指導者の言霊「谷 純一 神戸弘陵学園高等学校サッカー部監督」
悔しさは人を成長させる原動力。情熱を引き出してあげるのが役目
神戸弘陵学園高校サッカー部のスローガンは「和衷協同(わちゅうきょうどう)」。人とのつながり、コミュニケーションを大切にチーム一丸、“心を一つにして物事に当たる”という意味があります。監督に就任した当初に江坂任(現ファジアーノ岡山)世代の選手たちが掲げた言葉で、今も大事にしています。
3学年で100人以上の部員が在籍する現在、全員がトップチームの試合に出られるわけではありませんが、県リーグや練習試合で、出られない選手も一所懸命に取り組んでくれています。悔しい気持ちはあると思いますが、自分自身の成長のためにポジティブなエネルギーに変えることはとても大切です。その経験が人間としての成長につながるということを子どもたちに伝えています。そしてどのカテゴリーでも、神戸弘陵の選手としてピッチに立つ以上、チームの代表として全力でプレーしてくれています。
ピッチの上では、とくに攻撃で個人の技術や創造力、組織でのコンビネーションを重視するのが神戸弘陵のスタイルですが、近年は全国の強豪と対戦を重ねる中で、守備意識を高めることにも取り組んできました。そこで重要性を再認識したのが、感情を表に出すことです。公式戦の大舞台で腰が引けたり、ミスを恐れたりすることなく、前線の選手なら「俺が決めて勝つ」、守備の選手なら「俺が身体を張って絶対に失点させない」というように、闘志を前面に出して戦ってほしいのです。
今の高校生は、小学校高学年から中学生にかけてコロナ禍を経験し、他人と直接かかわる機会が少ない時期を過ごしてきたせいか、以前に比べて感情を表に出さない子が多いように感じます。サッカーでは冷静にプレーすることも必要ですが、やはり熱量はすごく大事。ここぞという勝負どころで必ず力になります。子どもたちの内にある情熱を引き出してあげることは、我々の役目だと思っています。
子どもたちの可能性を広げるカギは食べること、休むこと、見守ること
指導者として常に心がけてきた「全力」という言葉も、それにつながります。子どもたちには、サッカーを全力で取り組むことによって、心と身体を鍛え、自らの可能性を伸ばしてほしい。試合でひとつ良いプレーができたことで、自信をつけてメキメキ伸びた選手もたくさん見てきました。“できなかったことができた”という成功体験を多く選手たちに与えてあげること。そのためには、チームの指導者たちが全力で選手たちに向き合い、毎日の練習から彼らの小さな成功、成長の兆しを見逃すことなく、声をかけ続けてあげることが大切だと考えています。
子どもたちの可能性を広げるという点で、選手たちによく話をするのは食事に関してです。卒業後にプロや大学で活躍している選手は、高校時代から一定以上のフィジカル能力を備えているもの。基礎的な体力や筋力はもちろん、サッカーに必要な強さ、速さなどを向上させるためには、トレーニングと同じくらい日々の食事も重要だということです。
また私自身、かつて神戸弘陵でプレーしていた息子が3年生の頃、腰に重傷を負ったことから、以前よりケガについても深く考えるようになりました。選手がケガをしたとき、本人がどれだけつらいか、母親がどれだけ心配するかを想像以上に知ることができました。選手のケガをできる限り防ぐために、練習メニューを工夫したり、練習前後のウォームアップとクールダウン、そして休むことの大切さを子どもたちに伝えています。
食事や休養で身体をケアしてあげることを含め、子どもが子どもらしく成長できるための環境をつくってあげるのが大人の務めだと思います。保護者の方々はときには厳しい接し方も必要ですが、過度な期待から練習をさせすぎたり、他人と比べたりしてプレッシャーをかけないように。何より大事なのは、子ども自身が心の底からサッカーを楽しんでプレーすることです。それが成長への近道だと思うので、子どもを信じて見守ってあげてほしいですね。