トップアスリートに聞きたい! スポーツを通して育まれたコトって、なんですか?
スポーツが持つ「人を育む力」。トップアスリートたちは、どのようなこと感じているのでしょうか。ここでは、今春から行っている「親子で楽しむオンラインイベント」のゲストに聞いた、スポーツをやっていてよかったと思うこと、培われた力などをご紹介します。 文/編集部
「サッカーを通して育まれたのは向上心。目標を設定して努力する力もついた」

FC東京 森重真人
1987年5月21日生まれ、広島県出身。読みの上手さを活かしたボール奪取とテクニックに優れたDF。FC東京、日本代表でもキャプテンを務めた経験がある。私生活では子育て論を話すなど教育について熱心な一面も。
成長していく中で、サッカー(スポーツ)という1本の柱があることで、人格形成を作るうえで頼りになりましたし、礼儀やメンタル的なこと、ふるまい方、何をたべないといけないかなど、いろんなことが学べたと思っています。中でも サッカーを通して育まれたと思うのは、向上心。だからこそ、目標を設定して、それに向けて努力、練習する力もついた 気がします。試合に出る、試合に勝つ、上手くなる、ライバルに勝つ……そのために、 目の前のことを目標にするのではなく、もっと先の目標を作るんです。それに向けて努力し、思い描いている姿まで自分を引き上げることができる力がついた と思っています。その力は、サッカー以外においても役立ちますからね。
もし、今、レギュラーになれない、試合に出れないなどで、モチベーションが下がっている子どもたちは、先の目標を作って、そこに向かって努力をしてほしいと思います。例えば、将来プロになりたいという目標を作れば、今、試合に出られないことを悲観する時間じゃないと気づくだろうし、プロになるために、今、何をすべきかがどんどんわかってくるはず。長く大きな目標を設定することが、モチベーション維持のためにも大切だと思います。
サッカーは失敗の連続というか、多くの失敗をしながら、成功の1つがゴールだったり、勝利だったりしますよね。だからこそ、失敗した分だけ上手くなるのは間違いないこと。ただし、やってはいけないのは同じ失敗を何度も繰り返すことです。僕は、若い頃、パスミスが多いと言われてたんですけど、それは人よりチャレンジしたいという欲があったから。チャレンジしたパスを他の人の10倍やるってことは、その分ミスする確率も高いですよね。それでも、10本中3本いいパスが通った時は、これが自分のプレーなんだと思えたし、そこで経験値も生まれますから。失敗を繰り返さないと、わからない世界はあるので、子どもたちはどんどん失敗をしてほしい。ただ、失敗という言葉はよくないですよね(苦笑)。失敗しない人生なんてありえないですから。
「問題が起こった時、自分で考え、トライして解決していく―その作業を学んだ」

ジェフユナイテッド市原・千葉 佐藤寿人
1982年3月12日生まれ、埼玉県出身。2012年にサンフレッチェ広島をリーグ初優勝へ導く原動力となり、その年JリーグMVPとJリーグ得点王を獲得。通算J1リーグ得点数は歴代2位。
サッカーは自分1人の力では結果を出すことができない世界です。だからこそ、 常に仲間と高め合い、支え合うことが培われたし、それが結果につながっているんだと思います。また、いろんな状況で問題が起こった時、自分で考えてトライして解決していく―その作業をスポーツを通して学べた と思っています。
団体スポーツが個人スポーツと大きく違うのは、はっきりした評価が数字で現れないことです。個人スポーツであれば数値化された目標に向かってアプローチする方法があると思うんですけど、 団体スポーツは、周囲が自分にどういう評価をしているか。その分、考え方を構築していく上でタフな環境ではある と思いますね。それと、サッカーではいろいろな状況が起きるので、それが考える習慣が身に付いたきっかけになっているのかなと。
中学1年の時「サッカーが上手いけど、もっと上手い子がいるよね。サッカーと同じくらい勉強に打ち込めば、サッカーが上手くいかなくても、勉強で行きたい進路に進めるよ」と、担任の先生に言われたんです。いろんなことを頑張って10個のわかってくるはず。長く大きな目標を設定することが、モチベーション維持のためにも大切だと思います。
サッカーは失敗の連続というか、多くの失敗をしながら、成功の1つがゴールだったり、勝利だったりしますよね。だからこそ、失敗した分だけ上手くなるのは間違いないこと。ただし、やってはいけないのは同じ失敗を何度も繰り返すことです。僕は、若い頃、パスミスが多いと言われてたんですけど、それは人よりチャレンジしたいという欲があったから。チャレンジしたパスを他の人の10倍やるってことは、その分ミスする確率も高いですよね。それでも、10本中3本いいパスが通った時は、これが自分のプレーなんだと思えたし、そこで経験値も生まれます。失敗を繰り返さないと、わからない世界はあるので、子どもたちはどんどん失敗をしてほしい。ただ、失敗という言葉はよくないですよね(苦笑)。失敗しない人生なんてありえないですから。選択肢がある方と、サッカーだけをやって1、2個の選択肢しかなかったらどっちがいいか。答えは明白ですよね。だから中学時代は本当にたくさん勉強しました。選択肢を広げることは大事だと思います。今のままでいいと思うと学ぶ意欲を潰すことになりますし、選択肢は増えないですから。いろんなことに耳を傾けることで選択肢は変化していくと思いますね。
自分が試合に出ている時って、もちろん出ていない仲間もいるわけです。小学生の頃は、サッカー仲間であり、友達であることも多いですよね。でも、必ずしも仲のいいチームメイトが試合に出られるとは限らない。自然と相手の気持ちになって考える環境にいられたのもサッカーをやっていたからこそだなって。パスをくれる仲間がたくさんいて、彼らには常に感謝の思いがあり、一緒に高め合いたいという思いもあります。多くの指導者の方ともお会いする機会があり、人に恵まれたと。これだけの人と接点が持つことができて、サッカーをやってきてよかったと思っています。
「スポーツは人生を表現する一つの手段。ラグビーで学んだのは仲間を大事にすること」

