指導者の言霊「原 啓太 日章学園高等学校サッカー部監督」
それぞれのストロングポイントを、徹底的に磨いてあげることが役目
育成年代の指導で絶対に外せないのが「技術」と「判断」を養うこと。次のステージで活躍するため、そして生涯サッカーを楽しむためにも、この2つは大切な要素だと思っています。そのうえで、選手を育てるという点で重視しているのが「ストロングポイントを伸ばす」こと。日章学園高校に入ってくる選手を見ていても、以前より技術的、フィジカル的に質が高く、さらに特徴、一芸を持った子どもたちが増えています。ここだけは負けないという武器を高校3年間で徹底的に磨いてあげるのが我々の役目。“スピードなら絶対に勝つ”“この角度でボールを持てば絶対に仕事する”といった強みを発揮できて、見ていてワクワクするような選手をJクラブや大学に送り出していきたいのです。
宮崎県内を中心にU-15、U-12の試合もできる限り視察していますが、ジュニア選手のレベルも間違いなく上がっています。ただ同時に感じるのがオートマチック、システマチックなサッカーをしすぎてはいないかということ。戦術やシステムを学ぶことはすごく大事です。また、この年代から勝負にこだわってプレーすることも重要だと考えています。負けて悔しい、もっと頑張ろうと思えること、勝って成功体験を積むことは心の成長に欠かせないのではないでしょうか。
一方で、パスを出せと言われても独力で3人ぶち抜いて決めてしまうような規格外の選手は、ストリートサッカー的な自由な環境でこそ生まれる気がしています。だから、とがった個性は消すことなく活かしてあげてほしいですし、そうでないといつまでたってもハーランド(マンチェスター・シティ)やヤマル(バルセロナ)のような選手が日本からは出てこないんじゃないかと思うのです。
ジュニア年代の選手に伝えたいのは、「サッカーが大好き」で「負けず嫌い」で「素直」な心を持っていれば絶対に伸びるということ。昨年のチームからプロ入りした高岡伶颯(バランシエンヌ)や南創太(ベガルタ仙台)もそうでしたが、この3つがあればスポンジのように学びを吸収して成長できるはずです。そういう選手を高校年代でさらに育て上げ、世界に羽ばたかせてあげたい。欧州のチャンピオンズリーグに卒業生が出場して、試合を見に行くことが今の夢ですね。
上手くいかないことがあっても、矢印を自分に向けられるように
子どもの可能性を広げるためには、保護者の接し方も重要だと思います。競技スポーツには、試合に出られない苦しみや挫折がつきものです。そんなとき「諦めずに続けてみよう」と背中を押してくれる親がいれば、子どもは頑張れるはず。我が子が大事だからといって、指導者や仲間を否定するような言動は控えるべきだと思います。親がそうだと、子どもも人のせいにする思考を持ってしまうからです。矢印を自分に向けられなくなることは、成長にストップをかける要因になります。上手くいかないことがあっても、矢印を自分に向けて対処できるようになれば、選手として、人としての成長につながるでしょう。
日章学園ではピッチに出入りする際に一礼するなど、伝統的に礼儀や挨拶を重んじています。自分のことは自分でするのも、部活動を通して社会に出る前に身につけてほしい姿勢です。また変わったものでは、誕生日はオフというルールも。欧米ではクリスマスを家族で過ごしますが、それと同じように選手がそれぞれ親のために使う日として休みにしているんです。友人や彼女と遊ぶのではなく、手伝いをしたり、料理をつくったり。サッカーより大切なものがあるし、家族より大切なものはないということを改めて考えてもらうためのひとつのきっかけですね。
よく「かっこいい生き方をしなさい」と選手たちに言うんです。自ら判断して行動する。人を大事にして、人から大事にされる。家庭や職場で将来、そんな替えのきかない存在になってほしいので、彼らはめんどくさいなと感じているかもしれませんが、5年後、10年後にわかってもらえたらいいですね(笑)。
(2025年12月発行 soccer MAMA vol.56 「指導者の言霊」にて掲載)