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自分で判断し行動できる選手を育成する「岡田メソッド」を知っていますか?

自律、主体性、実行力――、サッカーで求められる能力は、普段の生活においても必要です。サッカーというスポーツを通じて『自律した選手』の育成に真剣に向き合い、4年以上の歳月をかけて生み出されたサッカー指導理論が「岡田メソッド」です。今やJリーグクラブをはじめ、数多くのチームで導入されているメソッドについて、元サッカー日本代表監督・岡田武史さんに聞きました。

写真=Getty Images

日本には自分で判断して行動できる選手が少ない?

――なぜ「岡田メソッド」をつくろうと思ったのでしょうか?

「日本ではゆとり教育に代表されるように『自分でやりたいことを見つけなさい』という教育がなされてきました。たしかにゴルフの松山英樹選手、テニスの錦織圭選手など、それを見つけて世界で大活躍した選手がいます。一方で多くの人がやりたいことを見つけられず、目標がない人が増えたと僕は感じています。

自由を与えることで、子どもは伸び伸びと成長する――、そう考えて近年の日本サッカーは選手を育成してきました。でもピッチ上で自ら判断して行動できる選手は育っていないように感じています。それを痛感したのが2014年のブラジルW杯でした。

初戦(vsコートジボワール)1-2で逆転されたら、日本は総崩れをしてしまい、誰も試合中に立て直すことができなかったんです。これにはすごくショックを受けました。『このままでは日本サッカーは強くならない。自ら判断できる自律した選手を育てないといけない』という思いが岡田メソッドをつくり出す背景にありました」

――メソッドを作成するにあたり、何かきっかけはあったのでしょうか?

「そのW杯のあとにFCバルセロナのメソッド部長だったジョアン・ビラ(バルセロナの育成カテゴリーからトップまでのフットボールスタイルを確立し、シャビ、プジョルといった名選手を輩出)と知り合い、『スペインにはプレーモデルというサッカーの型がある』と言われたんです。あれだけ自由な発想でプレーするスペインサッカーに、型があるのかとビックリしました」

――その「型」とはどのようなものなのでしょうか?

「『選手を型にはめる』ようなものではなく、そこには『原則』があって16歳までに教え込み、その後は選手の判断に任せるというものでした。僕らは『自由』だけを真似てきて本質が見えてなかった。もしその型である原則を選手に浸透させることができれば、日本人も主体的にプレーする選手ができるかもしれない。その瞬間にビビッときて、日本サッカーの育成に足りないのはこれだと思いました。

最初はバルセロのメソッドを参考につくり上げていきました。しかし、サッカーというものはその国の文化や歴史やスタイルというバックボーンがあって成り立ちます。このままではスペインの真似ごとをした恰好だけのものになり、日本サッカーの育成につながるものはできないと気づきました。それで一旦白紙に戻し作り直しをしたんです。それでも腑に落ちないのでさらに2回くらい白紙にしたかな(笑)。4年もかけて、ようやく今ある形になってきたわけです。

『自分で判断できる』選手を育成しないと、日本はW杯のベスト16を越えられないと思っています。だから岡田メソッドというのは、日本人として自律した選手を育成するためのチャレンジをしているところなんですよ」

 

原則を知ることで選手が自ら答えを見つけ出す

――子どもたちが知っておくべき原則とは?

「今まで僕たちは状況で選手に説明していたんですよ。例えばボールを持った選手へのサポートの原則であれば、状況によって『今の状況は寄せろ!』と伝えていました。選手からしたら『今のって何だ?』となりますよね。それこそ原則が一万通りくらいあるように感じてしまうでしょう。それを岡田メソッドでは『目の前の状況に対して、判断基準となる考え方(原則)』を体系化して選手に伝えるのです。

例えば選手へのサポートであれば[①緊急のサポート②継続のサポート③突破のサポート]の3つの原則に分類し、ゲーム中に自分がどのサポートをすべきなのか、全員に声を出させるんです。つまり、ボールを持っている人の状況、自分についているマークの状況が見えていないと番号が言えないわけです。

今まで僕は『周りを見ろ!』とずっと大声を張り上げていましたが、岡田メソッドでは原則を知ることで自然と選手が周りを見るようになるんです。そして番号を間違えた場合でも、本人が『①ではなく②ですよね』と明確に間違いを理解し、解答を見つけ出すようになります。このように原則があると指導者と選手で共通認識ができるようになるのです」

――岡田さんが考える自律できている選手とは?

