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【高校サッカー名将バイブル】仲村浩二監督(尚志高校)-後編

高校サッカー部の監督は、サッカーに勝つことはもちろん、生徒の人間的な成長も担う立場にあります。年末年始の風物詩・高校サッカー選手権の華やかな舞台の裏には、そこに挑む指導者と生徒の数だけの汗と涙の物語が存在します。「名将」と呼ばれる指導者はいかにして、選手たちを成長させ、夢の舞台へと導いてきたのでしょうか?

そこで、このコーナーでは高校サッカーの名監督の指導方針、サイドストーリーを紹介。今回は今年の第97回高校サッカー選手権で尚志高校をベスト4に導いた仲村監督のインタビュー後編です。

前編はコチラから。

メンバーを替えれば変わるサッカーとは?

チームスローガンとして『PRIDE OF SHOSHI』がありますが、指導方針として人間的な成長にも重きを置くようになった頃に掲げられたのですか?

そうですね。平野伊吹らが在籍した世代で、選手権に3年連続で出た2年目になります。当時はまだ、全国制覇を本気で考えられるようなチーム力ではありませんでした。でも本気で全国のトップを目指すというのであれば、トレーニングの強度を上げるぞと言った時に、彼らはこう言ってくれたんです。『自分らの世代で全国制覇します』と。それでスローガンを掲げて、毎日それぞれが言うようにしたんです。それで彼らは本気でついて来てくれて、はじめて『高円宮杯プレミアリーグ』の出場権を掴み取ってくれたんですよ。尚志はそこから本気で全国制覇を目指すチームに切り替わり、尚志のプライドを持って、サッカーを通して尚志高校を全力で応援してもらえるような人間になろうと、『pride of SHOSHI』を掲げるようになったんです。

仲村監督が選手に求めることは?

僕が選手に求めるベースは技術とジャッジ(判断力)です。僕はそれが最善のジャッジと判断したのであれば、クリアーすることがズルいこととは思わない。自陣のゴール前でクリアではなくつなぐことを選択して、結果ボールを奪われて失点したのであれば、そのジャッジは間違いということになります。僕は状況や局面において勝利するためにいろんなことをジャッジできる能力が大事だと思っています。それと技術のベースがあった上で、各々がチームのために何ができるのか、ということではないでしょうか。

戦術においてはいかがでしょうか?

戦術のトレンドは時代によって変わって行くものですが、僕は基本的にはダブルボランチの4-4-2を採用しています。その上でツートップを縦にしたり、中盤の4枚を変形させたりしています。それと今、僕らが取り組んでいることが、システムが変わらなくてもメンバーを替えれば、サッカーがガラっと変わるようなことを目指しています。それがこれからのサッカーでは必要になるのではないかと。ちょっと言っていることが難しいんですけどね。

最近はメンバー変更枠も増えてきていますよね。

そうです。昔の選手権は交代枠は3人でした。それが今は最大5人ですから、一気に3枚替えるなど思い切ったこともできるわけです。その3人が入ったことで『あれ?』と思うくらい、ガラっとサッカーが変わる。そんなことができれば面白いなと。昨年のチームは層が厚かったので、いろんなメンバーを出したら『尚志のサッカーが変わってきた』と言われるようになり、そこにヒントを得ました。だから今、選手は一個のポジションで終わらないように、色んなポジションでプレーができるように伝えています。

今回の選手権は2011年度以来のベスト4進出、そして高円宮杯プレミアリーグ復帰となりました。東日本大震災があった2011年、それ以前とそれ以後で尚志サッカーは大きく変わったと思いますか?

僕が一番変わったと思います。そもそもサッカーができませんでしたから。人生でサッカーをやりたくてもできないことなんて、これまで一度もなかった。その時に1分、1秒も無駄にできないと自覚しました。明日、何が起こるかなんて誰も分からない。であれば限られた高校サッカーの3年間を充実させてやろうと。僕らはサッカーができない期間があったからこそ、限定的であっても、再開できた時はサッカーが楽しくてしょうがなかった。あんな体験ってないだろうし、もう二度としたくない。今の時間を大切にしなくてはいけないと思いました。

仲村浩二

福島のみなさんに“本物”を見てもらいたい

7年前のチームと今回の選手権ベスト4のチームとの違いは?

2011年度の選手権ベスト4は僕らが出場5回目の時だったんですよ。そして今回が10回目だったので、何かがあるかと思っていました(笑)。でも、あの時はチームの勢いというか、福島県のみなさんのお力をお借りした結果だったと思います。3年生も18人と少なく選手層も厚いとは言えず、プレミアリーグを戦い抜く戦力もありませんでした。でも今は毎年コンスタントに尚志の門を叩いてくれる選手がいますし、選手層も充実してきています。本気で優勝を狙った上でのベスト4でしたから、同じ順位でも内容はかなり違っていると思います。

その意味では満を持しての高円宮杯プレミアリーグへの復帰になりますね。

日本最高峰のリーグですからね。今、必死になって取り組んでいるところです。選手たちの覚悟を追求しています。選手権ベスト4という結果を残してくれた3年生は、尚志の心も動かしましたが、郡山市、福島県の方々の心をも感動させてくれたと思います。東福岡、前橋育英と過去の優勝校相手に勝利し、ベスト4の青森山田戦のテレビ中継では瞬間最大視聴率は32.8%で、平均視聴率は20%以上だったと聞いています。福島のどこに行っても『感動しました!』と声を掛けていただきました。郡山も市として全面的にバックアップをしてくれて、プレミアリーグのために郡山の天然芝のグラウンドは尚志を最優先に押さえてくれています。だからこそ、僕らも1年で簡単に降格するわけにはいかない。その覚悟をもって挑むシーズンとなります。

「応援されるチームになる」という指導を続け、まさに福島が一体となってチームを応援してくれているわけですね。

僕はずっとプレミアリーグに復帰したいと言い続けてきました。それはなぜかと言うと、子どもたちに高校サッカーの本物のプレーをみてほしいからです。エスコートキッズもそうですし、子どもたちにはとにかく会場に来てもらって、試合を見てほしい。前回のプレミアリーグでは、現日本代表の中島翔哉選手が当時ヴェルディユースの10番として郡山西部サッカー場に来てプレーしていたんですよ。当時からめちゃくちゃ上手かった。子どもたちが『将来、あんな選手になりたい!』と思ってほしいし、プレミアリーグの試合が9試合この郡山で行われるわけですから、ぜひ“本物”を見てほしいと思います。

そんな最高峰の舞台で戦う尚志のサッカーも見てもらいたいですね。

そこはもちろんです。前回のプレミアリーグでは、Jユースとの試合で『これぐらいのレベルでないと敵わない』と実感しましたが、そんな環境で青森山田はずっと勝ち続けて、選手権で優勝しているわけですから。

青森山田の黒田剛監督はプレミアリーグでさまざまなチームとの戦い方を構築したことが選手権でも奏功した旨の発言をされていました。

本当に見習いたいところです。選手権後に本田先生が『ハイプレスのチームが勝ち上がっているが、そこを打ち破るチームが出現した時に高校サッカーは一つ上のレベルになる』とおっしゃっていました。選手権決勝に勝ち上がった青森山田、流経大柏を破るチームが現れないといけない。僕はそれが尚志であるべきと自覚してやっています。