【高校サッカー名将バイブル】平野直樹監督(履正社)-後編「人」としての土台づくり
高校サッカー部の監督は、サッカーに勝つことはもちろん、生徒の人間成長を担う立場にあります。「高校サッカー選手権」の華やかな舞台の裏には、そこに挑む指導者と生徒の数だけの汗と涙の物語が存在します。名将と呼ばれる指導者はいかにして、選手たちを成長させ、夢の舞台へと導いてきたのでしょうか?
今回は大阪の名門・履正社を率いる平野監督インタビューの後編です。
子どもたちが変われば指導者も変わらなくてはいけない
未来を見据えた指導方針について伺いましたが、教わる側の選手たちはどう取り組むべきと考えますか?
「今の子は自ら求めることがあまりないですね。昔は選手もヤンチャで『こんなことを言われて悔しくないのか!』と指導しても反発してくるものでした。しかし、今は彼らがどれだけ安心してトライできるのかを考えることが大事です。子どもたちが変わっているのに、指導者が変わらないわけにはいかない。今は多様性とともに、公平性を求められる時代ですからね。あの子が試合に出ているのになんでうちの子が出られないのか、とかね」
高校年代になってもそういった声があるのですか?
「そうですね。それでも最終的には監督の責任の下で決めるわけですが、みんなが夢を持ってウチに来てくれているわけですから。良いものは良い、足りないとこは足りないと、公平に指導していかなくてはいけません。私も後の日本代表選手の育成時代を見てきましたので、この年代ならこのくらいはできないといけない、という基準はわかっています。さらに現代のサッカーはよりスピーディーになっていきますから、周囲との関わりを持って、やりたい事でだけではなくやらなくてはいけない事を、協調性や自制心を保ちながら、的確に状況判断し行う必要があります。ねばり強いメンタルを持つこと非常にも重要です」
メンタルを強くすることは人間形成にもつながりますね。
「そうですね。社会人として、会社の方針に沿って、目標を達成することはサッカーでのプレーも一緒だと思います。例えば1-0でリードした状態で残り3分、ボールロストを覚悟してガンガン攻めていくのか、それともボールを大事にしてリスクの少ない攻めをするのか。ベストな行動が何なのかを、チームとして11人が共通の意志を持って行うわけです。その、状況を判断するチカラ、実行するチカラというものをより大きくするために、『人』という土台を大きくしなくてはいけません。『人』という土台が小さいのに、大きなサッカーを載せるとどうなるか。調子が良ければいいですが、悪くなったら必ずバランスを崩します。『あの選手は上手かったのに…』と、過去に消えていった選手はこのパターンが多いと思います」
ご両親には子どもが話せる環境をつくってほしい
平野監督が指導してきた中にも…?
「たくさんいましたよ。Jリーグでコーチをしていた時も、自分の都合が悪くなると『この監督とは合わない』など責任転嫁する選手がいました。いいものを持っているのに責任感が欠如し、それでチャンスをなくしていく。本来であればJリーグのアカデミーにいい選手がたくさんいるはずなのに、日本代表には高体連出身選手はまだたくさんいるわけです。高校では好きなサッカーだけをやるんじゃなくて、苦手な勉強もしなくてはいけません。生活態度を律し、周囲との協調性も高めるなど、学校で受ける人間教育がサッカーの学びにもつながるのです。この国のサッカーを良くするために、改善していく余地なんてまだまだたくさんありますよ。よい指導者が1年間に10人の良い選手を輩出できるのなら、10年で100人の良い選手が生まれるわけです。そのためにも我々は学んでいかなくてはいけません。そして選手たちも与えられるばかりでなく、自らトライできる子になってほしいですね。ただ……、どうしても指示待ちになっちゃうんだよな(笑)」
両親に求めることはありますか?
「具体的なところで言えば、子どもたちの栄養面が一番でしょうか。あとは心の面ですね。これだけ子どもの人数がいれば競争にさらされるわけで、上手くいくこともあれば、いかないこともあります。そこで子どもが一番意見を言いやすいのは母親で、甘えやすいのも母親だと思います。子どもとコミュニケーションできる環境作りというものを、ご家庭ではお願いしたいですね。もちろん、ご家庭によって『頑張れ』と言うところもあれば、サッカーの話を一切しない方もいらっしゃると思います。でも、子どもたちを想う気持ちはみなさん一緒です。子どもたちにピッチ上でもご家庭でも『安心』して過ごせる環境をつくる。そのために我々との情報交換は大切なことだと思います」
指導者と両親が一緒になって伸ばしていくということですね。
「そうですね。お互いが学びなんです。16歳~18歳の年代を10年も20年も見ているようなお母さん方にはいらっしゃらないわけですよ。その意味では我々も少しは知識があるので、ご相談はさせていただけると思います。子どもの見えていない部分を少しでも無くすためにも、コミュニケーションをとれる関係でありたいです。子どもたちに伸びてほしい想いは、指導者もご両親も同じなんですから。『ご両親は口を出さないでください』じゃなくて、協力し合う関係でありたいと思っています」