「サッカーを仕事にする」ということ2024 #01 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 里﨑 慎さん
サッカービジネスの最前線で働く人々を特集する恒例企画。スポーツ市場の発展に向けた取り組みを行っているデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里﨑 慎さんにお話を伺った。
スポーツ×ビジネス領域から社会的価値向上を目指す
里﨑 慎さん(SATOZAKI SHIN)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
スポーツビジネス/ターンアラウンド&リストラクチャリング ディレクター
2002年に現在の有限監査法人トーマツに入社。ビジネスの領域からスポーツの発展に寄与するデロイト トーマツ グループにて、Jリーグクラブを財務の観点からランク付けした『Jリーグ マネジメントカップ』の発行や、スポーツが持つ社会的な価値の可視化によるスポーツ市場の発展に向けた取り組みを行っている。
Q1. スポーツとの関わりは?
Jリーグ開幕の盛り上がりを見届けた学生時代
「高校に入学したのがちょうどJリーグが開幕した1993年で、通っていた浦和の街も当時ものすごい熱量で、街中が盛り上がっていたのを覚えています。私は水泳部に所属していたのですが、競技関係なくみんなで浦和レッズを応援しに行っていましたね。その当時は将来スポーツビジネスに関わる仕事をするとは想像もしていませんでしたが、今思えばそれがJリーグとの最初の接点でした」
Q2. スポーツビジネスについて
“する”だけでなく“観る・支える”文化として浸透させたい
「 元々日本では“スポーツ”と“ビジネス”はかけ離れた文化として発展してきました。サッカー界も同様でしたが、2014 年に私の高校の先輩である村井満さんがJ リーグの第5代チェアマンに就任されて以降、Jリーグがビジネスシフトしていく動きが出てきました。さまざまなビジネスと掛け算することでより大きな価値を生み出し、他の領域への活用や社会課題の解決につながるという流れが生まれてきました。2017年よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社とデロイトトーマツ コンサルティング合同会社がJリーグとのサポーティングカンパニー契約を結んだのですが、当時はまだスポーツは単純に“する”ものだと捉える風潮でした。
ここ数年で急激に認識が変わり、“する”だけでなく“観る・支える”ものだと見なされるようになったと感じます。今後は人々のWellbeingな社会に必要なコンテンツとしてさらなる広がりを見せるようになると思います。そういった社会の実現のために、Jリーグをはじめとしたプロスポーツが先陣を切って発展し、恒常的な文化として浸透していくことに貢献できるといいですね」
Q3. 具体的な施策は?
日本のスポーツ市場の拡大へ社会的な価値の可視化を目指す
「『Jリーグ マネジメントカップ』というレポートを毎年発表していて、先日で10年目でした。公表されている各クラブの財務状況などからランク付けを行ったもので、“スポーツの裏側にビジネスがある”ということが広く認知されていく意味で効果があったと思います。もう一つ2021年ごろからチャレンジとして取り組んでいるのが『社会的インパクトの可視化』というプロジェクトです。スポーツが生み出している価値は、マネタイズ(収益化)だけでなく“見ている人を楽しませる”“自己肯定感を高める”というような、目に見えない社会的な価値も大いにありますよね。
感覚でしかわからなかった価値を可視化することによって“人材や金銭的な投資をすることでこれだけ返ってくるんだ”というリターンまで見通せるようになり企業が投資をしやすい環境にできたらという考えのもと、現在FC今治(J3)と共同して、社会的投資収益率(SROI)という指標によって『社会的インパクトの可視化』に向けて取り組んでいます。このようにスポーツが生み出す価値を可視化することによって、スポーツビジネスにお金や人といったリソースを投資しやすい環境を整備し、日本のマーケットに火をつけることができたらと思っています」
Q4. 学生スポーツの在り方について
競技としてだけでなく選択肢を広げるツールと捉える
「 日本では、アスリートが引退してからビジネスの世界にジョインするというケースが欧米と比べて少ないと感じています。では『海外ではアスリートが引退後にみんなスポーツビジネスに携わっているのか』と問われるとそうではなく、元アスリートとしてさまざまな業界で活躍しているのです。日本と欧米とで大きな差が生じる原因として考えられるのが、スポーツを通した教育の違いです。日本では、多くの場合スポーツは“競技者を育てるためのもの”と捉えられてきましたが、欧米では“ 人生を豊かにするWell-being のためのツール”として考えられているんですね。
“アスリートになる”という選択肢と“スポーツを通して培った自己研鑽や目標に向けて努力する能力をビジネスに応用しよう”という考え方が並列なのです。日本のアスリートを見ても、イチローさんや本田圭佑さんなど、クレバーにさまざまな選択肢を持てる選手のほうがブレイクしていますよね。超一流と呼ばれる人こそ頭を使って考えているし、それを競技にも生かしている。日本のスポーツ教育も学生の選択肢を広げる環境を作らなければならないと感じています」
Q5. 高校生に伝えたいことは?
自分が何を身につけたいのか考える目線を持つこと
「 スポーツは、人生を豊かにするために大切なコンテンツだと思っています。単なる競技だと思わず、スポーツを通して何を得られるかを意識しながら活動するといろんな気づきがあると思うし、それが将来社会人になったときに生きてきます。スポーツから得られるものは無意識に体得されていくもので、自身の行動のベースになります。自分が何を身につけたいのかを考える癖をつけておくと、ただ競技をするよりも多くのことを得られると思うので、そういった目線を持つことを意識してみてください」
ある1日のスケジュール
8:00 | 前日のメール等の確認、処理 |
10:00 | 定例を含むクライアントとの会議① |
11:00 | 資料作成 |
12:00 | 昼食 |
13:00 | リーグとの来期企画の打ち合わせ |
15:00 | SROI分析のためのクライアント会議 |
16:00 | 定例を含むクライアントとの会議② |
17:00 | 資料作成 |
19:00〜21:00 | 関係者との会食等 |
思い出の1ページ
元日本代表監督 岡田武史氏との対談
元日本代表監督・岡田武史氏と対談した際の写真です。Wellbeingな社会の推進に向けて、スポーツが生み出す社会的な価値の大きさを発信していくために必要な知見を岡田さんがオーナーを務めるFC今治にお伝えさせていただいています。日本サッカー界に貢献されてきた岡田さんと一緒にプロジェクトに取り組んでいるということが自信になっています。