指導者の言霊「山口隆文 JFA技術委員会 副委員長」
試合は手段であって、目的ではない。大事なのは、子どもたちを伸ばすこと
ジュニアの指導者は、子どもたちが「サッカーをやりたい、サッカーが楽しい」という気持ちを絶対に失わせないことが一番重要です。常に子どもたちのプレーを見守り、その中で、いいプレーを見抜いて、ポジティブな言葉で褒めてあげること。そうすれば、子どもは当然楽しくなり、また他の子も褒められたいと思うようになるので、チームの活性化にもつながるのです。 選手も指導者も、試合で“勝ち”を求めるのは当たり前のことで、大事にしなければいけないと思います。けれど、勝利至上主義になってしまうと、指導者の知恵で勝たせてしまい、本来、子どもが試合を通して学ぶべきことを阻害してしまうことにもなるでしょう。たとえ指導者が勝たせる術を持っていたとしても、それを押し付けるのではなく、子どもたちをいいプレーヤーにするために、働きかけなければいけないのです。
また、勝利を目指すと、どうしてもメンバーが固定になってしまいがちです。でも、試合に出ることができないと、選手のモチベーションを下げ、伸び率を下げる要因にもなります。子どもたちはみんな試合に出たいと思っている。だから、その気持ちを大切にしてあげてほしいのです。公式戦だけを目玉にするのではなく、練習試合や、普段の練習でも試合はできるので、もっともっと有効活用することです。年齢が下がれば下がるほど、勝利よりも、みんなが試合を楽しめるように、バランスを考えることが大事になってきます。ただし、試合は手段であって、目的ではありません。目的は子どもたちを伸ばし、喜びを与えること。手段と目的をはき違えてはいけないのです。
今、結果が出ていなくても、各年代で必要なことを身に着けていればいい
私がFC東京のジュニアユースの指導をしていたとき、ずっとレギュラーでなかった選手がプロになったり、その逆もありました。選手は、どこで花開くかはわからないのです。私が指導した中村憲剛だって、伸びたのは高校時代です。今、試合になかなか出ることができなくても、各年代で必要なことを、ちゃんと身に着けさえしておけばいいのです。それを指導者は、保護者の方に説明する責任があると思います。そのためには、いろんな実例を知ることも大切です。そして、“今がいい”からではなく、“将来”が大事だということを、実例を踏まえながら、保護者に説いてあげればいいのではないでしょうか。
私は、スポーツ、サッカーそのものに教育的価値があると思っています。なぜなら、サッカーを追求すれば、人間力を高めることにつながっていくからです。だからこそ、試合の後の言動など、指導者や保護者の方の働きかけが重要になってくるのです。
補欠をゼロにし、能力に合った環境で試合ができることを目指して
日本サッカー協会では、リーグ戦の“補欠ゼロ”を目指しています。選手として登録した以上、その子には試合に出る権利があり、それを守ってあげなければいけないからです。
人数が多いチームは2チームに分けるなどして、リーグ戦にすれば、試合数は自ずと増えるものです。また、そのリーグ戦は、同じレベルでカテゴライズされた中で試合をするのが理想だと考えています。というのも、もし0対10で試合に負けてしまうと、負けたチームはもちろん、相手チームだってそれほど嬉しくはないでしょう。だからこそ、自分の能力にあった試合ができる環境を与えてあげなければいけないし、それが本来の平等だと思っています。とはいえ、例えば東京にはリーグ戦参加チームは800チーム以上あり、リーグ戦をやるとなると、グラウンドや審判などの問題もあります。まだ道半ばですが、粘り強くやっていかなければいけないと思っています。
ベルギーでは3歳の子どもにサッカーを教えるのにも資格が必要なのをご存知でしょうか?子どもを教えるということは、大切な未来に接するということです。だからこそ、ボランティアコーチにも、D級コーチの資格を取ることで、サッカーについて学び、知識を得てほしいと思っています。