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指導者の言霊「アレックス・ゴメス・コメス」

指導者の言霊「アレックス・ゴメス・コメス」

目標設定やトレーニングはチームのレベルに合わせて

私は地元の街クラブ、そしてFCバルセロナで育成年代を指導した経験があります。 両方とも、共通しているのは「サッカーを楽しむこと」。FCバルセロナの子どもたちはプロになることが最大の目的なので、要求が高くなり、楽しみながらも厳しい指導をしていました。練習でも、こちらが求めるレベルに達することができなければ、できるまでしっかりやらせるなどの厳しさがありました。 しかし、街クラブの場合は全く異なります。 大前提として、子どもたちが大好きなサッカーを楽しみながらやること、その中でサッカーを学び、上達していくことを重視していました。

シーズンごとに設定するテーマの数や内容も異なります。FCバルセロナは10程度のテ ーマを設定し、試合での要求も「いいプレーをする」「勝利する」など、高いものになります。 一方、街クラブは2、3個のテーマを設定して練習に取り組み、もちろん勝つことを目指していますが、「いいプレーをしよう」「楽しくプレーしよう」「全員がピッチに立とう」など、うまい子から初心者まで、全員が目標を達成できるよう工夫しています。

今では様々なトレーニング方法があり、インターネットなどを通じて簡単にその方法を入手できます。しかし、指導者の方々には「コピー&ペーストは絶対にしないで」と言いたいです。 FCバルセロナやバイエルン、アーセナルのようなプレーをしたいと思っても、選手のレベルは同じではありません。彼らが取り組んでいるトレーニングをそのまま真似するのではなく、自分たちでしっかり内容を理解して、トレーニングしやすいようにアレンジしてほしいと思っています。

こんなことがありました。私が地元の街クラブで指導者としてのキャリアをスタートさせた頃、FCバルセロナはヨハン・クライフが監督を務めていて、3‒4‒3という布陣の、見ていて本当に楽しいサッカーをしていました。 これに感銘を受けて私も 3‒4‒3 を導入したのですが、結果は開幕から5連敗。そのうち1試合は、ホームで0‒5の大敗でした。そこで考えて、フォーメーションを4‒2‒3‒1に変えたところ、3位でシーズンを終えることができました。 安易にコピー&ペーストをしてしまった私のミスであり、チームに合わせた取り組みをしなければならないという何よりの実例でした。

ピッチの上では激しく戦いピッチ外ではリスペクトを忘れずに

子どもたちには、人間としてしっかり成長してほしいですね。 もちろんベストプレーヤ ーになってほしいという思いはありますが、それ以上にリスペクトの心を持った人間になってほしいです。 たとえばFCバルセロナの子どもたちがチームでレストランに行った時は、シェフやウェイターの方々に握手をして「今日はごちそうさまでした。ありがとうございました」と挨拶するように指導しています。 また、3カ月ごとに学校の成績評価を提出する義務があり、学校の成績が芳しくないと、FCバルセロナでプレーを続けられなくなります。「成績が上がらないとチームに残れないよ」と伝えると、ほとんどの選手は頑張って勉強して、成績を上げてきますね(笑)。 このように、ピッチ内で激しく戦えて、ピッチの外では人間としてしっかり行動できる選手が求められています。 サッカーをしている子どもの全員がプロになれるわけではないので、教育の部分も重視してほしいです。

親御さんには、ベーシックな存在として子どもたちをサポートしてほしいですね。 日常生活を支え、週末の試合では早起きして車で送り迎えをしてと大変だと思いますし、いろいろと口を出したくなるのは分かるのですが、ピッチに立っている間は子どもの時間ですし、指導者はチームに所属する全員が成長することを目指して取り組んでいます。 もちろん練習の前後にはコミュニケーションを取っていただいて構わないのですが、トレーニング中はコーチに任せていただきたいですし、試合ではお子さんたちの自主性を尊重して、静かに見守っていただきたいですね。

取材/池田敏明

※この記事は2015年4月17日に掲載したものです。