指導者の言霊「フアン カルロス イニエスタ メソドロジーテクニカルダイレクター」
性格が違っても“子どもは子ども”
愛情深く、楽しませることが大事
私はこれまでスペインで4歳の子からプロの選手まで幅広く指導してきました。イニエスタ選手に出会ったのは、彼が9歳の頃です。ごく普通の子でしたけれど、当時から判断力の速さや考える力に優れ、何か特別なものを持っていると感じましたね。ただ、教えていた期間は短く、指導者としてより、一人の人間として関係性が深まっていきました。
スペインでは4歳から12歳はアカデミーに、12歳から16歳はクラブチームに所属します。私は、どの年代でも子どもたちがどれだけ練習をしているか、どういった態度でチームに接しているかを注意してみるようにしています。指導するうえで大事にしているのは、信頼と規律です。子どもたちと信頼関係を築くために、愛情深く、スキンシップをとり、常に楽しんでもらうことを心がけています。その中で、子どもたちの性格を見極めることも大事だと考えています。一人一人がどういう子であるかをしっかり知れば、距離感もわかり、それに応じて成長を促すことができるのです。とはいえ、最終的に“子どもは子ども”です。例えば、シャイで表現することが苦手な子であれば、距離感を考えながら、指導者が愛情をたっぷり表現してきっかけを作れば、少しずつ心のドアを開き、表現の仕方や考えていることをアピールできるようになっていくものです。そういった場合、私はご両親にも働きかけ、子どもの性格を改善するようなアドバイスも行います。時には、ご両親にも指導することが大事だと考えているからです。
また、私が考える規律とは、時間厳守や態度だけでなく、集中する、努力をする、笑い合うなど、練習中にメリハリをつけることです。その中でとくに大切にしているのは、ジョークを言って笑い合っている時、チームみんながその輪にいる、参加できるような雰囲気を作ることです。なぜなら、サッカーはチームプレーで成り立つスポーツだからです。自分を犠牲にしても、みんなで一緒に努力し、楽しむことができれば、チームとして上達し、一人のスポーツ選手としての成長にもつながると思っています。
常に努力すること、楽しむこと、考えることが習慣になるように
「イニエスタ メソドロジー」では、選手各個人が学んでいくスピードを重視しています。例えば、同じ課題であっても、選手それぞれの能力に応じてトレーニング内容を組んでいき、レベルアップを図っていきます。そこには、レベルは違うにせよ、選手たちみんなに「イニエスタ メソドロジー」のスクール生だという意識を持ってもらいたいという想いがあります。練習をするうえでは、必ずその目的を説明し、現状のレベル、練習課題も伝えます。そして課題のピンポイントとなる箇所を意識した練習を行った後、必ずフィードバックし、反省会も行うのです。それは帰宅後、練習の目的を今一度思い出し、何につながっているのかを改めて自分で考えてもらいたいからです。そうすることで、たとえ失敗したとしても前向きな答えを見つけることができるでしょう。私たちは、常に努力と楽しむこと、そして考えることが習慣になるように選手たちに働きかけています。それは、イニエスタ選手が両足の技術だけでなく、考える力・判断力に優れ、努力をし続ける選手であるからです。また、日本とスペインの文化の良い部分を融合させることで、より選手の人間力も上がっていくのではないかと思っています。
成長過程であっても、子どもはあくまでも子どもです。各年齢に応じた練習日数や時間があり、単に長時間トレーニングをすれば上達するのではありません。質のいい練習や楽しむことで、学んだことを取得するスピードが速くなることをご両親は理解してほしいと思います。また、私たちと同じようにご両親も子どもの性格をしっかりと見極め、努力することを促してあげてほしいのです。そして、サッカーを楽しむこと、時に失敗することも大事だということを伝え、子どもたちが努力している中に価値を見出してあげてほしいと思います。