指導者の言霊「日比 威 帝京高校サッカー部監督」
トレーニング時間は基本90分。時間に余裕があることで自主性が育つ
私が指導する上で大事にしているのは、テクニックとスピードです。ボールを細かくつなぎキープし、いつでもワンタッチ、ツータッチで相手の背後を取り、崩していく。そしてチャンスがあれば縦にも狙っていく、そんなサッカーを目指しています。
丁寧にボールをつなぐ分、「今の帝京のサッカーはつまらない」と言う声もあります。でも選手たちは非常にテクニックに優れ、フィジカルに頼らない卓越した技術を持っています。ですので、チームとしてのベースは崩さず、同じ目標を持つスタッフたちと地道に積み上げてきていることが、昨年のインターハイ準優勝などの結果につながっているんだと思います。
監督に就任した際に改善したことの一つが、トレーニング時間の短縮です。基本的に練習時間は90分と決め、この7年間、それ以上練習をしたことはありません。過度な練習は身体の負担や疲労につながりますし、時間に余裕がある分、自分が上手くなるために何をすべきかを考えるようになり、アイデアも生まれてくると思うのです。もっと練習したいと思っているところで「ここで終わり」と言われた方が自ら進んでサッカーをやりますよね。限られた練習時間が、帝京高校の理念であり、今、サッカー部で一番大切にしている「自主性」を育むことにもつながると思っています。
選手を選考する上で重要視しているのは、スピードやパワーよりも「止める・蹴る」が正確にできるということです。入部した選手たちに対しては、たとえ中学生の時に試合に出られなかった子でも、「帝京で預からせてもらう3年間でしっかり伸ばしていく」という思いで指導しています。
今年から「社会で活躍する人間を育成する」一環として、私を含め高校のスタッフが参加し、帝京中学のサッカー部の子も同じグラウンドで練習しています。受験をして中学に入ってきた子の中にはサッカー初心者も当然います。彼らにもサッカーを好きになってもらい、帝京高校のサッカー部の選手といずれは一緒にプレーするイメージも持てるような環境づくりができればと思っています。
他の子と比較するのではなく、子どもの成長過程を見守ってほしい
小学生は大人が考えられないような発想やイメージを持っています。それを大人の物差しでブレーキをかけてしまうのは本当にもったいないことです。子ども特有の思い切りの良さを引き出していけるような練習方法を指導者は考えなくてはいけないと思います。「ダメ」という言葉を使わずに、「面白いことやるね」と、制限をかけずにどんどんやらせること。諦めさせずにいろんな発想を持たせてあげることこそ、子どもが伸びる要素なのではないかと思います。
サッカーの原点であるゴールを決める喜び、ドリブルで相手を抜いたり、パスを通すといった成功体験こそがサッカーにのめり込む本質だと思うので、そのために何をすべきかを自分で考えさせることが大事です。全部を教えていたら自ら工夫する努力を怠ってしまうので、子どもに自主性を持たせることを意識して指導する必要もあるのではないでしょうか。また、小学生の集中力は60分もないと言われているので、楽しくやれる練習法を考えることも必要だと思います。
お母さんたちは、集団の中にいる自分の子どもに対してどうしても比較しがちだと思います。「自分の子はなんであの子と違うんだろう?」「なんであの子ができて、うちの子はできないのだろう」と。親が重視すべきはそこじゃないと思うんです。みんな個性があり、身体のつくりも、成長もそれぞれ違うからです。一番重要なのは自分の子どもの成長を、ずっと見届けてあげること。
つい言いたいことがあっても、ぐっと堪えて見守ることが大事です。お母さんのしつけから言いなりになっている子は、残念ながら聞く力は乏しい気がしています。預けているクラブチームやスクールコーチ、学校の先生などいろんなアプローチによっても子どもは成長するものです。自分の子どもの成長過程を見守り、無言の愛情を与えることが親の役目だと思います。