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アメリカ少年サッカー記12 選抜への挑戦

アメリカにも、日本のトレセンのような地域の育成システムがあります。オリンピック育成プログラム(ODP)と呼ばれるこの活動は、州内の選手を選抜し、州の代表チームを作り、州対抗選手権に参加します。細かい活動内容は州によって異なりますが、今回は、私達が住むユタ州の代表チームの様子についてご紹介します。

長い時間をかけて選抜するシステム

ユタ州のODPは、選手の選抜を主に三段階に分けて、3~4ヶ月かけて行います。最初の選抜は、夏休み期間中に、1日3時間の合計3日間にわたるトライアウトです。このトライアウトは、所属チームに関係なく、州内の子供なら誰でもウェブサイトから申し込むことができます。参加費は60ドル(6,000円)ほどで、背中や腕にナンバーの書かれたTシャツが配られます。今シーズンのトライアウトには、息子の学年で120名ほど参加者が集まりました。トライアウトでは、ウォーミングアップを行なった後、参加者をランダムに分けたミニゲームを行い、選手個人の基礎的な技術力を見ている印象です。第1段階の選抜として、この参加者から40人ほど絞りこみ、ODPの練習が組まれます。

ODPの練習は、秋のリーグ戦が終了し、多くのクラブチームがオフシーズンとなる11月から2ヶ月間行われます。おおよそ週2日のペースでODPのカリキュラムに沿った練習です。また、一学年上のクラブチームと練習試合も行い、選手のパフォーマンスやコンビネーションがチェックされます。第2段階の選抜は、この10回近い練習から、選手を22名に絞ります。そして、2泊3日の合宿を行って、最終登録選手の18名を選抜します。この合宿で残念ながら落選した4名は、登録選手の中で怪我など欠員が出た時に備え、補欠選手として控えることになります。

このようにユタ州のODPでは、選手の選考過程に時間をかけ、子供のパフォーマンスをより正確に見積もる努力がなされています。もし、ODPのトライアウトや練習の合間に、クラブチームの練習が重なると、子供のパフォーマンスは大きく変わってしまいます。また、子供によっては、たまたまトライアウトの日だけ調子が良かった(悪かった)、ということもあります。そこで、ODPのコーチ達は、選考過程に時間をかけることで、こういった偶然を取り除き、ある程度長い目で選手を評価しています。また、ODPでは、選手権に向けて短期間でチームを作るので、子供のポジションの適性や多様性、選手間のケミストリーも最終判断に組み込まれているようです。従って、選考結果に一喜一憂するよりも、子供の成長を長い目で見守る方が大切かもしれません。

いよいよ選手権へ

アメリカは、西海岸から東海岸までの移動が飛行機で5時間もかかるほど国土が広大なので、まず国内を4地域に分けて選手権を行います。ユタ州は、カリフォルニアやコロラドなど14州が集まる西部選手権に参加します。毎年、西部選手権は、アリゾナ州フェニックスで年始に行われます。

ユタ州からこの大会へは、男女両方のカテゴリーでU13からU17までの5学年、合計10チームが参加します。大会前日の早朝に、全学年の選手がソルトレイクシティの駐車場に集合して、そこから5台のリムジンバスに分乗して大会会場まで向かいます。片道で12時間以上かかる長距離移動です。滞在先も、全学年で一緒のホテルに宿泊します。部屋は、1室に同学年の選手が4人ずつ割り振られます。いくつか決まり事があり、異性の部屋に遊びに行ったら即刻帰宅させるルールや、学校の成績表の提出が義務づけられ、成績が悪いと大会に出場できない規程もあります。

選手権は合計4日間あり、最初の2日間は予選リーグの3試合が組まれます。この予選リーグの4チームの中から1位になったチームが3日目の準決勝に進み、さらにその勝者同士で、4日目に決勝戦が行われます。予選で敗退したチームには、3日目にコンソレーションと呼ばれる敗者戦があります。例えば、A組2位とB組2位の対戦といった、違う組の同順位同士の試合です。こうやって、どの州のチームも最低4試合が保証されるよう大会は運営されています。また、優勝チームは、4地区の優勝者が集う全国選手権へとコマを進めます。

今年の選手権で、息子の学年は準決勝までいきました。準決勝で「俺らは仲間だ!」と檄を飛ばしたチームメイトは、試合が終わって「今から俺らは敵同士」とおどけてみせました。選手権が終わると今シーズンのODPも終了し、今度は所属チームの活動が再開と慌ただしいです。それでも、ODPの活動を通して、色んな選手と一緒にサッカーができたのは、楽しい経験になったようです。

★「アメリカ発 少年サッカーの育成事情」でも執筆中

WRITER PROFILE

近本 めぐみ
近本めぐみ

日米で色々な大学、研究所を渡り歩く理系研究者。現在はアメリカ在住、在米歴と息子のサッカー歴が8年のサカママ。サカママWEBでのコラムを通して、アメリカならではのサッカー育成の面白いところ、興味深いところを発信していきます。

★外部ブログ「アメリカ発少年サッカーの育成事情」でも執筆中