元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬俊朗
1981年10月17日生まれ、大阪府出身。2004年、東芝ブレイブルーパスに入部し、キャプテンとして日本一を達成。日本代表として28試合に出場し、キャプテンも務めた。現在は(株)HiRAKU代表取締役としてスポーツ普及、教育、健康、食を中心に活動。
僕は5歳でラグビーを始めて、サッカー、テニス、バスケもやりました。サッカーをやってキックが上手くなったと思うし、バスケをやって立体のスペース、広い視野を持てるようになったと。日本は一つのスポーツだけをやることが多いのですが、そのあたりは変わっていけばいいなと思いますね。
ラグビーを通して一番学べたのは、仲間を大事にすること。 ラグビーはいろんな体型の人がいて、自分だけ好き放題やっていても勝てないスポーツ。 仲間がどんな気持ちでやっているか、感じているのかを考えるきっかけにもなりましたね。 また、ルールがある中でどう工夫して勝っていくかも大事なこと。ルールを破ると試合をする権利がないですから。 規律もスポーツから学びましたし、規律を破る人は上には来れないことも知りました。
スポーツをやっていたら、とにかく勝ちたいとなりがちですけど、“なぜ勝ちたいのか”という目的を明確にすることが大事だと思います。例えば「勝ってみんなで喜びたい」という目的を持てば、周囲のサポートしてくれている人にまで目がいくようになるんです。勝ち負けはコントロールできない分、勝ちだけを追い求めてしまうと負けが決まった時にチームがバラバラになってしまうかもしれない。でも、「仲間のために」という目的があったら、たとえ負けても最後まで諦めないだろうし、いいチーム、応援したいチームになると思います。
2012年から2015年は「日本代表を憧れの存在にしたい」という目的があって、そのために勝とうと。それは、僕の人生でまだまだ続いてますし、目的はなくならないんですよね。ただ、選手として勝って成し遂げるのは終わったので、これからは別の形でできることはないかと思って、ノーサイドゲーム(ドラマ)も頑張ったんです(笑)。僕は、 人生を表現する一つの手段がスポーツ だと思うんです。だから、アスリートじゃなくなった今は、違った立場でスポーツの素晴らしさを伝えていきたいなと。そういう軸を持っておくことが大切だと思います。スポーツは大事ですけど全てではないですから。
「バレーボールのおかげで仲間ができて、人生がすごく豊かになった」

元バレーボール女子日本代表 大山加奈
1984年6月19日生まれ、東京都出身。小中高すべての年代で全国制覇を経験。高校在学中の2001年に日本代表に初選出された。2010年に現役を引退し、現在はスポーツ・バレーボールの発展に力を注いでいる。
小さい頃は喘息がひどくて、身体が弱い子だったんです。身体を動かす経験もほとんどなかったから、運動に対しても苦手意識を持っていて。自分に自信が持てないし、ひっこみじあんで、人前で話すなんて信じられないくらいでしたね。年子の妹は、私とは真逆で、活発で明るく、スポーツもできるタイプ。妹と比較されることで、ネガティブにとらえたりもしてました。それが小3の時、得意なものを披露しようという学校の授業で、バレーボールクラブに入部していた友達とトスを50回披露することができたんです。先生もクラスメイトも褒めてくれて。バレーをやっていたら、みんなが褒めてくれる、認めてくれるというのがわかったきっかけでもありました。そのことが今でも忘れられないですし、バレーの道で生きていくって思いましたね。
私自身、小中高と全国制覇はしているのですが、 バレーをやってよかったと思うのは、日本一になったことではありません。一番は仲間ができたこと。バレーのおかげで自信を持つことができて、自分を出すことができるようになったし、人生がすごく豊かになった と思っています。それに、喘息が克服できて、健康な身体にもなりました。
バレーは、ボールを落としてはいけないという制約の中で、次の人がプレーしやすい状況を作らなくてはいけないスポーツ。だからこそ、思いやりの心や相手のことを自分の身になって考える力がついたと思います。 長く続けられたのは、自信を持てたというのが軸にあったのと、ミスへの免疫が身に付いたから です。1試合に何本もミスが起こる中で、それでも下を向かない力や、ミスを繰り返さないように考える力などがついて、失敗を恐れなくなりましたから。
勝つ経験はたくさんしているのですが、圧倒的に負けている経験のほうが多いんです。でも、負けから学ぶこと、得ることもたくさんあるし、「負けてくやしいから次頑張る」の積み重ねでやってこれたなって。結果ではなく、努力するうえで得たものが、競技を離れても長い人生で役に立っていく、財産として残ると、自分自身の経験から思っています。