「子どもの自主性を決めつけているのは大人かもしれない」風間八宏さんの育成論とは?(前編)
現役時代はサッカー日本代表として活躍し、引退後は指導者として様々なチームを率いた「育成のプロフェッショナル」である風間八宏さん。数々の選手を輩出してきた傍ら、2人の息子さんはプロサッカー選手でもあります。前編では、サカママオンラインフェスタのトークショーで語っていただいた、プロ選手を育てた親としての考えや保護者の在り方、さらに子どもの自主性についてなどをお届けします。
レアルvsバルサの試合を見に行くより、誰だって自分の子どもの試合が見たい
-風間さんの息子さんである風間宏希選手と風間宏矢選手は、プロ選手として活躍されています。親としてプロサッカー選手を育てた上での苦労話やエピソードなどをお聞かせください。
「僕が特別に何かをしたというわけではないのです。子どもたちがサッカーをやってくれて、大人になっても人前でプレーしてくれているのはすごく嬉しいことなのですが、それを目指していたわけではないのです。
もちろん、僕がサッカーをやっていましたので、家の中にはサッカーに関するものがたくさんありましたけど、彼らにサッカーをやれと言ったことはないですし、こんなトレーニングをしろと言ったこともないですね。あの2人の上には姉が2人いるのですが、4人の子ども全員を相手にドリブルで遊んだりしたぐらいですね。彼らに特別なことを教えたことはありません」
-それでも小さな頃からプロの技術を間近で見ることができたわけですよね?
「それはあるかもしれませんね。僕らの仕事は人に見てもらえるものなので。でも僕がサンフレッチェでプレーしていた頃は、宏希も宏矢もまだ小さかったので、スタジアムに来ても鬼ごっこに来ているようなものでしたよ」
-宏希選手も宏矢選手も中学校や高校に進んでから、サッカーについて風間さんに相談してきたことはありましたか?
「まったくなかったですね(笑)。それに僕は自分の子どもの試合をあまり見ることができなかったんですね。彼らが大きくなった頃にはもう桐蔭横浜大学や他のところで指導していましたから、1年に数回ぐらいしか、自分の子どもの試合は見に行けませんでした。
だから、その頃よく選手の親御さんたちに『楽しんでください。本当は僕も自分の子どもの試合を見に行きたいですよ』と言っていましたね。だって誰だって、レアルvsバルサの試合を見に行くより、自分の子どもが出ている試合を見たいですよね。だからそこは子どもたちに感謝してくださいって言い方をしていました」
子どもに自主性がないと決めつけているのは大人なのもしれない
-親は子どもの試合を見ていて楽しいと同時に、つい熱くなりすぎてしまうこともありますよね。その辺りのバランスの取り方はどう考えていますか?
「親が熱くなりすぎると、あまり良い結果を生まないみたいですよね。その辺は人それぞれだとは思いますけど。子どもの立場になれば、親に口出しされたくないのはわかりますよね。親の方から何かを言うより、子どもが言ってくるのを待っていたほうが良いのではないかなと思います」
-親が熱心になり過ぎると、あまり良い結果を生まないということでしょうか?
「サッカー選手というのは、いつもプレッシャーと戦っていて、そんな緊張した中でそれでも楽しもうとしているわけです。だから、それ以上のものを親が押しつけるのはどうかなって思います。勝っても負けても一緒に楽しんであげることができたら、それが最高のお父さんお母さんだと思いますよ。
だって子どもたちは必ずお父さんとお母さんに良いところを見せたいわけですから。上手くやろうとしたけど、上手くいかなかったときに、さらにまた何かを言われたら、やらされているって感じになってしまいます。やらされるのは多分みんな好きじゃないと思いますよね。だから、できれば見守ってあげるのが一番です」
-特にサッカー経験がある親は、つい技術的なことも口出ししてしまいがちですよね?
「そうですね。でももし仮に僕が今までに経験したことを全部子どもたちに教えたところで、それは時代遅れのものになっていると思いますよ。だから、『余計なことは言わない方がいいですよ。であれば皆さんが何をすればいいかはわかりますよね?』って親御さんたちに言ったこともあります」
-どうしたら子どもに自主性を持たせることができるでしょうか?
「子どもは親御さんが思っているよりも、ずっと自分で考えているものです。例えば、僕の場合は母親の仕事が忙しくて、あまり試合を見にきてもらえない環境でした。それでも、決勝まで行けば見にきてもらえると思って頑張ったし、見に来てねと頼んだこともありましたね。親御さんが子どもの頃を振り返っても、そうだったのでないでしょうか。子どもに自主性がないと決めつけているのは、大人の方かもしれないです」