【サカママのキニナル】中学の部活動が変わる!「部活動地域展開」とは?
中学校の部活動が変わりつつあるのを知っていますか?今、進められている部活動改革の現状や今後の展開について、環太平洋大学の友添秀則教授に伺いました。
中学生のスポーツ環境を持続的に保障するための部活動改革
実は日本の部活動は、戦争による中断はあっても、135年以上前から続いています。でも、近年、少子化により部員数が減り、学校単独では試合に出られない部が増えているのです。学校が合同で部活動を実施するケースも多く、例えばサッカーでは、2023年には666チームも合同で活動しています。また、部活動の顧問は「担当教科が保健体育ではなく、かつ担当している部活の経験がない」教員が45.9%を占めるというデータ(※1)もあります。部活動は教師には過重労働になり、生徒にとっては望ましい指導が受けられないという状況になっています。
そこで2022年、中学生のスポーツ環境を持続的に保障し、学校の働き方改革を進めていくために、文部科学省やスポーツ庁がガイドライン(※2)を策定し、2023年から3年間を目途に部活動を地域と連携したり、地域のスポーツクラブなどが担う「部活動地域移行」の取り組みが始まったのです。2024年に名称を「部活地域展開」に改称し、26~31年度で、休日だけでなく平日の部活動も地域に移行するように進められています。
全国約1/3の市区町村が地域スポーツクラブ活動を実施
今、全国におよそ1700の自治体がある中、2024年度には510の市区町村が部活動を地域へ移行し「地域スポーツクラブ活動」としての取り組みを実施しています。運営するのは、市区町村や総合型地域スポーツクラブ、スポーツ少年団、クラブチーム、民間事業者など形態は様々です。例えば、沖縄県渡嘉敷村では、バスケットボールとバトミントンの部活動を企業に業務委託することで、ICT(情報通信技術)を活用し、島外のプロによる遠隔指導を受けることができるようになったのです。さらに、島のおじいちゃん、おばあちゃんが見守り隊となり安全面もサポートしています。
子どもたちにとっての「地域スポーツクラブ活動」のメリットは、専門知識を持った指導者から、良質な指導が受けられる点です。また、学校の垣根を超えた仲間との繋がりができたり、地域の方々や幅広い世代と交流ができるなど、色々な人と出会うチャンスが増えるのも利点でしょう。一方、デメリットしては、会費や交通費、活動中のケガや事故に備えた保険料が発生する場合も考えられます。
部活動には、全国中学校サッカー大会など中体連(日本中学校体育連盟)が主催する全国中学校体育大会があります。地域スポーツクラブ活動に移行した場合も、諸条件はあるものの、この大会への参加は基本的に認められているのです。
「サッカーと野球」など複数の競技種目が取り組めるように
今後、地域スポーツクラブ活動では、1つの競技種目に専念するのではなく、他の種目も取り組めたり、文化部との掛け持ち、子どものライフワークバランスを重視するなど、生徒のニーズに応じて多種多様な体験ができる取り組みがより進んでいくでしょう。中学生年代は週3回・2時間程度の活動でも、良質な指導を受ければ十分スキルアップできると言われていることから、空いた時間に他の種目を経験してもいいと考えられているのです。例えば、サッカーと野球、サッカーと柔道などの掛け持ちがあってもいいということです。
また、春はテニス、夏はマリンスポーツ、冬はスノーボードなど、シーズンによって競技種目を変えることができるクラブも出てくるでしょう。「色々な種目を少しずつかじった状態では上手くならないのでは?」と思いがちですが、効率のいいプログラムを実施すると、それぞれのスキルが発達し、気分転換になるため、運動生理学やスポーツ教育学的には良いというデータもあるのです。生徒の個性や得意分野を尊重するクラブ、ボッチャやブラインドサッカーなど障害のある子と一緒に行うユニバーサルのクラブなども増えていくでしょう。生徒がフィットネスをやりたいということから、週に3日、授業前に「朝活クラブ」として行っているケースもあるのです。
スポーツは人間形成をしていくうえで、とても強い力を持っています。でもそれは、良質な指導者が関与した時に初めて意味を持つと思うのです。そのため、部活動でなく、地域スポーツクラブ活動に移行しても、スポーツが持つ学習への可能性、子どもへの影響力は変わらないと言えるでしょう。また、スポーツは、信頼関係、お互い様という気持ち、人との緩やかなつながりなどを育む力(社会関係資本としての力)を持っています。これから、より人口減少が進む中で、地域スポーツクラブ活動を通して、地域の人たちと関係を築き、一緒に汗を流すことで、スポーツの力を育むことができるのではないでしょうか。日本の中学校の部活動が根本的に変わり始めていること、また、なぜ変わらなければいけないのかを保護者の方、そして子どもたちにも知ってもらえたらと思います。
中学の部活動改革 押さえておきたいPOINT
❶2031年度には、すべての中学の部活動は地域スポーツクラブ活動へ
❷地域スポーツクラブ活動では良質な指導が受けられ、色々な人と出会うチャンスも!
❸1つの種目だけでなく、他の種目との掛け持ちなど多種多様な体験ができるように
※1:公益財団法人日本スポーツ協会(2021年)「学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書」
※2:学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン 2022年
※参考文献:友添秀則編著『運動部活動から地域スポーツクラブ活動へ 新しいブカツのビジョンとミッション』(大修館書店)
