今さら聞けない!?サッカールール「シミュレーション」
1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は「シミュレーション」について。相手との駆け引きはサッカーの醍醐味ですが、審判を欺こうとするプレーは断固NG!クリーンなプレーを心掛けましょう!
シミュレーションとは?
サッカーは相手選手と競い合って得点し、勝ち負けを争うスポーツですので、自分たちが有利になるためにいろいろな駆け引きを楽しみ、相手を惑わすことは許されています。例えば、相手を惑わす「トリック」はその一つで「ずる賢い」プレーと言われています。一方で、選手(主に攻撃側)が審判員を欺いたり、騙そうとしたりする「シミュレーション」は、アンフェアであり反スポーツ的行為として認められていません。
例えばこんなプレーはシミュレーション
それでは、どのようなプレーがシミュレーションにあたるのでしょうか? 次のようなシチュエーションの時に起こりうる、シミュレーションにあたるプレーの例をあげてみました。
位置 ➡ 守備側のゴール前
状況 ➡ 攻撃側選手と守備側選手がボールを追いかけている。
動き ➡ 守備側選手が足を伸ばして先にボールにプレーした。
プレー1
攻撃側選手がボールにプレーした守備側選手の足にわざと引っかかったように、オーバーに倒れてペナルティーキックを得ようとした。
「わざと」「オーバーに」「自ら」倒れ、ペナルティーキックや相手選手の退場・警告となる状況を作り出していると主審が判断すれば、攻撃側選手のシミュレーションの反則、反スポーツ的行為による警告です。
プレー2
攻撃側選手がボールにプレーした守備側選手の足にわざと自分の足が当たるように走るコースを変えて接触し、オーバーに倒れてペナルティーキックを得ようとした。
走るコースを変えることにより、「自ら接触を引き起こして」「オーバーに」に倒れていると主審が判断すれば、攻撃側選手のシミュレーションの反則、反スポーツ的行為による警告です。特に、プールに飛び込むように「ダイブ」している動きは「シミュレーション」と判断されます。
プレー3
守備側選手の手が攻撃側選手のシャツに触れ、攻撃側選手はそれを利用し大きくのけぞって倒れてペナルティーキックを得ようとした。
相手選手との競り合いの中で、「些細な接触を利用して主審を騙そうとしている」と主審が判断すれば、攻撃側選手のシミュレーションの反則、反スポーツ的行為による警告です。大きくのけぞって倒れるほどの接触かどうか、ファウルをもらおうとした動きかどうかを見極めなければなりません。他によく見られる例として、選手がボールをコントロールミスした瞬間に、「追いつけないな」と思って自ら倒れるシーンがあげられます。
プレー4
両選手が絡まって倒れた後、攻撃側選手が起き上がろうとした際、守備側選手の足が攻撃側選手に少し絡んだ。すると、攻撃側選手が守備側選手に顔を踏みつけられたようなふりをしてオーバーに痛がり、主審に守備側選手にレッドカードを示すように求めた。
負傷を装うのもシミュレーションです。軽い接触だったのに顔を押さえたりして大げさに痛がるようであれば、相手選手にカードが示されるような意図があり、主審を騙そうとしています。反スポーツ的行為であり、警告が必要です。
審判がシミュレーションを見極めるポイントは?
皆さんも気づかれたと思いますが、「過度に」「オーバーに」「自ら」「ファウルされた、あるいは接触したふりをして」「負傷したふりをして」など、審判がどう感じるか、どう見えるかがシミュレーションと判断する要素になります。特に、攻撃側選手がファウルをもらって得をしようとするペナルティーエリア周辺では目を光らせなければなりません。
より具体的に言うと、シミュレーションかどうかは次のようなポイントで見ています。特に主審は、攻撃側選手の動きや意図などを見極め、不自然な動きかどうかを見破る必要があります。
- 攻撃側選手と守備側選手の間で接触があったか?
- その接触は、結果として反則にならないほど互いにフェアな/普通の接触ではないか?
- 攻撃側選手が些細な接触を利用して主審を騙そうとしていないか?
- 攻撃側選手が守備側選手との接触を自分から作り出していないか?
- 攻撃側選手が守備側選手との接触を予想していないか?
- 攻撃側選手が守備側選手によって起きた反則の深刻さを過度に誇張していないか?
- フリーキック(ペナルティーキックを含む)を得るためにしていないか?
自分の身を守るためにジャンプするのは「エスケープ」
先ほどのシチュエーションで、攻撃側選手がケガから自分の身を守るためにジャンプして、その結果転倒してしまうのは「エスケープ」と呼ばれ、シミュレーションではないと判断しています。
シミュレーションとは異なった倒れ方をするので、よく注視しなければなりません。例えば、シミュレーションでは片足で跳んで両足を揃えたり、両腕を前に伸ばしきったり、急に膝から崩れたりすることが多く見られます。
反スポーツ的行為にあたるプレーってどんなもの?
シミュレーションと関連して、「反スポーツ的行為」にはどんなプレーがあるのかも知っておきましょう。例えばこんなプレーは反則となります。
- スローインの際、守備側選手がスロアーの前で大きく手を振ってスロアー混乱させた。
➡相手のスローインの際に、スロアーを不正に惑わせることは競技規則で許されていません。反則、反スポーツ的行為による警告です。
- 攻撃側選手が味方選手からのパスを受けようとした際、横にいた守備側選手に「スルー!」と言ってプレーさせずにボールを受け、キックしてゴールを決めた。
➡プレー中やプレー再開のときに大きな声や奇声をあげて、言葉で相手選手を惑わせることは競技規則で許されていません。反則、反スポーツ的行為による警告です。
このように、シミュレーションでは攻撃側選手のプレーでしたが、守備側の選手でも不用意に相手を惑わすようなプレーは反則になります。
相手との駆け引きはOK
相手を惑わすという目的は同じですが、次のようなプレーは競技規則で許されています。
- フリーキックの際、攻撃側選手2人がボールをキックするようなふりをしてボールをまたぎ、3番目の選手がキックする。
- ペナルティーキックの際、キッカーが助走の途中で一旦止まって相手ゴールキーパーを惑わし、また走り出してキックする。
これらのプレーも「相手を惑わす」という目的がありますが、先にあげた「反スポーツ的行為」にあたるプレーとは違いますよね。これらのプレーは相手との駆け引きといえるもの。不用意に相手を惑わしているわけではありません。
1点補足すると、ペナルティーキックの助走が終わり、キックモーションになってから足を止めたり、戻したりして相手ゴールキーパーを動かしてゴールを決めることは許されていません。反則、反スポーツ的行為による警告になるので、注意しましょう。
シミュレーションはNG!クリーンなプレーを目指そう
VARが活用され、トップゲームではシミュレーションは少なくなってきています。シミュレーションはアンフェアであり、サッカー界から根絶されなければなりません。審判員のみならず、選手、監督、コーチ、クラブ、サッカーに関係するすべての人たちが断固たる態度で対応していきたいものです。そして、日本のサッカーが目指す「フェアで、スピーディー、そしてタフなプレー」を実現させるためにも、ジュニア年代からクリーンなプレーを心掛けていけるといいですね。
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