今さら聞けない!? サッカールール「2024/25年 競技規則の改正」
1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ! 今回は、2024/25年シーズンに向けて7月から新たに導入された競技規則について解説します。
規則改正は何のために行われるの?
サッカーは毎年のように競技規則の改正がありますが、なぜでしょうか? それは、サッカーがより魅力的になり、多くの人に楽しまれ、世界中でのさらなる発展を促すため、IFAB(国際サッカー評議会)が「サッカーに何を求めているのか、何を期待しているのか」を検討し、常に競技規則を見直しているからです。
ヨーロッパを中心とした世界のトップリーグの開幕に合わせてほぼ毎年、6月に発表されます。春から秋にかけてリーグ戦が行われる日本ではシーズン途中の変更となり、選手も審判員も戸惑うことが多いようです(2026/2027年シーズンより日本のJリーグも秋春制に移行が決定)。今回の改正での変更点は主に6つありますので、順に見ていきましょう。
「脳しんとうによる交代(再出場なし)」の交代人数の追加
これまで(以下⇐)、1試合において各チーム最大1人の「脳しんとうによる交代」を、通常の交代枠にかかわらず追加的に使うことができた。
今後は(以下⇒)脳しんとうの交代枠が相手にも1人追加される。たとえば、交代要員数が5名の場合、両チームが「脳しんとうによる交代で入る交代要員」を1回使った場合、相手チームにも1名交代枠が追加され、最大で7名の交代要員を使うことができる。
アームバンド(腕章)を着用したキャプテン
⇐チームのキャプテンは、なんら特別な地位や特権を与えられているものではないものの、そのチームの行動についてある程度の責任を有しているが、必ずいなくてもよかった。キャプテンのアームバンド上にはスローガン、メッセージまたはイメージのみ、表示されることが認められる場合がある。
⇒ピッチ上、各チームには、アームバンドを着用したキャプテンがいなければならない。キャプテンのアームバンドは、大会主催者によって用意もしくは許可されたもの、または単色のものとする。「キャプテン」という単語やその翻訳された単語・文字(例:主将)、もしくは「C」という文字も入れることができるが、単色でなければならない。今後、ルール上の役割がキャプテンに委ねられる可能性が出てきたとも考えられる。
グラスルーツの試合では、アームバンドの代用として「テープ/包帯」の使用も検討されている。
すね当て(シンガード)の大きさと適切さ
⇐適切な材質で作られていて、それ相応に保護することができ、ソックスで覆われていなければならない。
⇒選手は、すね当ての大きさと適切さに責任を負う。非常に小さい、または薄いすね当てを着用することも認められるが、選手自身がその危険性を十分認識する必要がある。
ペナルティーキックの際のボールの位置
⇐ボールは、ペナルティーマーク上で静止していなければならない。ペナルティーマークは、直径22㎝の円で描くもの(日本サッカー協会の決定)である。
⇒ボールは、ペナルティーマークの中心にボールの一部が触れるか、かかっている状態で静止していなければならない。ペナルティーマークが「スポット(点)」ではないことにより、言い争いが起こったり、試合の再開が遅れる可能性があったりしたため、ペナルティーキックの際のボールの位置について明確にした。
ペナルティーエリア内での「意図的でない」ハンドの反則があった場合の懲戒罰の軽減
ハンドの反則には「意図的なハンド(手や腕をボールの方向に動かしてボールに触れる)」と「意図的でないハンド(手や腕を不自然に大きくしてボールに触れる)」がある。
⇐選手が、意図的なハンドの反則を行い、相手チームの得点または決定的な得点の機会を阻止する場合(自陣のペナルティーエリア内でゴールキーパーが手や腕でボールに触れた場合を除く)、退場とする。