「どんな状況でもパターンに陥らずに、自分で判断していける選手です。守破離(『守』で師から型を身につけ、『破』で型を破り、『離』で師から離れ新しいものを生み出す)という言葉があります。岡田メソッドでは原則をマスターした選手を『守』、ピッチ上で自ら選択して動ける選手を『破』、感覚でプレーしたものが原則に沿ったプレーになっている状態を『離』と捉えています。岡田メソッドを通じて、この守破離の教えを経た選手は、自律した選手となってピッチで羽ばたいていくと考えています」

 

勝つためにベストをつくす。でも負けてもいい

――岡田さんが子どもを指導する上で大事にしていることは?

「個人の存在を認めてあげることが大事だと思っています。選手が成長したいと思わせるように導き、手助けしてあげることです。その根底にあるものは子どもも大人も一緒だと考えています。そこに大人は結果を出すことが求められますが、子どもだって勝つためにベストを尽くします。ただし負けてもいいということを教えてあげることが大事です。

かつて僕がドイツに住んでいた頃のことです。ドイツ人の親だって子どもの試合ですごく応援するし、レフェリーに文句だって言います(笑)。ところが試合が終わった後の光景が明らかに違うんですよ。日本の親は『どうしてあそこで得点できなかったの?』と一緒になって悔しがる方もいます。でもドイツ人の親は負けて子どもが泣いていても『グッドゲーム』と言うんです。要は試合に勝つためにベストを尽くすけど、負けてもいいというスタンスの違いなんですね。

日本では勝利至上主義はよくないという観点から『勝ち負けは関係ない』と言い切ってしまうことがあります。しかし僕は勝敗があるからスポーツなんだと思っています。そうでなければレクリエーションになってしまいますからね」

 

――親としてサッカーをする子どもとの距離感についてはいかがお考えですか?

「自分の子どもに教えるのって本当に難しいですんよ(笑)。僕もそうですが、愛情が強いからこそ、自分の子どもにはついつい怒ってしまいます。他人の子であれば許せることが許せなかったりする。その距離感っていうのは、やっぱり他人でないとできないことなんだと思います。僕がそれに気づいたのは子どもが大きくなってから。だから僕の子どもたちはみんなサッカーをやめてしまいました(苦笑)。

サッカー、スポーツの素晴らしいところは失敗を経験できることだと思っています。サッカーをすれば負けることも挫折することもあるでしょう。そのときに親が解決策を与えるんじゃなくて、見守ってあげる、支えてあげることが大切だと思います。決して簡単なことじゃないですけどね(苦笑)。良い時は周りがみんな褒めてくれますけど、そうでない時に親がどうするか、が大事なんだと思います」

――最後に、YouTube公式チャンネル「岡田メソッドTV」(https://www.youtube.com/channel/UCclF7ThhqGiGXQYIbPUggyg/videos)がスタートしました。チャンネル開設と無料配信の意図について教えてください。

「これまで話してきた通り、僕はもともと日本サッカーを強くするため岡田メソッドをつくりました。書籍は出版しましたが、練習メニューを知りたがる人がいっぱいいるわけですよ。正直、本で練習メニューを書いたところでわかりづらい。だったら映像の方がいいと思って、多くの方に岡田メソッドを知ってもらうためにYouTubeで配信することにしました。

また、もう一つ大きなポイントとして、今の日本のサッカーを強くしたのはボランティアコーチの方々のおかけだと思っています。お父さんお母さんが趣向を凝らして努力して、子どものグラスルーツを広めたんです。こんな国、世界中で日本しかないですよ。だからこそボランティアの方たちにも岡田メソッドTVを見ていただき、少しでも日々の指導に役立ててもらえたらと思っています」

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