢中になれる働きかけができたら、選手たちは目の色を変えて練習し、練習の質も変わってくるものです。また、夢中になって楽しめる瞬間は、指導者の言葉が雑音ではなく、励ましや自分が本当に上手くなるためのアドバイスとして聞けるようになるのです。
ジュニア年代の選手たちに対しても同様に、サッカーの楽しさを体感させるためのアドバイスや環境づくり、何よりも夢中にさせてあげることが大事だと思います。子どもたちは夢中になると、周りが見えず正面衝突してしまったり、仲間のミスに文句を言ってしまうこともあるでしょう。そうした時には、正しくプレーするための技術を教え、仲間がいてサッカーができていること、また、上手い子はそうでない子を引っ張ってあげることの大切さなどまで伝えてあげることが重要です。
県の指導者の方に一番伝えているのは「学び続ける姿勢を持ち続けることが大事」だということ。練習が上手くいかなかった時も「トレーニングメニューが悪かったのかもしれない」など、自分に目を向ければ、その指導者は伸びていきますし、そうした考えを持って指導していれば、選手たちと信頼関係もできていくものです。また、ノーコーチングも、言い過ぎも駄目だとよく口にするのですが、これは親御さんも同様です。見守ることとしつけることのバランスが重要なのです。子どもがSOSを出した時、それに気づいた時は、愛情を持って真摯に関わることです。子どもがサッカーを辞めたいと言ったなら、何が嫌なのか本音を聞きだし、もうひと頑張りしたほうがいいと思えばその理由や、自身の体験談などを踏まえて、思い切ってアドバイスをしてみてください。
サッカーで良い経験を積めば、これからの貴重な人材に
学校に勤めていて感じていたのは、家の外で夢中になれることを経験していない子が多いということです。ですので、子どもたちがサッカーに夢中になってくれていることは、幸せなことだと思います。子どもたちはサッカーを通して、勝ったり上手くなる喜びを感じたり、友達やライバルができるのはもちろん、時に苦しい練習、負けた悔しさや辛いこと、合宿で親元から離れる寂しさなど、苦しさを感じることもあるかもしれません。でも、夢中になってサッカーに取り組んでいれば、知らず知らずのうちに苦しさから逃げるのではなく、前向きに乗り越えていける力が付いていくので、結果、器の大きい、たくましい人に育っていくのです。だからこそ、サッカーで良い経験を積んできた人が、これからの世の中にとって、貴重な人材になると思っています。私自身、今もシニアでプレーしていますし、サッカーは一生やっていても、飽きることなく楽しめるスポーツです。子どもたちにもサッカーを追求し続けてほしいと思います。