⇒選手(自陣のゴールキーパーを除く)が、意図的でないハンドの反則を行い、相手チームの得点または決定的な得点の機会を阻止し(DOGSO)、ペナルティーキックを与えた場合、反則を行った選手は警告される。意図的なハンドの反則に対する罰則には変更はなく、押さえる、引っぱる、押す、ボールをプレーする可能性がないなどと同じように、ペナルティーキックが与えられた場合でも引き続きレッドカードで罰せられる。
ペナルティーキック時の攻撃側または守備側選手による侵入
PKのキッカーがボールをキックする前に、他の選手がペナルティーエリアに侵入した場合における罰則に大きな変更がある。
⇐ボールがインプレーになる前に
- ① 攻撃側の選手がペナルティーエリア内に侵入して得点となった場合は、やり直し。得点とならなかった場合、守備側の間接フリーキックで再開。
- ② 守備側の選手がペナルティーエリア内に侵入して得点とならなかった場合、やり直し。得点となった場合はそのまま得点を認める。
⇒ペナルティーキック時の選手による侵入は、キッカーとゴールキーパーに影響があった場合にのみ罰せられる。これはゴールキーパーの侵入への適用と同じ考え方である。次の2つの状況においてのみ「侵入」を反則とみなすことにした。
- ・侵入がゴールキーパーまたはキッカーに影響を与えた場合
- ・キックから得点されなかった後に、侵入が「得点する、得点しようとする、または得点の機会を作り出す、あるいは作り出すことを妨げる」という状況に影響を与えた場合
A.ペナルティーキックを蹴った選手の味方選手は、次の場合にのみ侵入したとして罰せられる。
- ① 侵入が、明らかにゴールキーパーに影響を与えた。
- ② 侵入した選手がボールをプレー、またはボールに向かうことで相手選手にチャレンジして、その後、得点する、得点しようとする、または得点の機会を作り出す。
B.ゴールキーパーの味方選手は、次の場合にのみ侵入したとして罰せられる。
- ③ 侵入が、明らかにキッカーに影響を与えた。
- ④ 侵入した選手がボールをプレー、またはボールに向かうことで相手選手にチャレンジして、その後、相手選手が得点する、得点しようとする、または得点の機会を作り出すことを妨げる。
侵入がキックの結果に影響を与えることはほとんどないため(ボールがはね返りプレーできる状況になった場合を除く)、ゴールキーパーの侵入と同じ原則が選手の侵入にも適用されるべきである。つまり、侵入が影響を与えたときのみ罰せられる。
「侵入」は「何mまで」とか「どこまで」という具体的な指標は定められていないが、次のような要素を考慮して「侵入か否か」を判断する。
- ・侵入した距離や位置、侵入時のスピードや勢い、動き方など
- ・キッカーのキックのタイミングやゴールキーパーの行動など
ペナルティーキック時の選手の「侵入」を容認したのではなく、キッカーとゴールキーパー以外の選手は、ボールが蹴られるまで定められた位置にいなければならないことは、依然として競技規則で定められています。主審は副審とともに「影響があった/なかった」のかを見極め、競技規則に基づいて選手をコントロールすることが求められています。
「ペナルティーキック 反則と罰則」要約表
ペナルティーキックの結果と判定
侵入した選手 | ゴール*1 | ノーゴール*2 |
---|---|---|
攻撃側選手 | 影響あり:PKのやり直し | 影響あり:間接FKで再開 |
影響なし:得点 | 影響なし:PKを再び行わない | |
守備側選手 | 影響あり:得点 | 影響あり:PKのやり直し |
影響なし:得点 | 影響なし:PKを再び行わない | |
両方の選手 | 影響あり:PKのやり直し | 影響あり:PKのやり直し |
影響なし:得点 | 影響なし:PKを再び行わない |
*2 「ノーゴール」における影響:得点する、得点しようとする、または得点の機会を作り出す、あるいは作り出すことを妨げたか?
終わりに
毎年、競技規則の改正が行われ、その解釈と適用について理解を深め実践しなければならない審判員の責任は重いです。しかし、サッカーが「フェア」であり、サッカーを「楽しむ」ために競技規則があり、その規則の適用が審判員に委ねられていますので、審判員は常に最善を尽くし、自信を持って判断してもらいたいです。